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ALI/ARDSにステロイドは効くか?~考察① [critical care]

Use of corticosteroids in acute lung injury and acute respiratory distress syndrome: A systematic review and meta-analysis .

Critical Care Medicine 2009年5月号より

ALI患者に副腎皮質ステロイドを投与すると、死亡リスクが低減し、morbidityの改善が得られる。死亡率低下効果は、無作為化試験においても、コホート研究においても、一貫して認められた。治療効果が得られても、それとともに感染や神経筋障害などの大きな有害事象が増えるわけではないことが分かったのが、大きな収穫である。

重症患者に見られる臓器障害のうち最もよくあるのが、急性呼吸不全である。その原因の四分の一をALIが占めている。今後、ALIの有病率が世界規模で上昇すると見込まれている。ALIは致死率の高い重症疾患であるのだが、決め手となるような薬物療法は、現時点ではまだ確立されていない。副腎皮質ステロイドはALIの治療薬候補として、もっぱらの研究対象となってきた。しかし、今までに行われた無作為化試験は、いずれも標本サイズが小さく、副腎皮質ステロイドの有効性は、十分に裏付けられているとは言えない。したがって、本研究では、無作為化試験と非無作為化試験のデータを併せて検討した。標本サイズを大きくした結果、副腎皮質ステロイド投与による、死亡率の有意な低下を認めるに至った。そして、副腎皮質ステロイドを使用しなかった場合と比較し、死亡数を一例減らすのに必要な入院患者数は4名(95%CI 2.4-10)であることが明らかになった。ステロイドがALIにきわめて有効であることの証左である。

メタ分析において、無作為化試験とコホート研究を合体させる方法には、利点も欠点もある。利点は、対象研究数が増え、標本サイズが大きくなるので、第二種の過誤を減らせることである。特に、主要転帰項目(つまり、死亡率)については、この利点が強く作用する。欠点は、コホート研究では、調整されていない変量が結果に影響を与える可能性があることである。実際、副次転帰項目に関するコホート研究の結果は、無作為化研究とは、統計学的に有意に異なっていた(Table 5)。しかし、副次転帰項目については、無作為化研究の重み付けを大きくしたことに着目してもらいたい(ランダム要因モデルにおける無作為化試験の重み付け;人工呼吸器使用期間71.2%、ICU滞在期間67.5%、MODSスコア72.1%、肺傷害スコア63.6%、PaO2/FIO2比68.8%)。したがって、morbidityの総合評価は主にRCTsの結果に依拠したと言える。

このメタ分析の対象論文間のばらつきは、大きかった。ばらつきは主に、治療効果の大きさの違いや、場合によっては治療効果の有無によって生じていた。そもそもはじめから、ばらつきがあるであろうことは予測していたので、すべての解析にランダム要因モデルを適用した。ランダム要因モデルでは、患者レベルおよび研究レベルでの特性が異なることに起因し、治療効果にばらつきが生ずると仮定する。そのばらつきを数学的に表現すると、研究の一つ一つに内在する差と、研究間の差ということになる。したがって、ランダム要因モデルを用いると、研究間のばらつきを勘定に入れた評価ができるのである。

ステロイドの治療効果に影響を及ぼす患者特性が、いくつか想定されてきたが、今回のメタ分析では確認されなかった。少量副腎皮質ステロイド投与によって敗血症患者の死亡率が低下することが、2編のメタ分析で明らかにされている。したがって、ALIに対する副腎皮質ステロイドの治療効果には、敗血症に対する効果が一部寄与していたのかもしれない。しかし、本研究では、敗血症患者が占める割合と、副腎皮質ステロイドの治療効果の度合いの間には関連性は認められていない。事実、つい最近終了したHydrocortisone Therapy for Patients with Septic Shock研究では、副腎皮質ステロイドを投与しても敗血症性ショック患者(ほとんどが術後)の死亡率は低下しないことが明らかにされている。また、副腎皮質ステロイドをALI症例に使用する場合、その適切な投与時期は前々からよく分かっていない。晩期になり線維化が起こってしまったら、副腎皮質ステロイドの効果は得られないのではないか、という意見がある。その上、ALI発症2週間後以降に副腎皮質ステロイドの投与を開始すると、かえって死亡リスクが増大する可能性も示唆されている。ただし、この研究では、投与開始前の諸要素を調整したところ、死亡率の有意差はなくなるという結果が得られている。翻って、我々の実施したメタ分析では、副腎皮質ステロイドによる死亡率低下効果は、投与のタイミングによって左右されるわけではないことが明らかになった。また、副腎皮質ステロイドの投与を、漸減投与を経ずにいきなり中止すると、炎症が再燃し、せっかくのステロイドの効果が打ち消されてしまう可能性が懸念されている。本研究では、治療終了後に漸減投与をしてもしなくても、副腎皮質ステロイドの効果は変わらないという結果が得られた。しかし、動物実験および臨床研究が示す豊富なデータによれば、副腎皮質ステロイドを急に中止すると炎症が再燃し、生理学的にも状態が悪化することが明らかにされている。

教訓 ALI/ARDSに対するステロイドの効果は、敗血症に対する効果を経由して発揮されるのでは?という可能性が考えられますが、この研究では、敗血症患者が占める割合と、副腎皮質ステロイドの治療効果の度合いの間には関連性は認められませんでした。Hydrocortisone Therapy for Patients with Septic Shockでは、副腎皮質ステロイドを投与しても敗血症性ショック患者の死亡率は低下しないことが明らかにされています。また、ARDS晩期になり線維化が起こってしまったら、副腎皮質ステロイドの効果は得られないのではないか、という意見がありますが、このメタ分析では、副腎皮質ステロイドによる死亡率低下効果は、投与のタイミングによって左右されるわけではないという結果が得られました。

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