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消化管除菌と口腔咽頭除菌~方法 [critical care]

Decontamination of the Digestive Tract and Oropharynx in ICU Patients

NEJM 2009年1月1日号より

ICUで発生する感染症は、重症患者治療における重大な合併症の一つである。感染が起こると、死亡率が上昇し医療費も増大する。選択的消化管除菌(SDD)や選択的口腔咽頭除菌(SOD)などの抗菌薬予防投与によって、呼吸器感染症の発生率が低下する。

SDDの目的は三つあり、グラム陰性菌、黄色ブドウ球菌もしくは真菌の二次定着の予防、気道常在菌による感染の先行治療、腸管内の嫌気性細菌叢の維持である。口腔咽頭内や腸管内に非吸収性抗菌薬を投与すると二次定着を予防することができる。ICU入室後4日間セファロスポリンを全身投与すると、気道常在菌を除菌することができる。嫌気性菌に対する抗菌作用のない抗菌薬を選択的に使用(全身的投与および局所投与)すると腸管細菌叢を維持することができる。SDDには感染を減らす効果があるというものの、大多数のSDD研究では検出力不足のため生存率の改善を示す結果を得るには至っていない。メタ分析および3編の単一施設における無作為化対照試験では、短期間の抗菌薬全身投与を併用したSDDで生存率が改善するという結果が示されている。

SOD(口腔咽頭にのみ抗菌薬を局所投与)は、SDDに代わる人工呼吸器関連肺炎(VAP)予防策として提唱されてきた。VAP発症には口腔咽頭内の細菌定着が強く関わることが分かっているし、SODにはSDDと同等のVAP予防効果があることが示されているのだが、両者の直接比較が必要である。単一施設研究には結果を一般に適応できる可能性が限られているし、抗菌薬を予防投与すれば耐性菌の発生が憂慮されるため、SDDやSODのルーチーン実施には賛否両論があり、国際的ガイドラインでは推奨はされていない。

方法

2004年5月から2006年7月にかけて13ヶ所のICUで、クラスタ無作為化比較対照交叉試験を実施した。研究に参加したICUは、それぞれ規模や教育機関であるか否かなどが異なり、オランダにおける集中治療を総体として反映するような取り合わせであった。評価対象となった治療法はICUの細菌生態を変化させるため、患者ごとの無作為化割り当てを行うと、ある割り当て群に属する患者の治療法が、他の割り当て群に属する患者の治療法に影響を及ぼす可能性がある。そのため、クラスタ無作為化を行うことにした。各施設において三種の研究対象治療法(SDD, SODおよび従来法)をそれぞれ6ヶ月ずつ無作為に割り当てられた順番で対象患者全員に実施した。各施設に特異的な要因を調整するため、交叉試験を行った。

ICU入室患者のうち、人工呼吸管理を48時間以上要すると予測される患者とICU滞在が72時間以上になると予測される患者を対象とした。妊婦および研究で用いる抗菌薬にアレルギーのあることが分かっている患者は除外した。

患者登録率をICUごと、研究機関ごとに調査した。研究メンバーの看護師が各施設を定期的に訪問し(一研究期間中に少なくとも2回)、患者登録の状況を評価した。

SDDの内容は、セフォタキシム静脈内投与4日間とトブラマイシン+コリスチン+アムフォテリシンB口腔咽頭および胃内局所投与とした(Jongeらの方法と同じ)。嫌気性菌に対する抗菌作用のある抗菌薬(アモキシシリン、ペニシリン、アモキシシリン-クラブラン酸、カルバペネムなど)の使用は、SDD実施期間中は禁じられた。気管内採痰、直腸擦過検体、咽頭擦過検体の監視培養を入室時に行い、その後は週二回実施した。

SODの内容は、SDDと同じ組成の抗菌薬ペーストの口腔咽頭内塗布とした。気管内採痰と咽頭擦過検体の監視培養を入室時に行い、その後は週二回実施した。SOD期間には、全身投与する抗菌薬については特に制限を設けなかった。従来法の期間には、監視培養は行わず、全身投与する抗菌薬については特に制限を設けなかった。

毎月第三火曜日に、耐性菌の調査を実施した。直腸擦過検体および気管内採痰または咽頭擦過検体を、全ICU患者(研究登録の有無を問わない)から採取し関し培養を行った。培養結果をもとに、特異的な耐性菌出現パターンの有無を評価した。

全施設において、研究期間中には感染予防対策を変更しなかった。

主要評価項目は28日後死亡率とした。副次評価項目は、院内死亡率、耐性菌発生率、人工呼吸期間、ICU滞在期間、入院期間とした。(つづく)

教訓 ほとんどのSDD研究では生存率の改善は示されていません。数は少ないのですが、メタ分析および単一施設研究では、短期間の抗菌薬全身投与を併用したSDDで生存率が改善するという結果が得られているものもあります。 
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