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麻酔科医と薬物依存~薬物検査の諸問題 [anesthesiology]

Anesthesiology 2008年11月号より

Addiction and Substance Abuse in Anesthesiology.

検査法
尿検査
一般的な薬物スクリーニング検査の対象薬は検査施設によって異なる。モルヒネ、コデイン、メペリジンはスクリーニング対象となっていることが多いが、フェンタニル、スフェンタニル、アルフェンタニル、プロポフォールが標準的なスクリーニング検査の対象薬として採用されていることはない。スクリーニング検査で陽性であった場合は、ガスクロマトグラフィ/磁気共鳴分光法で確定検査を行う。尿検体採取時は、検体すり替えを防ぐために監視下での検体採取が必要である。検体すり替えの方法には、膀胱に「清浄な(薬物が含まれない)」人工尿を、尿道カテーテルを用いて、または恥骨上から自分で注入する方法や、リザーバー付き人工ペニスを用いる方法がある。人工尿はインターネットで入手することができる。また、尿検査を攪乱するようなお茶、ハーブ、なんらかの抽出物など多種多様なものが市販されている。薬物依存者には抜き打ち尿検査が義務づけられている。フェンタニルは常用している場合は、使用をやめても3-5日は尿中から検出される。尿中のフェンタニルはナノグラム単位でも検出することが可能である。フェンタニルの代謝産物であるノルフェンタニルはフェンタニル(100mcg)使用後最長96時間まで尿中から検出される。モルヒネ-3-グルクロニドはモルヒネの代謝産物で活性のない物質である。この物質は硫酸モルヒネ静注の1分後から血中から検出することが可能であり、最長72時間後まで尿中から検出される。メペリジンの代謝産物であるノルメペリジンは投与3日後まで尿中から検出される。
毛髪検査
麻酔科医が乱用する薬物の大半は半減期が短いため、尿または血液検体採取時の濃度は非常に低い。これらの薬物を常用している場合の尿/血液検査に代わる方法が、毛髪分析による検査法である。毛髪検査では月単位での薬物使用を検出することができる。しかし、検査対象者が頭髪を短く刈り込んだり、完全に剃髪したりして検査施設に現れることもしばしばあるためこの方法にも限界がある。その場合は、腋窩、胸、大腿、恥骨部などから検体を採取されることもある。検査が陽性の場合、検査対象者は否定することが多く、対象薬物の混入の可能性を考えなければならない。対象薬物が使用される環境に髪が曝露されて検査が陽性になることもある。
ナルトレキソン分析検査
この検査は不確実なので、ナルトレキソンが検出されないからといって対象者がナルトレキソンを指示通り服用していないと判断することはできない。ナルトレキソン投与を確実にするには、毎回誰かが見ている前で内服させるしかない。
検査の信頼性
薬物依存医師の検査には、医師と検査施設とのあいだに利害関係が存在する可能性がある。その場合、検査結果の正確性は疑わしい。
偽陽性の問題
ケシの実のはいったベーグルを三つ食べてから6時間後および22時間後に尿検査を行ったところ、コデインとモルヒネが陽性という結果が得られたという報告がある。これは偽陽性ではない。コデインやモルヒネを使用した場合と同じ物質が実際に検出され陽性反応が示されたのである。薬物依存の治療中の者にはケシの実を摂取しないようにという注意が与えられる。他にも、処方薬ではない薬剤などの服用で薬物尿検査が陽性になることがある。
検査費用
初回の薬物スクリーニング検査は対象者の所属機関が負担するが、薬物依存治療後のモニタリング検査の費用は本人負担であることが多い。ニューヨーク州のある検査施設では、フェンタニルの尿検査が一回32.50米ドル、プロポフォールの場合は290米ドルである。毛髪検査は一回あたり1000米ドル以上の費用がかかる。通常、治療後モニタリングプログラムでは一ヶ月に6-8回の検査が求められるため、対象者は高額の負担を強いられる。前もって検査に必要な費用についてはっきりさせておき同意を得る必要がある。医学会または病院が値引き(団体割引)の手配をすることが多い。

まとめ
麻酔科医は依存性の高い薬物が簡単に手に入る環境で働いている。薬物依存の症状と徴候を麻酔科医一人一人が知ることが、同僚と患者の安全を守ることにつながる。薬物依存になっても麻酔科医として復帰し、薬物依存の再発もないというケースもあるが、必ずしも誰にでも当てはまるわけではない。薬物依存治療を完遂したからといって、将来にわたって再発が起こらないという保証にはならない。薬物依存に陥った麻酔科医が、麻酔科医として復帰する場合は、事前に十分な注意深い個別の評価を行わなければならない。

教訓 尿検査の検体は他人が見ている前で採取されます。しかし、巷には人工尿などが出回っているので検体が本当に本人のものかどうかは分かりません。薬物依存になった麻酔科医は、麻酔科には復帰しない方が身のためのようです。

コメント(4) 

コメント 4

ぶりぶり

尿を人が見ているまで採取されるのなんて、ドキドキしてしまいますね。
しかも人工ペニスでカモフラージュですか?その人工ペニスは他の目的にも使えそうですね。そちらの研究の進展も期待しています。(ムフッ)
by ぶりぶり (2008-11-14 15:31) 

vril

ぶりぶりさんおもしろコメントありがとうございます。抜き打ち尿検査のあるような病院で働いてたら、毎日がスリリングですよね。

ところで、ぶりぶりさんみたいな方に是非おすすめしたい映画があります。ほんとはブログでその映画の紹介しようと思ったのですが、他の記事の信用性が損なわれる可能性あり、という官僚的ご指摘を知人から頂戴したため断念していました。コメント欄ならその因業な知人にばれないだろうと思うのでご紹介します。その映画は、

「ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習」
http://movies.foxjapan.com/borat/

です。ぶりぶりさんが喜んじゃうようなシーンが満載ですよ。私もキャッキャキャッキャと大笑いしながら鑑賞しました。是非ご覧ください。
by vril (2008-11-14 16:06) 

k

はじめまして。

薬物等の毛髪検査は個人でも検査出来るのででしょうか?
もし出来るなら検査機関や病院を教えてください。

また出来る限りの情報でいいので教えてくださいませんか?

都内在住です。
by k (2009-02-27 15:45) 

vril

私は麻酔と集中治療が専門で、薬物依存の臨床についてはほとんど知識がありません。薬物依存を専門とする精神科医にお尋ねになれば、何らかの情報が得られるかもしれません。お役に立てず申し訳ありません。
by vril (2009-03-02 10:46) 

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