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NICE-SUGAR :血糖値は180mg/dL未満で~考察 [critical care]

Intensive versus Conventional Glucose Control in Critically Ill Patients The NICE-SUGAR Study Investigators

NEJM 2009年3月26日号より

考察
成人ICU患者を対象にしたこの度の大規模国際無作為化比較対照試験では、通常の血糖管理と比較し、強化血糖管理を行うと90日後死亡率が絶対値で2.6%ポイント上昇することが明らかになった。Number needed to harmは38であった。交絡因子となる可能性がある因子について調整しても死亡率の差は有意であった。強化血糖管理群では重度の低血糖がより多く発生した。

今回の試験を行うにあたって、内的妥当性および外的妥当性を十分保持するため、無作為化に先だって割り当て治療群を秘匿し、バイアスが入る余地のない長期転帰を設定し、臨床的に重要な多くの転帰についても評価を行い、ほぼ全例で追跡調査を完遂し、事前に決めた統計解析計画にしっかり従った。血糖は標準化された方法で管理し、ほぼすべての患者が割り当てられた治療群の管理法を実施された。90日の研究機関における平均血糖値には二群間に有意差が認められ、過去に行われた同様の試験よりも重度の低血糖の発生率は低かった。

本研究の問題点は、対象患者を決定する基準が主観的な条件(予測されるICU滞在期間)であったこと、治療に関わるスタッフと研究関係者に割り当て群を秘匿することが不可能なこと、そして強化管理群の患者のうち相当数において目標血糖値よりもやや高かったことである。我々は、血糖管理の生物学的メカニズムを明らかにすることを目的としたデータや費用についての情報は収集しなかった。事前に決めた2群からなるサブグループの解析結果を踏まえると、特定の背景を持った患者群において強化血糖管理が有効であるという可能性は否定できない。

2008年に発表されたメタ分析では、成人重症患者では強化血糖管理を行っても死亡率に有意な変化は見られないとされているが、それとは異なる結果を我々は得た。メタ分析の対象となった試験と同様に、今回の研究で強化血糖管理群に割り当てられた患者は通常管理群の患者と比較し、血糖値が低く、インスリン使用量が多く、重度低血糖発生数が多かった。本研究の特徴は、コンピュータで中央サーバにアクセスすると治療アルゴリズムが利用できるようにし、標準化された複雑な血糖管理法を複数の施設で同じように実施した点である。また、主に経腸栄養が行われており、現在の栄養ガイドラインに準拠したエビデンスに基づいた栄養管理が行われていた。対照的に、メタ分析の対象患者の多くでは主に経静脈的に栄養が投与されていた。

今回の研究は、過去に行われた同様の試験よりも統計的検出力の点で優り、本研究よりも長い追跡期間を設定していたのはメタ分析の対象となった研究のうち2編のみであった。したがって、我々が得た結果の原因を、今回採用した治療アルゴリズムの特異的な影響に求めることもできよう。また、経腸栄養主体の患者にはよく当てはまるが、そうでなければ必ずしも当てはまらない可能性もある。そして、今回の結果は、追跡期間が短い試験や検出力が低い試験では明らかにならなかった有害作用を反映しているのかもしれない。

本研究では、副腎皮質ステロイドが使用された患者数は強化管理群の方が通常管理群よりも多く、強化管理群の方が循環器疾患による死亡が多かった。したがって、インスリンを使用して血糖値を下げると循環器系に有害作用を及ぼす可能性があると考えられる。しかし、今回の研究はそのような因果関係を検証することを企図したものではないため、なぜ強化管理群の方が死亡率が高いのかを明らかにするにはさらに研究を重ねる必要がある。

Van den Bergheらが血糖管理についての研究の先鞭をつけてからというもの、血糖値を正常範囲内に維持すると有益であるという信憑が広まり、強化血糖管理が推奨されてきた。医学の他の分野で指摘されている通り、危険因子(ここでは高血糖)である可能性のある事象を対象とした臨床研究は、当の危険因子(ここでは血糖値)に対する効果を凌駕するような影響を及ぼしかねない複雑な試験手法の評価に陥ってしまうことがある。今回我々が得た知見から、血糖値を正常範囲内に管理することは必ずしも重症患者にとっては有益ではなく、むしろ有害である可能性があることが分かった。本研究で観察された強化血糖管理による死亡率の上昇が、血糖値を下げたことによるものなのか、インスリン投与量が多かったせいなのか、低血糖の発生によるものなのか、本研究で採用した方法に起因するものなのか、それともその他の理由のためなのか、いずれが当てはまるのかはよく分からない。

まとめ
血糖目標値を180mg/dL未満にした方が、81~108mg/dLにするよりも死亡率が低かった。本研究で得られた結果から、成人重症患者では強化血糖管理(血糖値81~108mg/dL)を推奨することはできない。

教訓 強化血糖管理(血糖値81~108mg/dL)を行うと180mg/dL未満を目標にしたときより死亡率が上昇します。その原因として考えられるのは、①インスリン投与量が多い、②低血糖の発生が増える、③本研究の方法に特異的な要因、④その他の理由、です。いずれが本当の原因なのかはまだ分かりません。

コメント(2) 

コメント 2

ぶりぶり

過ぎたるは及ばざるがごとし。
血糖が管理適当でいいというのではりませんね。
臨床どっぷりの我々においては、場合によっては強化インスリン療法がいいだろうという、勘を働かせたいものですな。
by ぶりぶり (2009-04-09 12:34) 

vril

遠き慮り無くんば、必ず近きに憂いあり (論語 衛霊公篇より)

ぶりぶり先生の仰るとおり、NICE-SUGARでは、外傷患者(P=0.07)と副腎皮質ステロイド常用患者(P=0.06)では強化管理をした方が転帰が良くなる傾向が認められています。

外傷とステロイド常用症例では、血糖を比較的しっかり管理することにします。

by vril (2009-04-09 13:39) 

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