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カンジダ血流感染患者の死亡予測因子 [critical care]

Critical Care Medicine 2008年11月号より

Treatment-related risk factors for hospital mortality in Candida bloodstream infections .

カンジダ血流感染は院内感染の原因として珍しくない。カンジダ血流感染症例に対する抗真菌薬の投与が遅れると死亡率が上昇することが知られている。カンジダ血流感染の死亡率が高いことを踏まえ、二つの目的を持って遡及的コホート研究を実施した。目的の一つは、治療の内容がカンジダ感染症例の病院死亡率およびICU死亡率を左右するか否かの検証である。もう一つの目的は、死亡率に影響を与える治療法の実施数が増えると死亡率が上昇するか否かの検証である。

方法
本研究はミズーリ州セントルイスに所在するBarnes-Jewish病院(大学関連教育病院)で行われた。2004年1月から2006年5月までの間に血液培養でカンジダが検出された患者全員を対象とした。抗真菌薬投与前に死亡した症例は除外した。カンジダが検出された全入院患者を入院コホートとし、ICU患者をサブグループ(ICUコホート)として調査を行った。治療関連因子は初回抗菌薬選択および投与量の妥当性、投与開始時期、および中心静脈カテーテルの有無とした。基準時点はカンジダが検出されたときの血液培養検体採取時とした。基準時点の患者特性として収集する項目は、年齢、性別、人種、特定の状況の有無(心不全、COPD、糖尿病、HIV、悪性腫瘍、腎代替療法を要するESRD、臓器または骨髄移植、最近の手術、好中球減少)とした。白血球数、平均動脈圧、血清クレアチニン値、急性腎不全・急性肺傷害・カンジダ以外の感染の有無についても記録した。血液培養検体採取後24時間のデータからAPACHEⅡスコアを算出した。治療関連因子として調査したのは、血液培養陽性に先立つ人工呼吸実施および人工呼吸器装着期間、中心静脈カテーテル使用および血液培養陽性判明後のカテーテル抜去、尿道カテーテル使用、経静脈栄養実施、コルチコステロイドおよび昇圧薬の投与である。抗菌薬投与については、使用された抗真菌薬の種類(感受性のある薬剤であるか否か)、投与量(十分な抗菌作用が得られる量が投与されているか否か)、初回投与時期(カンジダが検出された血液培養検体の採取からの時間)について調査した。フルコナゾール至適投与量は、Candida albicans、Candida tropicalisおよびCandida parapsilosisには6mg/kg/day(Ccr<50mL/minの場合3mg/kg/day)、Candida glabrataには12mg/kg/day(Ccr<50mL/minの場合6mg/kg/day)とした。Candida kruseiにはフルコナゾールは無効とした。カスポファンギン(caspofungin)の至適投与量はローディング量として70mg、二回目以降は50mg/dayとした。当院の検査室では培養結果は検体提出から48時間以内に判明するため、抗真菌薬の投与時期として、検体採取24時間以内と48時間以内の二つに分けてデータを収集した。中心静脈カテーテルの抜去は、血液培養でCandida陽性であることが判明してから24時間以内の抜去を指すこととした。最近の手術は、血液培養が陽性であったときの入院期間中または培養陽性に先立つ30日以内に手術が実施された場合とした。

結果
カンジダ血流感染患者288名が評価対象となった。このうち43名は抗真菌薬を投与されなかったため除外した(死亡率93%)。残りの245名を病院コホートとし、そのうち111名(45.3%)はICUコホートとした。
培養結果と抗真菌薬治療の内容
病院コホート
C. albicansもっとも多く、142名(58.0%)から検出された。続いて、C. parapsilosis(38名、15.5%)、C. glabrata(35名、14.3%)、C.tropicalis(18名、7.3%)、C. krusei(7名、2.9%)であった。中心静脈カテーテルが留置されていたのは217名で、そのうち176名(81.1%)において培養陽性判明後にカテーテルが抜去された。C. albicans 感染例のうち24例(16.9%)、C. glabrata感染例のうち13例(37.1%)、C. parapsilosis感染例のうち3例(7.9%)、C. tropicalis感染例のうち1例(5.6%)では初回フルコナゾール投与量が不足していた。C.albicansとC. glabrata感染例を比較すると、C. glabrata感染例の方が投与量不足症例の割合が有意に高かった(p=0.008)。感受性のない薬剤が選択されていた症例はなかった。中心静脈カテーテルが抜去された症例では、3名(1.7%)にその後もカンジダ血症が認められたが、抜去されなかった症例では9名(22.0%)にその後もカンジダ血症が認められた(p<0.001)。培養陽性判明から48時間以内に抗真菌薬が投与された患者は全体の59%であった。48時間後以降に抗真菌薬の初回投与が行われた症例では、48時間以内の投与症例と比較し投与量が不足していることが有意に多かった(23例[23.0%] vs 18例[12.4%]; p=0.029)。入院中に72名(29.4%)が死亡した。菌種による死亡率の差は認められなかった。死亡例では、心不全、急性腎不全または急性肺傷害のある患者が多く、平均動脈圧が低く、APACHEⅡスコアおよび血清クレアチニン値が高く、昇圧薬もしくはコルチコステロイド投与例が多かった。また、死亡例では初回フルコナゾール投与量不足していた症例、培養陽性判明後も中心静脈カテーテルが留置され続けた症例および培養結果判明後48時間後以降に抗菌薬投与が開始された症例が多かった。治療関連因子の数(0~3)によって患者を分類したところ、数が増えるほど死亡率が上昇する有意な相関が認められた。
ICUコホート
C. albicansがもっとも多く、68名(61.3%)から検出された。続いて、C. parapsilosis(16名、14.4%)、C. glabrata(14名、12.6%)、C. tropicalis(7名、6.3%)、C. krusei(3名、2.7%)であった。中心静脈カテーテルが留置されていたのは103名で、そのうち81名(78.6%)において培養陽性判明後にカテーテルが抜去された。C. albicans 感染例のうち11例 (16.2%) 、C. glabrata感染例のうち4例(28.6%)、C. parapsilosis感染例のうち1例(6.3%)では初回フルコナゾール投与量が不足していた。それぞれの菌の投与不足症例の割合については有意差は認められなかった。感受性のない薬剤が選択されていた症例はなかった。フルコナゾール以外の抗真菌薬については投与量不足の症例はなかった。培養陽性判明から48時間以内に抗真菌薬が投与された患者は全体の58%であった。ICUコホートにおいては抗真菌薬投与開始時期とフルコナゾール投与量の適否のあいだに有意な相関は認められなかった(9例[19.1%] vs 7例[10.9%]; p=0.224)。入院中に40名(36.0%)が死亡した。死亡例では、急性肺傷害のある患者が多く、平均動脈圧が低く、APACHEⅡスコアが高く、昇圧薬投与例が多かった。また、死亡例では初回フルコナゾール投与量不足していた症例および培養陽性判明後も中心静脈カテーテルが留置され続けた症例が多かった。治療関連因子の数(0~3)によって患者を分類したところ、数が増えるほど死亡率が上昇する有意な相関が認められた。
多変量解析
病院コホートでは、コルチコステロイド投与、APACHEⅡスコア、フルコナゾール投与量不足、中心静脈の継続使用が病院死亡の独立した危険因子であった。ICUコホートでは、フルコナゾール投与量不足、中心静脈カテーテルの継続使用、APACHEⅡスコアが病院死亡の独立した危険因子であった。

考察
病院コホート、ICUコホートともに、フルコナゾール投与量不足と中心静脈カテーテルを抜去しないことがカンジダ血流感染症例の病院死亡の独立した危険因子であることが多変量解析で明かになった。また、治療関連危険因子の数が増えるほど死亡率が高くなることも分かった。さらに、病院コホートでは、培養陽性判明48時間後以降に抗真菌薬投与が開始された症例では、そうでない症例と比べフルコナゾール投与量不足である場合が多いことが明るみにでた。過去に行われた研究では、対象微生物に感受性のない抗菌薬の使用によって病院死亡率が上昇することが示されている。カンジダ血流感染においては、高リスク群の患者には予防的に抗真菌薬を投与するという方法も提唱されている。しかしこの方法ではカンジダ血症の発生数は減らせても、死亡率を低下させるほどの効果はないことが高リスク外科症例を含むメタ分析で明らかにされている。Non-albicansカンジダ属、つまりフルコナゾール耐性菌感染の危険因子を調査した研究では、抗真菌薬投与の既往が危険因子として挙げられている。コルチコステロイド投与はカンジダ血流感染の危険因子であることが明らかにされているが、死亡率の予測因子ではない。Morrelらは、カンジダ血流感染患者157名を調査し、抗真菌薬治療開始が遅れると30日後死亡率が上昇すると報告している。Gareyらもフルコナゾール投与例についての多施設研究を行い、同様の結果を得ている。以上から、カンジダ血流感染の治療には、十分量の適切な抗真菌薬を早期に投与することが転帰を改善するためには重要であることが分かる。
今回の研究は、カンジダ血流感染の治療においてフルコナゾール投与量が不足すると死亡率が上昇することを初めて示した研究である。フルコナゾールを投与する場合は、感染部位に適切な量が到達するように適切な投与量を設定しなければならない。
本研究の問題点は、単一施設における研究であったこと、当施設では抗真菌薬の感受性検査をルーチーンには行っていないためフルコナゾール投与量はガイドラインに従って決定したこと、陽性培養の検体採取から24時間以内に抗真菌薬治療を開始した症例が15%しか存在しなかったこと、抗真菌薬治療を受けなかった患者を除外したこと、多変量解析を行ったもののそのほかの予測外の因子が病院死亡率に寄与していた可能性があること、投与開始の時期を分類するのに、他の研究とは異なる48時間を閾値として用いたこと、遡及的研究であることである。

まとめ
カンジダ血流感染患者では、培養陽性判明後も中心静脈カテーテルを継続使用することと、フルコナゾール投与量不足が病院死亡率の危険因子である。また、治療関連危険因子(初回抗菌薬選択および投与量の妥当性、投与開始時期、および中心静脈カテーテルの有無)の数が増えるほど病院死亡率が上昇する。カンジダ血流感染症例では適切な抗真菌治療と中心静脈カテーテル抜去が重要である。

教訓 深部真菌感染症の治療では、CVCをさっさと抜き、早期に適切な抗真菌薬を十分量投与しなければなりません。ICUコホートでは、病院死亡の調整オッズ比は、CVCを抜かないと6.21、FLCZ投与量不足だと9.22です。

コメント(2) 

コメント 2

大先生

日本では重症ICU患者の日和見感染としては緑膿菌やMRSAなどの細菌が主体ですが、北米や、ぼくの友達の住んでいるブラジルでは真菌がおおいみたいだね。とくにブラジルの彼は真菌には辟易としてたよ。
日本の日和見感染症と外国のそれを比べて、どちらがどのように違うのかが、またそれはなぜなのかがわかるとおもしろいね。
by 大先生 (2008-12-22 12:08) 

vril

大先生は、世界を股にかけるインターナショナルな先生なんですね。ドメスティック麻酔科医の拙速ブログに格調高きお役立ちコメントをお寄せいただいて、光栄です。

CCMには深部真菌感染症に関する論文がよく掲載されているので、海外ではそんなに深部真菌感染症が多いのかなぁ、と思っていましたが、やっぱりそうなんですね。
by vril (2008-12-22 16:52) 

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