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ALI/ARDSにステロイドは効くか?~考察② [critical care]

Use of corticosteroids in acute lung injury and acute respiratory distress syndrome: A systematic review and meta-analysis .

Critical Care Medicine 2009年5月号より

研究レベルの特性を評価したところ、一考に値する知見が得られた。無作為化試験では、交差比較を行うと、副腎皮質ステロイドの効果を強調するようなバイアスが混入すると指摘されてきた。しかし、本研究では、交差比較を行った試験と行わなかった試験とで、副腎皮質ステロイドによるリスク軽減効果は同等であることが分かった。研究が行われた年も、結果を左右する重要な要素となると考えられた。ARDS Networkによる低一回換気量についての論文が発表されたのは2000年のことである。したがって、2000年を境に、低一回換気量による人工呼吸が広く実施されるようになったとすれば、ALI患者における肺の炎症がそれ以前よりも抑制されているはずである。すると、副腎皮質ステロイドをはじめとするあらゆる抗炎症作用物質の効果が、前景に出がたくなると推察される。だが、今回のメタ分析では、2000年以降に行われた研究で示された副腎皮質ステロイドの治療効果を2000年以前のものと比べても、有意な差は認められなかった。

患者レベルおよび研究レベルでの特性の違いについての以上の知見を検討する際は、慎重を期さなければならない。サブグループ解析およびメタ回帰分析を行ったおかげで、患者レベルおよび研究レベルでのばらつきが、総体としての治療効果に与えた影響が少ないことを明らかにすることができた。しかし、サブグループ解析もメタ回帰分析も、対象研究数が少なかったため、ばらつきが与える影響を見出すに足る検出力を備えていなかった可能性がある。例を挙げると、本研究で得られた漸減投与についての結果をそのまま鵜呑みにするべきではなく、炎症の再燃を避けるため、副腎皮質ステロイドは漸減投与してから中止すべきであるのかもしれない。

今回のレビューの問題点の一つは、無作為化試験の結果と非無作為化試験の結果をあわせて解析したことである。特に、死亡率については、ランダム要因モデルにおける重み付けが、RCTsよりコホート研究の方が大きかった(40.5% vs 59.5%)。つまり、合併推定値は、コホート研究の結果の方向にわずかながら偏っているのである。morbidityについては、コホート研究では副腎皮質ステロイドの効果があまり認められていない (Table 5)。したがって、morbidityに対する副腎皮質ステロイドの治療効果は、総体では実際より低く見積もられていると言える。もう一つの問題点は、必ずしもすべての対象研究で、有害事象(可能性のある事象も含む)がしっかりと観測されていたわけではないことである。もっと重大な問題点は、コルチコトロピン刺激試験に反応する例と反応しない例について、副腎皮質ステロイドの効果を比較検討することができなかったことである。コルチコトロピン刺激試験を行うと副腎機能不全の有無が分かり、副腎皮質ステロイド投与によって効果が得られる可能性の高い患者を見分けることができるが、大半の研究ではこの件についての情報は示されていなかった。副腎皮質ステロイドには幅広い全身作用がある。たとえば、血漿IL-6値、好中球数、CRPを低下させたり、ショックを改善したりする作用である。このような作用についてデータを提示していた研究はほとんどなかったので、合併推定値を得ることはできなかった。ALIの転帰には、今回取り沙汰したもの以外にも重要なものがある。肺機能障害の残存や、神経筋障害、認知機能障害および精神障害などである。これらについても今回は評価を行うことができなかった。大半の研究では、追跡調査期間が短く、このような長期転帰は評価対象ではなかったからである。その他の変量(例;換気モード、離脱プロトコル、集中治療の質と量)も、死亡率/morbidiityに影響を与えたかもしれないし、こういう要素を含む管理全体がしっかり行われていないと、ステロイドを投与しても効果は得られないのかもしれない。しかし、今回のメタ分析では、他の変量の影響を評価できるだけのデータは得られなかった。

今後行われる臨床試験の設計に、本研究の知見が大きく関わるだろう。副腎皮質ステロイドの使用法には大きなばらつきがあることを踏まえると、将来行われるべき無作為化試験では、標準的な投与法の確立を目指すべきである。標準的な投与法を決めるにあたり必要な要素は、(1)投与のタイミング (2)投与量 (3)投与期間 (4)漸減投与の期間 の4点である。さらに、患者登録に際しては、コルチコトロピン刺激試験反応群と非反応群に分けて副腎皮質ステロイドの効果を見定められるよう、患者を層別化すべきである。

まとめ
少量副腎皮質ステロイド投与は、死亡率およびmorbidityの改善につながることが明らかになった。副作用は許容範囲内である。本研究の対象となった無作為化試験およびコホート研究では、副腎皮質ステロイドの治療効果が一貫して認められていた。したがって、副腎皮質ステロイドはALI/ARDSに有効であると考えられる。しかし、十分な検出力を備えた無作為化試験をあらためて行い、本研究の知見を確認する必要がある。

教訓 ステロイドはALI/ARDSに効くみたいです。でも、適切な投与方法(タイミング、量、期間など)はまだ確立されていません。コルチコトロピン刺激試験に反応しない患者でも本当に効果があるのかどうかを明らかにするのが、今後の課題の一つです。

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