人工呼吸中の鎮静と鎮痛~譫妄②
に発表された諸文献を検討することは有意義であろう。遡及的研究では、ハロペリドールを人工呼吸患者に使用すると死亡率が低下することが示されている。ハロペリドール、ジプラシドンまたは偽薬を、譫妄を起こしかけている患者に予防的に投与し比較する小規模パイロット研究が行われ、有意差は認められなかったが、この研究は検出力が不足していた可能性がある。ハロペリドールとオランザピンを比較する無作為化試験では、譫妄に対して両剤が同等の治療効果を示すことが分かった。しかし、ハロペリドールでは45名中6名に錐体外路症状が出現したのに対し、ハロペリドール、ジプラシドンまたは偽薬を群ではゼロであった。非定型抗精神病薬を定期的に使用し、必要時にハロペリドールを投与する併用療法は、ハロペリドールのみを使用する場合よりも譫妄治療効果が高く、転帰をより改善できる可能性がある。
抗精神病薬以外の薬剤についても、譫妄治療における有用性の有無が検討されている。既に鎮静薬の項で述べた通り、RikerらはICU患者をデクスメデトミジン群もしくはミダゾラム群に無作為に割り当て、デクスメデトミジン群の方が譫妄発生率が有意に低いことを明らかにした。コリンエステラーゼ阻害薬のリバスチグミンのICU譫妄に対する効果を評価した研究では、譫妄患者をリバスチグミン群または偽薬群に無作為に割り当てた。104名の患者を無作為化割り当てした時点で中間解析が行われ(リバスチグミン群54名)、リバスチグミン群の方が死亡率が高いという結果が得られたため(22% vs 8%; P=0.07)、この研究はこの時点で中止された。またこの解析では、リバスチグミン群の方が譫妄状態である期間が長いことも分かった(5日 vs 3日;P=0.06)。この研究の教訓は、譫妄の全体像を示唆している。つまり、患者の元々の状態、譫妄発生促進因子およびICU入室の原因となった疾患が絡み合って相互に作用し合い、いろいろな要素を背景として出現する複雑な現象だということである。譫妄の理想的な管理法の構築には、早期発見のためのスクリーニングと予防策の確立が必要である。何らかの薬物療法が補助的に必要であるかもしれないが、しっかりした大規模試験を行った上でないと特定の薬物を推奨することはできない。