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DES留置後の予定手術までの待機期間 [anesthesiology]

Anesthesiology 2008年10月号より

Cardiac Risk of Noncardiac Surgery after Percutaneous Coronary Intervention with Drug-eluting Stents

薬剤溶出ステント(DES)を用いた経皮的冠動脈インターベンション(PCI)後の非心臓手術実施までの適切な待機期間についての大規模研究は未だ行われていない。ベアメタルステント(BMS)を用いた場合の待機期間については諸説あるが、我々の研究では、BMS留置後手術日まで少なくとも90日間の待機期間を設けるべきであるという結果が得られている。DESを用いるとBMSよりもPCIやCABGを要するような再狭窄が発生し難い。しかし、一方でステントの内皮化にBMSよりも時間がかかるため、ステント血栓症の危険性が高い期間が延長することが指摘されている。DES留置後の遅発性ステント狭窄症は18ヶ月後でも発生するという報告もある。ステント血栓症の予防にアスピリンとチエノピリジン系薬を併用する抗血小板薬併用療法が行われている。抗血小板療法の中断は早期および遅発性ステント血栓閉塞の重大な予測因子である。チエノピリジン系薬を術前も服用していると、心臓手術中の出血量が増える。したがって心臓手術でも非心臓手術でもほぼすべての症例で術前にはチエノピリジン系薬は中止されている。本研究ではDES留置後の待機期間と術後主要心臓合併症(major adverse cardiac events; MACEs)の発生頻度は反比例するという仮説を検証した。それとともに、周術期MACEsリスクと出血性合併症リスクが最小にする最適な待機期間について調査した。

MayoクリニックでDES留置後に非心臓手術を受けた患者520名を対象としカルテを基に調査を実施した。MACEs(死亡、ST上昇型心筋梗塞、非ST上昇型心筋梗塞、ステント血栓症、PCI再実施またはCABGを要する再狭窄)と手術による出血性合併症について調べた。

520名中28名に緊急手術が行われていた。184名(35.4%)が待機的にDESを留置され、336名(64.6%)が急性冠症候群のため緊急にPCIが行われDESが留置されていた。使用されたDESの84%がCypher(シロリムス溶出ステント)であり、16%がTaxus(パクリタキセル溶出ステント)であった。DES留置から非心臓手術までの期間は中央値で203.5日(四分位範囲94.5-349.5日)であった。PCI後90日以内に非心臓手術が実施された患者が125名、91-180日以内が105名、181-365日以内が170名、366-730日以内が120名であった。

520名中28名(5.4%)に一件以上のMACEsが発生した(死亡14例、ST上昇型心筋梗塞4例、非ST上昇型心筋梗塞10例、ステント血栓症4例、PCI再実施またはCABGを要する再狭窄6例)。DES留置から手術までの期間とMACEs発生率の間には有意な相関は認められなかった。DES留置後の期間以外のMACEs危険因子について多変量解析を行ったが、留置後の期間とMACEs発生率の間には有意な相関は認められなかった。

245名(47.1%)が非心臓手術実施前一ヶ月以内にチエノピリジン系薬を内服しており、そのうち175名は術前7日以内まで服用していた。425名(81.7%)が非心臓手術実施前一ヶ月以内にアスピリンを内服しており、そのうち365名は術前7日以内まで服用していた。単変量解析では術前7日以内までチエノピリジン系薬を継続していた患者はMACEs発生率が高かった (全体ではP=0.040; OR=2.2; 95%CI, 0.63-7.97、7-30日前にチエノピリジン系薬を休薬されていた患者との比較ではOR=2.9; 95%CI 1.23-6.61)。ただし、緊急手術について調整するとチエノピリジン系薬使用とMACEs発生率の間には有意な相関は認められなかった。

術中出血量が通常より多かったのは5名であった。そのうちチエノピリジン系薬を術前も投与されていたのは1名であった。77名(14.8%)に赤血球製剤が使用された。10名(1.9%)にはそれ以外の血液製剤(血小板、FFP、クリオプレシピテート)が使用された。術前7日以内にチエノピリジン系薬を服用していた患者のうち27名(15.4%)に赤血球製剤が使用された。術前7日以内にチエノピリジン系薬を服用していなかった患者のうち50名(15.0%)に赤血球製剤が使用された。血小板製剤が使用された5名のうち3名は術前にチエノピリジン系薬を服用していた。

ステント留置後の抗血小板薬併用療法が、不適切な時期に中断されることを防ぐため、AHA-ACCは出血のおそれのある待機的手技・手術はDES留置後12ヶ月後、つまりチエノピリジン系薬投与終了まで延期するべきであるという勧告を発表している。今回の研究では、非心臓手術後のMACEsはDES留置後1年以上経過していると減少する傾向は認められたが、統計学的には有意ではなかった。したがって、この結果はAHA-ACC勧告に一致するとも相反するとも言いかねる。ただし、本研究は対象患者が520名であったのだが十分な検出力を得るには1900名が必要である。単変量解析では非心臓手術の術前7日以内までチエノピリジン系薬が継続されていた患者では周術期虚血性イベント発生率が高かったが、これは抗血小板療法によって周術期のステント血栓症が減るという概念とは矛盾する。このような一見不可解な結果が得られた原因は、手術直前までチエノピリジン系薬が継続された症例は緊急手術症例に多かったこと、また周術期虚血性イベント発生の危険性が高いと判断されたりPCI後間もない患者であったりすると、チエノピリジン系薬中断期間が可能な限り短縮される傾向があったことであると考えられる。実際、緊急非心臓手術について調整して解析するとチエノピリジン系薬の継続とMACEs発生率上昇には有意な相関は認められなかった。チエノピリジン系薬投与期間(DES留置後1年後まで)が終了した患者のMACEs発生率はもっとも低く(3.4%)、AHA-ACC勧告と一致した。本研究で得られた重要な知見は、抗血小板療法が多くの例で術前も行われていたにもかかわらず、出血性合併症の発生数が少なかったことである。我々は以前、今回と同様の手法でBMSについても調査した。今回の結果と比較すると、非心臓手術後のMACEs発生率はDES留置後が5.4%、BMS留置後は5.2%であった。BMS留置後はPCIと非心臓手術までの期間が長いほどMACEs発生率が低下したが、DESの場合はこのような相関は認められなかった。緊急手術症例のMACEs発生率はDES留置後が17.9%(予定手術4.7%)、BMS留置後は11.7%(予定手術4.4%)であり、緊急手術ではどちらのステントを留置している患者においてもMACEs発生率が高かった。

参照:BMS留置後の予定手術までの待機期間冠動脈ステント留置症例の周術期注意点
   

教訓 DES留置後の予定手術までの待機期間は1年です。術前に抗血小板療法を実施していても出血性合併症は増えないようですが、日本でも当てはまるかどうかは分かりません。

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