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吸入麻酔薬はOLVによる炎症を抑制する~結果 [anesthesiology]

Anesthetic-induced Improvement of the Inflammatory Response to One-lung Ventilation

Anesthesiology 2009年6月号より

患者特性と手術適応
楔状切除、部分切除または肺葉切除が行われた患者54名が本研究の対象となった。術前に何らかの感染徴候が認められた患者は皆無であった。患者特性およびOLV時間以外の手術因子については両群間に差は認められなかった。プロポフォール群のOLV時間は140±76分、セボフルラン群では98±57分であった(P<0.05; table 1)。患者一名当たりに投与されたフェンタニルの量は、プロポフォール群0.2-4mg、セボフルラン群0.2-3.8mgで差はなかった。レミフェンタニル投与量についても差は認められなかった(0-5.1mg vs 0-4.7mg)。プロポフォール群では、晶質液400-3700mL、ハイドロキシエチルスターチ製剤0-1700mLが投与された。セボフルラン群ではそれぞれ、600-3400mL、0-1500mLであった。各輸液製剤の投与量の差はなかった。

OLV後に発現した炎症性メディエイタ量
両群とも、OLV後には炎症性メディエイタが増加した(OLV前後のBALF中の炎症性メディエイタ濃度の差から算出)。しかし、IL-1β以外の炎症性メディエイタ増加幅はプロポフォール群の方がセボフルラン群より有意に大きかった(P<0.05; table 2およびfigs. 2A-E)。

サイトカイン発現量はOLVが長引くほど増加した (figs. 3A-E)。TNF-α、IL-6、IL-8、MCP-1はOLV持続時間に比例して増加した。IL-1βも同様の変化を示したが、増加幅は小さかった。IL-1β以外の全サイトカインのOLV持続時間に応じた増加幅は、セボフルラン群の方が小さかった。プロポフォール群では、OLV約120分後まではサイトカインは直線的に増加し、120分間以上OLVが続くとその後は、増加の度合いがそれまでより大きくなり指数関数的に近い増え方をするという、おもしろい結果が得られた(figs. 3CおよびD)。セボフルラン群でも同じような結果が得られたが、プロポフォール群と比べると増加の程度はかなり小幅であった。

OLVに対する細胞応答
OLVを行うと、プロポフォール群、セボフルラン群ともに、BALF中の多形核白血球がおよそ10%増加することが分かった。炎症性メディエイタのうちIL-1β、IL-8、IL-6およびMCP-1の増加量と多形核白血球の集積度合いとのあいだには、プロポフォール群では有意な相関が認められるが、セボフルラン群では相関は認められない、という興味深い結果が得られた(OLV前後のBALF中好中球の割合の差から算出)。TNF-αについては両群とも、その発現量と好中球集積の度合いのあいだに相関は認められなかった(fig. 4A)。プロポフォール群では、IL-1β(r=0.281, P<0.05; fig. 4B)、IL-6(r=0.512, P<0.05; fig. 4C)およびIL-8(r=0.466, P<0.01; fig. 4D)の発現量と好中球集積の度合いに有意な相関が見られた。しかし、セボフルラン群ではいずれのメディエイタについても相関はなかった(IL-1β: r=0.024; IL-6: r=0.091; IL-8: r=0.116、いずれも有意差なし)。好中球走化性因子として知られているMCP-1発現量と好中球集積についても、いずれの群においても相関は認められなかった(プロポフォール群r=0.157、セボフルラン群r=0.009、いずれも有意差なし;fig. 4E)。プロポフォール群で相関が見られて、セボフルラン群では見られない項目があるのは、セボフルラン群の方がプロポフォール群よりも炎症反応が抑制されていることを示すものと考えられたが、両群とも相関が認められた項目については、相関度に統計学的に有意な差は認められなかった。

検出された炎症性メディエイタの生物学的意義を明らかにするため、OLV時間が同等の患者一名ずつをプロポフォール群とセボフルラン群から抽出しペアを6組作り、BALF検体を用いて走化活性の評価を行った。Figure 5に示した通り、好中球はプロポフォール群の患者から得たBALFの方向へ遊走することが分かった(fig. 5A)。Figures 5Bおよび5Cは、対照(DMEM/1%ウシ胎仔血漿)と走化性因子であるfMLP (N-formyl-methyl-leucyl-phenylalanine)を用いた好中球走化実験の結果である。

臨床評価
術前、POD1、POD3およびPOD5にCRPと白血球数を測定し、セボフルラン群とプロポフォール群とで炎症の程度を比較した。いずれの時点においても両群間において、CRPおよび白血球数の有意差は認められなかった(table 3)。Table 4に示した通り、POD 1におけるプロポフォール群のCRP値はOLV時間と有意な相関を示す一方で(r=0.419, P<0.05)、セボフルラン群では有意な相関は見られなかった(r=0.226)。

OLVによって全身性炎症反応が発生した可能性を検討するため、OLV開始前と終了直後の血漿炎症性メディエイタを測定士、その差を算出した。血漿TNF-α、IL-1βおよびIL-8は両時点とも検出されなかったが、IL-6およびMCP-1の血中濃度はOLV前と比べ、OLV終了後の方が増加していた。したがって、OLV後に増えていたIL-6およびMCP-1の、POD 1におけるCRP値との相関を調べた(table 5)。プロポフォール群では、血漿IL-6増加幅とPOD 1におけるCRP値とのあいだに有意な相関が認められた(r=0.459, P<0.05)。しかし、セボフルラン群では相関は見られなかった(r=0.324, NS)。同様に、MCP-1についても、プロポフォール群では有意な相関(r=0.535, P<0.05)があったものの、セボフルラン群ではなかった(r=0.166, NS)。

発生した有害事象をtable 6にまとめた。有害事象の全件数はプロポフォール群の方がセボフルラン群より有意に多かった(40件 vs 18件; P<0.05)。また、プロポフォール群の患者の方がICU滞在期間がセボフルラン群より有意に長かった(1.52±2.33日 vs 0.84±0.43日; P<0.05)(P値はOLV時間によって調整した)。

教訓 両群とも、OLV後には炎症性メディエイタが増加しました。増加幅はプロポフォール群の方がセボフルラン群より有意に大きいことが分かりました。OLVが長引くほどサイトカイン発現量は増えました。プロポフォール群では、OLV約120分後まではサイトカインは直線的に増加し、120分間以上OLVが続くとその後は、指数関数的に近い増え方をしました。セボフルラン群の方がプロポフォール群よりも、術後有害事象の発生件数が少なく、ICU滞在期間も短いという結果が得られました。
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