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緑膿菌肺炎~診断① [critical care]

Pneumonia Due to Pseudomonas aeruginosa Part I: Epidemiology, Clinical Diagnosis, and Source

CHEST 2011年4月号より

診断

緑膿菌は上気道や下気道に比較的容易に定着するため、緑膿菌肺炎の診断には困難がつきまとう。好中球減少症患者や重症免疫抑制患者における緑膿菌肺炎を除いては、緑膿菌による院内肺炎で血液培養が陽性になることは滅多にない。気管挿管患者では、全身感染の徴候がないのに長期にわたって気管内採痰から緑膿菌が常に分離されることがある。気管気管支炎を発症している場合は膿性の喀痰または気管内採痰の培養結果は当てにならないと考えられるが、気管気管支炎が肺炎へと進展する場合もある。現実的な対応を重んずる臨床医の大方の意見では、気道分泌物の量が突然増えたり、性状が急に膿性に変化したりした場合は、抗菌薬開始を考慮すべきである。人工呼吸器関連肺炎(VAP)の患者では、気管支肺胞洗浄液を遠心分離して細胞内に微生物が存在することが分かった場合、それは感染であることを示す特異的な所見である。この所見の感度は37%~100%である。

定着か感染か
COPD患者の4%~15%では、肺炎を発症していなくても痰から緑膿菌が分離される。過去の抗菌薬使用歴は緑膿菌定着の危険因子である。広域スペクトラム抗菌薬の使用は、ICUにおける緑膿菌定着の増加につながり、気管内採痰中の主な定着菌が緑膿菌となることが分かっている。緑膿菌は粘液分泌を増やし、繊毛運動を妨害し、気道上皮傷害を引き起こす。その結果、肺の分泌物浄化能が低下する。気道から分離される緑膿菌は、ICU患者の血中から分類される緑膿菌と比べ、耐性菌であることが多く、毒素産生能が低く、バイオフィルム形成能は高い傾向がある。VAP発症から8日経過し、感受性のある抗菌薬を投与していても、まだ緑膿菌が分離されることもある。緑膿菌によるVAPを繰り返す場合の多くが、前回の緑膿菌感染が治りきっていないケースであることが、分子サブタイプ解析で判明している。

緑膿菌による院内肺炎では菌血症が見られることは非常に稀であるため、緑膿菌が起因菌であるのかそうでないのかの確定診断を下すのは困難である。したがって、肺の浸潤影が新たに出現し肺炎の臨床徴候を呈する患者の気道分泌物から緑膿菌が分離されれば、それは緑膿菌肺炎であることの状況証拠となり、抗緑膿菌抗菌薬の投与を開始する根拠となる。

医療関連肺炎患者を対象とした前向き二重盲検抗菌薬比較試験では、二名の痰培から緑膿菌が分離されエルタペネムが予測的に投与された。in vitro検査ではエルタペネムの抗緑膿菌活性は十分ではなかったが、二例とも治療が奏功した。我々は、CPIS(Clinical Pulmonary Infection Score)が7点未満で、長期の多剤併用療法の適応とはならなかった二例を経験した。二例のうち一例はCOPD患者であった。第3日に気道分泌物から緑膿菌が多量に検出されたが、CPISはまだ低いままであった。CPISプロトコルに従い、キノロン系薬の予測的投与を開始した。二例とも、分離された緑膿菌はin vitroでキノロン耐性であった。CPISが低かったので、プロトコル通りに投与3日目にキノロン系薬を中止した。それ以降、抗緑膿菌薬を投与しなかったが、二例とも肺の浸潤影は徐々に改善した。その後、何週間にもわたって気道から緑膿菌が検出されたが、二名とも状態は安定していた。このエピソードは、緑膿菌が検出されても定着であることが多く、肺の浸潤影は必ずしも感染を意味しないということを裏付けている。そして、ICU患者を対象とした研究で緑膿菌肺炎の発生頻度が高いのは、定着が交絡因子になっていることが明白であり、データの信憑性に関して疑問がもたげてくる。

高次医療施設のICUで行われた研究で、気管挿管中の患者において気管内採痰の監視培養が毎日行われた。定量培養で、45名において多数の緑膿菌が認められた。このうち、VAPの臨床診断基準を満たさなかった患者が17名(37.8%)存在した。すなわち、この17名においては、緑膿菌が検出された培養検体採取日には新規または増悪する浸潤影が胸部X線写真上で認められなかったのである。だが、この17名の死亡率は高かった(VAPの診断基準を満たし、培養で緑膿菌が分離された患者よりも死亡率が高かった)。さらに、長期(月単位)にわたり機械的人工呼吸管理を受けていて状態が安定している患者では、肺炎でなくても肺胞内に多量の最近が定着していることがあることが明らかにされている。CPISが6点以下で肺に浸潤影のあるICU患者において抗菌薬の使用を控えても、死亡率は上昇せず、かえって低下する。肺に浸潤影があり緑膿菌が分離されるICU患者は多いが、これは単にICU在室日数の長期化や、死亡率上昇の指標であるに過ぎず、本当に緑膿菌が病原菌として肺に存在し、強力な抗菌薬投与を要することを意味するわけではないものと考えられる。

教訓 痰から緑膿菌が検出されたときは、定着か感染かを見極める必要があります。COPD患者の4%~15%では、肺炎を発症していなくても痰から緑膿菌が分離されます。過去の抗菌薬使用歴は緑膿菌定着の危険因子です。広域スペクトラム抗菌薬の使用は、ICUにおける緑膿菌定着の増加につながります。


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