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麻酔科医と薬物依存~予後と予防 [anesthesiology]

Anesthesiology 2008年11月号より

Addiction and Substance Abuse in Anesthesiology.

予後
麻酔科に復帰すべきかせざるべきか
薬物依存になった麻酔科医が麻酔業務に復帰した場合の予後についてはほとんど研究されていない。薬物依存治療後の麻酔科医が麻酔業務に復帰することを許可することの当否については賛否両論があり結論は得られていない。以前は、指導医であれば転科するのが困難であることから復帰の機会が与えられ、レジデントはまだ若いので転科が勧められるという風潮があった。しかし、指導医は短期間の治療を終えると、いきなりもとのストレスフルなフルタイムの仕事をこなすことを求められ、リハビリ期間も与えられないことが多い。すると当然、結果は往々にして惨憺たるものとなる。一方レジデントの場合は、もう少し余裕のある対応が可能であるため、本人にやる気さえあれば麻酔科医をつづけることができる可能性がある。現在では、麻酔科医としてのレベルに関係なく、職場復帰については個別対応すべきであると考えられている。180名の薬物依存麻酔科レジデントに関する1990年の報告では、長期にわたり断薬が維持されることは稀であるためオピオイド乱用者は麻酔科からの転科が望ましいとされている。この報告で対象となった180名のうち、13名(7%)が無酸素脳症により死亡した。残り167名のうち、113名(67%)が麻酔科に復帰した。オピオイド依存の場合は、麻酔科復帰率は34%であった。麻酔科に復帰したオピオイド依存麻酔科医のうち66%は薬物依存が再発し、25%(13名)は死亡した。オピオイド以外の薬物依存の場合は、麻酔科復帰率は70%で、そのうち30%が再発、死亡は1例(13%)であった。2005年に発表された薬物依存の麻酔レジデントに関する論文でも同様の結果が報告されている。この論文では、麻酔科レジデントの薬物依存の治療が成功裡に終了しても、薬物依存の再発が起こりがたい他の科への転科を勧める方が、医師という職業を全うできる可能性が高いであろうと指摘している。この研究では、大多数の麻酔科レジデントが復帰を試みたものの、麻酔科レジデンシーを完遂したのはそのうち46%に過ぎなかったという結果が示されている。また、麻酔科に復帰したレジデントの死亡率は9%であった。9%もの死亡率は、どんな治療的介入であっても許容できるものではない。したがって我々は、レジデント、指導医、麻酔専門看護師のいずれの資格者であっても、薬物依存治療後に自動的に麻酔業務に復帰させることには賛同しない。個別に評価して復帰の可否を決めるべきである。薬物依存者の麻酔業務復帰についての以上の議論は、受け入れ側による復帰拒否という問題につながる可能性がある。薬物依存専門精神科医が麻酔科に復帰するべきではないという意見であれば問題はないと考えられる。しかし、精神科医が復帰を勧めた場合に、受け入れ側が拒否すると問題が生ずる可能性がある。アメリカ障害者法(sectionⅢE)の定めでは、受け入れを拒否する場合は、被雇用者が職務上の責任を果たすことができないことを証明する責任が雇用者に課されている。
再発の危険因子
治療が成功しても、薬物依存は再発する危険性がある。薬物依存になった医師292名を対象とした調査では、74名(25%)に再発が認められた。再発の危険因子は、薬物乱用・依存の家族歴、オピオイドの使用、精神科領域の基礎疾患である。
職場復帰契約
職場に復帰する場合は、当該麻酔科医は復帰契約に同意しなければならない。契約は個人の責任を明確に示したものである必要がある。当初3ヶ月間は夜間および週末待機は免除されるとともに担当症例にオピオイドを使用することが禁止され、その後治療担当医の再評価を受けるというのが復帰プログラムの例である。我々の施設(Mount Sinai Hospital)では、治療に専念し、今後の身の振り方を熟考する十分な時間的余裕を与えるため、少なくとも一年間は復帰させない。復帰後一年目は、常勤の三分の二または週40時間を超えない勤務とし、はじめの三ヶ月は待機も免除する。

予防
薬物依存予防の中心は薬品管理と教育であるが、薬品管理を厳重にし、薬物依存に関する教育を受けることを義務化しても、麻酔科医の薬物依存発生率は変わらなかったという報告がある。麻酔科医全員を対象とした抜き打ち薬物検査の必要性が物議を醸している。麻酔科責任者の61%が抜き打ち検査の必要性を認めているにも関わらず、実際に抜き打ち尿検査を実施している麻酔科研修プログラムは2002年の時点でわずか8%に過ぎなかった。
薬品管理
麻酔科医が薬物依存になる主因は、オピオイドや鎮静薬を簡単に入手できることである。薬品管理を厳しくすることによって、早期発見が可能になる。麻酔情報管理システムを用いることによって薬品をすり替えている疑いのある麻酔科医を特定することができる。電子記録であれば、オピオイド大量使用例や廃棄量が多い例を調べることができる。管理対象の薬品が残った場合は薬剤部に返却しなければならない。薬剤部では返却された薬剤を抜き打ちで検査し中身を確認する。
教育
麻酔科領域では、薬物依存についての教育には以前よりも多くの時間が割かれている。しかし、麻酔科医における薬物依存の発生率は低下していない。教育によって薬物依存が予防できるかどうかは分かっていない。薬物依存予防教育のビデオとして “Wearing Masks”および“Unmasking Addiction: Chemical Dependency in Anesthesiology”がある。(つづく)

教訓 薬物依存になった麻酔科医が治療後に麻酔科に戻ってきた場合は、薬物依存再発率が高いので周りの人は注意して下さい。再発した場合は、いきなり死亡ということが多いようです。USには麻酔科医を対象に抜き打ち尿検査を行っている施設もあります。
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