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ALI/ARDSにステロイドは効くか?~方法 [critical care]

Use of corticosteroids in acute lung injury and acute respiratory distress syndrome: A systematic review and meta-analysis .

Critical Care Medicine 2009年5月号より

急性肺傷害(ALI)は人々の健康に大きな影を投げかけている。ALIの院内死亡率は非常に高く38%から50%に達し、またmorbidityも高い。米国だけでも、ALIによる死亡数は年間74500例にものぼり、乳がんやHIVによる死亡数をはるかに上回っている。死亡を免れたにしても、自宅退院できるほどの元気を取り戻せるのは、生存者のうちわずか34%に過ぎない。今後25年間で高齢化が進み、ALIの年間発生率は2倍に上昇するものと見込まれている。したがって、集中治療やリハビリの提供および医療資源分配の方針を練る上で、有効な治療法の開発の成否が大きく関わってくる。

ALIの特徴は、肺炎、敗血症や外傷が引き金となって宿主体内で発生した、激しい炎症反応による肺実質の傷害である。副腎皮質ステロイドには抗炎症作用があるので、ALIに対する有効性が期待され、数々の研究が進められてきた。当初は、副腎皮質ステロイドの大量短期間投与が行われその効果が検証されたが、生存率の改善は得られないことが明らかにされた。最近では、少量から中等量の副腎皮質ステロイドを、先行する諸研究よりも長い期間にわたり投与する方法の研究が行われ、死亡率および合併症発生率の低下が示された。しかし、副腎皮質ステロイド投与によって、ARDSの死亡率低下効果が得られたとする当初の研究結果は、それ以降に行われた多施設試験では確認されていない。そのため、副腎皮質ステロイドのALI/ARDSに対する有効性については、賛否両論の状態が続いている。また、近年発表された3編のメタ分析も、それぞれが相反する結論を示しており、この混迷をさらに深める原因となっている。

いくつかの問題が、現時点では未解決である。第一に、少量~中等量の副腎皮質ステロイドによって死亡率およびmorbidityが改善するかどうかは不明である。最近のメタ分析にはいずれも問題がある。具体的には、大量ステロイド投与の研究を対象として含んでいないことや、俎上に挙げるべき重要な転帰を漏らすことなく評価することができていない、といった点である。第二に、臨床医の間では、副腎皮質ステロイドの副作用に関する懸念が示されている。特に、感染および神経筋合併症が、憂慮されている。この点についても、メタ分析では、しっかりした検証は行われていない。第三に、副腎皮質ステロイドの最適な投与法は、まったく分かっていない。投与量や投与期間などの重要な要素が、副腎皮質ステロイドの有効性をどのように左右するのかは、明かでない。

我々は以上の問題を解決すべく体系的レビューと定量的データ合成を実施した。先行するメタ分析では取りこぼされていた研究も対象とし、死亡率および合併症発生率に関係する全ての転帰項目について評価を行ったことが、本レビューの特筆すべき点である。さらに、少量~中等量副腎皮質ステロイドの副作用についても総合的な評価を行った。加えて、サブグループ解析およびメタ回帰分析を行い、投与量、投与期間および投与開始時期といった臨床的に重要な変数によって、副腎皮質ステロイドの効果が左右されるかどうかを検証した。以上を踏まえると、ALIに対する副腎皮質ステロイドの治療効果についてのレビューとして、本研究は現時点では最も網羅的なレビューである。

方法

検索方法と選択基準
電子データベース(MEDLINE、EMBASE、Current Content、Database of Abstracts of Reviews of Effects、Cochrane Central Register of Controlled Trials、およびCochrane Database of Systematic Reviews)を用い、1967年1月から2007年9月に出版されたALIおよびARDSに関する論文を、書かれた言語を限定せずに検索した。無作為化試験の数は限られていて、その上、統計学的検出力が低いものが大半を占めていたので、無作為化試験でない研究も対象にした。また、ALIの重症型であるARDS症例のみについての研究も対象とした。

題名または本文に以下の単語がある論文を検索した:1)ALI; 2)ARDS; 3)急性呼吸不全(acute respiratory failure)。これによって得られた論文の参照論文についても検索した。

以下の条件に当てはまるコホート研究および無作為化試験を対象にした。1)副腎皮質ステロイドの少量投与(メチルプレドニゾロンまたはその他の製剤[メチルプレドニゾロン換算で] 0.5-2.5mg/kg/day投与)。 2)ALIまたはARDS患者が対象。 3) 18歳以上が対象。本レビューの主要転帰項目は院内死亡率とした。副次転帰項目は、人工呼吸器使用期間、ICU滞在期間、MODSスコア、肺傷害スコア、PaO2/FIO2比とした。有害事象に関わる転帰データとしては、感染、神経筋合併症、消化管出血および高血糖を対象にした。その他の合併症(不整脈、精神障害、臓器不全など)についてのデータも、記載があれば収集した。

重複論文、対照群が設定されていないもの、副腎皮質ステロイドを大量投与しているもの(例;メチルプレドニゾロンまたはその他の製剤[メチルプレドニゾロン換算] 30mg/kg/day投与)、カリニ肺炎や特発性肺線維症などの別の全身性炎症性疾患がある患者を対象にしているものは除外した。

データ抽出
二人の研究者が別々にデータを抽出した。結果が一致しない場合は、話し合いの上、合意を形成した。抽出した情報は、発行年、研究が行われた国、研究の臨床的背景、研究期間、対象患者の人口統計学的データ、標本数、敗血症患者が占める割合、副腎皮質ステロイドの種類と投与量、ALIの診断から副腎皮質ステロイドの投与開始までの期間、ARDSの病期(早期か晩期か)、投与期間終了後の副腎皮質ステロイド漸減投与の有無、重症度指標(P/F比やAPACHEⅡスコア)である。

質の評価
各研究で採用されている手法の質を、4項目からなるチェックリストを用いて評価した。無作為化試験は、Cochrane Collaborationガイドラインの基準に則って評価した。コホート研究は、Health Technology Assessment Programガイドラインに基づいて評価した。

教訓 少量~中等量の副腎皮質ステロイドによってALI/ARDSの死亡率およびmorbidityが改善するかどうかは不明です。副腎皮質ステロイドが有効であったとしても、副作用(特に、感染や神経筋合併症)とトレードオフしてしまうのではないかと懸念されています。ALI/ARDSに対する副腎皮質ステロイドの最適な投与法(投与のタイミング、投与量、投与期間)は、分かっていません。
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