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緑膿菌肺炎~疫学① [critical care]

Pneumonia Due to Pseudomonas aeruginosa Part I: Epidemiology, Clinical Diagnosis, and Source

CHEST 2011年4月号より

緑膿菌はグラム陰性桿菌で自然界のどこにでも存在する日和見病原菌である。緑膿菌は非常に毒性の高い病原菌であり、菌体外毒素や酵素などの毒性物質を産生する。また、バイオフィルムを形成し、環境因子や宿主の抗体や食細胞から身を守ることもできる。緑膿菌肺炎が増加し、治療に新たな障壁が生じている現状を踏まえ、緑膿菌肺炎についてまとめたのが本レビューである。線維性嚢胞症患者における緑膿菌肺炎は、特有の気道病変と関連する特異的な感染症として扱うできであり、本レビューの範疇を超えるためここでは触れない。

歴史概観

緑膿菌はさまざまな解剖学的部位において感染を起こすが、なかでも肺の感染は最も死亡率が高い。肺の出血性病変や壊死性病変のある易感染性患者で発生するのが、緑膿菌肺炎の古典的典型例である。緑膿菌による呼吸器感染症は19世紀末には報告されているが、当時は非常に稀な疾患であった。菌血症を伴う緑膿菌肺炎の病理学的特徴はすでに1917年には報告され、血管の侵入と壊死が認められるとされた。そして、菌血症を伴わない緑膿菌肺炎では、微小膿瘍、出血および巣状壊死が認められることが報告されている。

臨床医は、緑膿菌による呼吸器感染症の分類をいくつか頭に入れておく必要がある。その第一が市中肺炎(CAP; community-acquired pneumonia)である。上気道への緑膿菌定着が、肺の感染へと進展したものを指す。線維性嚢胞症の小児や慢性肺疾患患者ではこのような機序で肺炎が成立すると考えられている。気管支拡張症に緑膿菌肺炎が合併するケースは現在では稀になった。第二は、ICU肺炎である。これはCAPよりも多いタイプの緑膿菌肺炎であり、(1)汚染された吸入液や人工呼吸器からの緑膿菌吸引、または(2)慢性肺疾患でもともと緑膿菌が定着していて入院後に肺炎が成立したものの二つに分けられる。第三は、免疫抑制患者における緑膿菌菌血症に伴う緑膿菌肺炎である。多くは好中球減少症があり血行性に肺に感染が広がる。治療に際しては以上の三つをはっきり区別することが重要である。抗菌薬の多剤併用療法が単剤使用よりも有効であることを示す報告の先鞭をつけたのは、血液悪性疾患で菌血症を呈する患者を対象とした研究だからである。

疫学

院内肺炎

1980年代後半にCDCの全国院内感染研究が行われ、院内感染のなかで緑膿菌肺炎が占める割合が徐々に増えていることが報告された。緑膿菌による院内肺炎は1975年から2003年の間に9.6%から18.1%へとほぼ2倍に増加した。米国に所在するICUを対象とした全国規模の大規模調査では、ICUで検出されるグラム陰性好気性菌のうちもっと多いのが緑膿菌で(23%、8244/35790)、呼吸器から分離される細菌としても最も多い(31.6%)。ピッツバーグ大学においてミニBALまたは気管支鏡検査で診断確定したVAP(人工呼吸器関連肺炎)670例のうち、最も多かった起因菌は緑膿菌であった(20%)。VAP症例842例を対象とした遡及的症例対照コホート研究が米国で行われ、人工呼吸開始4日目以降に発生したVAPでは、緑膿菌が起因菌として最も多かった(9.3%)。

緑膿菌によるVAPはたとえ適切な抗菌薬が投与されても死亡率が高く、粗死亡率は42.1%から87%、直接の死因とする場合の死亡率は32%から42.8%である(Table 1)。スペインに所在する27床を擁するICUにおいて、緑膿菌感染症集団発生に伴う経済負担の解析が行われた。患者17名が対象となり、大半が緑膿菌による気道感染があり死亡率は47%であった。緑膿菌感染によって余分にかかった費用は控えめに見積もっても421000米ドルであった。この金額には、検査、薬剤、ICU管理に伴う費用が含まれる。緑膿菌感染一例あたりかかる平均費用は24700米ドルであり、入院期間中央値は45日であった。

気管支鏡関連緑膿菌肺炎

緑膿菌による院内肺炎は医原性に発生することもある。複数の研究で、緑膿菌の感染源が汚染された気管支鏡であった例が報告されている。このような研究では、環境、気管支鏡および気管支鏡検査を受けた患者から検出された緑膿菌が、様々なサブタイプ解析で同一であることが明らかにされている(Table 2)。

気管支鏡が汚染する原因は、気管支鏡の欠陥・損傷や不適切な消毒手順である。汚染を広げる要因は、生検ポートの蓋のゆるみ(このために緑膿菌肺炎を複数患者に発生させ3名がそのため死亡したとみられる例がある)、壊れた生検鉗子による気管支鏡内腔の損傷、洗浄器による汚染、不適切な消毒などである。気管支鏡検査を受けた患者における緑膿菌感染集団発生もどきが発生したケースが二件報告されている。一件では8名、もう一件では41名の緑膿菌感染患者が発生したが、検出された緑膿菌の株は同一ではなかった。

教訓
緑膿菌によるVAPはたとえ適切な抗菌薬が投与されても粗死亡率は42.1%から87%にものぼります。気管支鏡から緑膿菌が蔓延することがあります。
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