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ALI/ARDS肺の応力と歪み~結果 [critical care]

Lung Stress and Strain during Mechanical Ventilation for Acute Respiratory Distress Syndrome

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2008年8月15日号より

結果
詳細な結果はオンライン付録参照のこと。

対象患者
Table 2に基準時点における患者背景を示した。4群の人口統計学的特性は類似していた。ARDS群の患者は、他の群の患者よりもガス交換能が不良であった。第1群から第4群へと肺傷害の程度が悪化するのに応じて、人工呼吸器設定がよりシビアなものとなっていた。Table 3に基準時点における各群の呼吸器系メカニクスを表す各指標のうち、肺傷害の程度による違いの大きいものを示した。もっとも肺傷害が軽い患者群(予定手術群)からARDSが完成した患者群へと肺傷害が進むにしたがい、呼吸器系エラスタンス、FRC、予測FRCに対する実測FRCの比および、予測全肺気量に対するFRCの比が低下する傾向が認められた。

PEEP試験
Figure 3に圧容量曲線(V/P曲線)およびΔV/ΔPL曲線の典型例を示した。圧を呼吸器系全体の圧とした場合および肺の圧とした場合のそれぞれの圧容量曲線を指数関数とみて近似したところ、下向きに凹の曲線を示したのはALI/ARDS患者群の21%であり、対して対照群では13.3%であった(P=0.31)。線型であったのはALI/ARDS群30%、対照群20%であった(P=0.23)。上向きに凹であったのはALI/ARDS群49%、対照群67%であった(P=0.04)。線型近似も良好に成り立ち、ALI/ARDS群の75%、対照群の78%で、R2>0.95であった。

PEEP試験中の呼吸器系メカニクスをTable 4にまとめた。表に示すとおり、第1群から第4群へと肺傷害が悪化するにつれ、また、PEEPまたはVT IBWが増大するにつれ、プラトー圧が有意に上昇した。肺エラスタンス(EL)および胸壁エラスタンス(ECW)も、肺傷害の悪化およびPEEP上昇と軌を一にして有意に上昇した。しかし、VT IBWが増えたり減ったりしてもELおよびECWは変化しなかった。

応力の発生
プラトー圧とそれに対応する経肺圧変化(応力と等しい)の関係は次の式で表される。

ΔPL(stress)=ΔPaw×EL / (EL+ ECW)  (式3)

つまり、ΔPL / ΔPawは、呼吸器系エラスタンス(EL+ ECW)に対する肺エラスタンスの比と等しく、胸壁と肺をあわせた呼吸器系全体をふくらませるのに必要な圧に対する、肺をふくらませるのに必要な圧の比であると言える。Figure 4に1から4群の各患者のPEEP試験中(PEEP 5または15+VT IBW6、8、10、12mL/kg)のΔPLとプラトー圧(ΔPaw)をプロットしたグラフを示す。ALI/ARDS患者の方が対照群患者よりもΔPLとΔPawが高かった(Table 4 & Table 5)。各群のΔPL / ΔPawの傾き、つまりEL / (EL+ ECW)の傾きは、4群とも同等で差はなかった:術後患者(対照)0.69±0.15、内科系患者(対照)0.74±0.16、ALI患者0.71±0.16、ARDS患者0.71±0.16 (P=0.26)。一方、EL / (EL+ ECW)は、肺外要因によるARDS群と比較し肺要因によるARDS群の方が有意に大きく(P=0.01)、肺および胸壁エラスタンスは病因によって有意に異なることが分かった。

歪み(ひずみ)の発生
第1群から第4群へと肺傷害が悪化するにつれ、また、PEEPまたはVT IBWが増大するにつれ、肺全体の歪みは有意に増大した(Table 5)。群間の比較でも、対照群と比較しALI/ARDS群の方が歪みが有意に大きかった。対照群からARDS群へと肺傷害がひどくなるのに呼応し、FRCは減少した(Table 3)。しかし、同一PEEP&VT IBWにおける歪みは、同一群内でも大きくばらつくという注目すべき結果が得られた(Figure 6)。このばらつきはFRCの差が反映されたものであり、応力についても同様の結果が認められている(Figure 5)。今回の実験では、筋弛緩下で各測定を行ったのだが、ALI/ARDS患者についても対照患者についても、FRCと年齢、身長または体重のあいだに相関は見出されなかった。

応力-歪み関係
Table 5に示したように、PEEP試験中の肺応力は、PEEPまたはVT IBWが増えるにしたがい大きくなった。また同じPEEPとVT IBWの組合せであっても、第1群から第4群へと肺傷害が悪化するにつれ応力が増大した。一方、歪みに対する応力の比、つまり特異的肺エラスタンスは、各群を通じて同等で、PEEP試験中にも変化は認められなかった。Figure 7は応力と歪みをプロットしたグラフであり、対照群とALI/ARDS群がほぼ同じ直線上にのっていることが分かる。全4群についてそれぞれこの直線の傾きの値を求めたところ、スーパーシリンジで得た特異的肺エラスタンスの値とよく一致した:術後患者群(対照)傾き13.3±4.9cmH2O vs スーパーシリンジ13.4±3.4 cmH2O (P=0.91)、内科患者群(対照)傾き12.8±5.4cmH2O vs スーパーシリンジ12.6±3.0 cmH2O (P=0.83)、ALI患者群  傾き13.8±4.5cmH2O vs スーパーシリンジ14.4±3.46cmH2O (P=0.26)、ARDS患者群 傾き13.7±7.0cmH2O vs スーパーシリンジ13.5±4.1 cmH2O (P=0.83)。ALI/ARDSの原因や実験以前の人工呼吸期間と、特異的肺エラスタンスのあいだには相関は認められなかった。

肺の歪みとリクルートメント
歪みをΔV/FRCとみなすには、吸気終末、呼気終末ともに肺胞が開存していなければならない。吸気終末に、それまで虚脱していた部分が新たに拡張すれば(リクルートされれば)、虚脱したままの場合よりも歪みは小さくなる。なぜなら、歪みの大きさがより多くの肺胞で負担されることになるからである(オンライン付録Figure E2参照)。今回用いたモデル(オンライン付録参照)では、リクルートされた肺胞は、はじめから開存していたものとみなすことになっていた。このモデルを用いて、ALI/ARDS患者においてリクルートメント(FRCの0%から50%)を行い、それが歪みを低下させるかどうかを評価した。Figure 8がその結果である。この図に示すとおり、ΔPL が高いほどリクルートメントの効果が高く、ΔPL が低下するとそれにつれリクルートメント効果も小さくなった。(つづく)

教訓 特異的肺エラスタンスは、肺傷害の程度が違っても、PEEPや一回換気量設定が異なっても、一定でした。

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