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食道内圧を指標としたALI/ARDSの人工呼吸管理~緒言と方法 [critical care]

NEJM 2008年11月13日号より

Mechanical Ventilation Guided by Esophageal Pressure in Acute Lung Injury

近年、人工呼吸管理の進歩によりARDS患者の生存率が以前よりは向上してきてはいるが、それでも死亡率は依然として許容しがたいほど高い。低一回換気量による人工呼吸管理がARDS症例の管理に有用であることは明白であるが、PEEPの適切な設定法についてはまだ明らかにされていない。理想的な人工呼吸とは、十分に適切な肺内外圧差(transpulmonary pressure=気道内圧-胸腔内圧)を生じさせ、酸素化を維持するとともに断続的な肺胞虚脱や過膨張を最小限にとどめるような換気である。しかし、重症患者では腹腔内圧および胸腔内圧の個人差が大きい。したがって一定の決められたPEEPを用いると、患者間で肺内外圧差に大きなばらつきが生ずる可能性がある。我々は、食道バルーンカテーテルを用いて胸腔内圧を概測した。この方法は健康なヒトや動物を対象とした実験ではその確からしさが証明されているが、集中治療を受ける患者においては詳細な研究が行われたことはない。我々は、各患者の肺および胸壁メカニクスに応じてPEEPを調整する筋道があると考えた。概測胸腔内圧が高い患者に従来の換気方式による人工呼吸を行うと、十分な肺胞の開存が得られず低酸素血症に陥る可能性がある。そのような場合、PEEP値を上げ、肺内外圧差を適切に維持することによって過膨張を防ぎつつ肺胞の開存と酸素化を改善することができる可能性がある。翻って、胸腔内圧が低い患者の場合には低いPEEP値によって肺内外圧差を上げないようにすれば、過膨張を防ぐとともに高いPEEPによる血行動態に対する悪影響を抑えることができるであろう。今回、ALI(急性肺傷害)またはARDS(急性呼吸窮迫症候群)の患者を対象とした無作為化比較対照パイロット研究の結果を報告する。本研究では、食道内圧測定に基づいた人工呼吸管理と、ARDSNet推奨の人工呼吸管理を比較し、肺内外圧差(訳注;肺内外圧差はかなり大雑把に言うと肺胞内圧のことです)を陽圧にするようにPEEPを調節することによって酸素化が改善するという仮説を検証した。

方法
対象患者
Beth Israel Medical Center (Boston, MA)の内科系および外科系ICUで研究を実施した。アメリカ-欧州合意会議のALIまたはARDS診断基準を満たした患者を対象とした。食道疾患、気管支胸膜瘻、臓器移植後の患者は除外した。

測定および実験プロトコル
体位は仰臥位、30°の頭高位とした。気道内圧、一回換気量、吸気流量を記録した。食道バルーンカテーテルを切歯から60cmのところまで挿入し胃内圧を測定した後に、カテーテルを40cmのところまで引き戻して食道内圧を測定した。腹部を軽く圧迫すると圧が同時に変化することをもってカテーテル先端が胃内にあることを確認した。約三分の一の患者ではカテーテルを胃内に到達させることができなかったため、cardiac artifactと換気サイクルに伴う圧の変動によってカテーテルが食道内にあることを確認した。呼気二酸化炭素分圧を測定し生理的死腔の算出に用いた。以上の初期測定の後に、患者を対照群または食道内圧準拠群に無作為に割り当てた。すべての患者に深い鎮静または筋弛緩下でリクルートメント手技(気道内圧40cmH2O×30秒)を実施した。ただし、40cmH2Oの気道内圧では肺内外圧差が大きくなりすぎる症例では、肺内外圧差が<25cmH2Oを保つようにより低い圧でリクルートメントを行った。リクルートメント手技の後に割り当てられた人工呼吸管理を開始した。

食道内圧準拠群の患者は、食道内圧初回測定値に基づいて人工呼吸器を設定した。一回換気量は6mL/kg(予測体重)とした。予測体重は、男性は50+0.91×(身長cm-152.4)kg、女性は45.5+0.91×(身長cm-152.4)kgの計算式で算出した。PaO2およびFIO2に応じた呼気終末の肺内外圧差の目標値(0-10cmH2O)が得られるようにとなるようにPEEP値を設定した。また、吸気終末の肺内外圧差が25cmH2O未満となるように一回換気量を調節することにしたが、実際に行われた例はほとんどなく、またこの目的のために一回換気量を減らした症例は皆無であった。

対照群ではARDSNetが報告した低一回換気量の人工呼吸管理が行われた。この管理法では、一回換気量を6mL/kgとし、PEEPは患者のPaO2およびFIO2に応じて一意的に決定される。

両群とも人工呼吸管理の目標は、PaO2 55-120mmHgまたはSpO2 88-98%、動脈血pH7.30-7.45、PaCO2 40-60mmHgとした。人工呼吸器設定を頻繁に変更しなくてもよいように、PaO2目標値をARDSNet55-80mmHg)よりも広くとった。人工呼吸器を以上のように設定し、5分後、24時間後、48時間後、72時間後に前述の項目の測定を行った。臨床的に有意な変化が患者に認められた際には人工呼吸器設定を変更し、同様に測定を行った。人工呼吸以外の治療は、割当群を関知しない集中治療医が実施した。血行動態管理、鎮静、人工呼吸器離脱およびその他の人工呼吸に関連する一般的治療・手技はプロトコルに基づいて行われた。主要評価項目は、無作為化割当72時間後のP/F比(PaO2/FIO2)とした。副次評価項目は、肺メカニクスとガス交換の指標(呼吸器系コンプライアンス、生理的死腔/一回換気量比[VD/VT])と患者転帰(28日後における人工呼吸器非装着日数、ICU滞在期間、割当後28および180日以内の死亡)とした。(つづく)

教訓 食道内圧を胸腔内圧と見なすには以下のような条件を仮定しなければなりません。①食道が心臓などに圧迫されていない ②食道周囲の圧が胸腔内圧と同じ ③胸腔内圧が全体的に均一 ④食道内外圧差がゼロ 
この研究では三分の一の症例でカテーテルを胃内まで到達させることができませんでした。


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