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外傷患者救急搬送中の輸液で死亡率が上昇する~方法 [critical care]

Prehospital intravenous fluid administration is associated with higher mortality in trauma patients: a National Trauma Data Bank analysis.

Annals of Surgery 2011年2月号より

方法

米国外科学会全国外傷データバンク(Version 6.2)に登録された5年間(2001年-2005年)のデータを用いて遡及的調査を行った。NTDBは外傷関連では最大のデータバンクであり、米国に所在する600か所以上の外傷センターから報告された約1500万人の外傷患者の記録が収められている。本研究では、貫通外傷または鈍的外傷の症例全例を対象とした。病院前救護において行われた手技についての完全な情報が記録されていない症例は除外した。

病院前救護における経静脈輸液が患者の転帰に及ぼす影響を明らかにすることを目的に、本研究は行われた。主要転帰項目は院内死亡率とした。主要独立変数は、病院前静脈内輸液とした。NTDBの病院前実施手技記録の中に「経静脈(intravenousまたはIV)」という語が記録されている患者の大半に、「経静脈輸液」が行われたものと見なした。しかし、他にも色々な単語が「経静脈」の意味で記されていたため、経静脈輸液が行われた症例と、静脈路が確保されただけで輸液は行われなかった症例を厳密に区別することはできなかった。したがって、両者を区別せずまとめて「病院前経静脈」群に分類した。本研究で設定した従属変数と独立変数については記述分析を行った。また、病院前静脈内輸液ありの患者と病院前輸液なしの患者についての死亡率の比較を含む無調整解析を実施した。輸液を行った群と行わなかった群とでは死亡の危険因子に関して有意差があったため、考え得る交絡因子について調整し多重ロジスティック回帰分析を行った。病院前救護において最もよく行われる五つの手技の実施状況について調整した。五つの手技とは、気管挿管、ショックパンツ(MAST)、脊椎固定、シーネ固定および胸腔内減圧(胸腔穿刺)である。心肺蘇生については調整しなかった。なぜなら心肺蘇生についてのデータは、心肺蘇生を受けた貫通外傷患者の平均収縮期血圧が118mmHgであることなど、理論的に考えて信じがたいものだったからである。多重ロジスティック回帰分析の際に取り上げたその他の変数は、年齢、性別、人種、医療保険の有無、受傷機転(貫通外傷vs鈍的外傷)、外傷重症度スコア(ISS)、低血圧の有無(収縮期血圧90mmHg未満)およびGCS9点未満である。病院到着時死亡例を除外した上で、再度同様の多重ロジスティック回帰分析を行った。

病院前静脈内輸液と外傷患者の転帰のあいだの相関が、一定の特色を持つ患者群のいずれにおいても一貫して認められるかどうかを検討するため、受傷機転、低血圧(収縮期血圧90mmHg未満)の有無、頭部外傷の有無および緊急手術の有無のそれぞれについて患者を分類し、サブグループ解析を行った。病院前輸液ありの患者群と病院前輸液なしの患者群とのあいだに、はじめから分かっている交絡因子に関する偏りがある場合、このようなサブグループ解析は、輸液が死亡率に及ぼす影響を検討するにあたり信頼性の高い解析であると言える。同様の多重ロジスティック回帰分析を以下の外傷患者サブグループに関して再度行った:(1)鈍的外傷患者、(2)貫通外傷患者、(3)銃創患者、(4)正常血圧患者、(5)低血圧患者、(6)鈍的外傷低血圧患者、(7)貫通外傷低血圧患者、(8)銃創低血圧患者、(9)GCS9点未満の患者、(10)重症頭部外傷(GCS9点未満で頭部AIS3-5点)、(11)緊急手術を要する患者(救急部から直接手術室へ移送された患者)。

次に、外傷重症度スコア(ISS)に基づいて分類した患者群について同様の多重ロジスティック回帰分析を実施した。ISS 9点未満の患者の解析では、病院到着時死亡例は除外した。なぜなら、受傷後早期死亡例でISSが9点未満と記録されている症例は、ISSの算出値が実際の重症度より低くなってしまっている可能性があるからである。病院到着時死亡例なのにISSが9点未満の外傷症例では、外傷登録簿に記録されていない損傷が存在することが往々にしてある。こういった損傷がすべて白日の下に晒されると(つまり病理解剖を行うと)、報告されているISSよりもずっと高い点数になることが多い。

参考記事
輸液動態学 
正しい周術期輸液 
敗血症性ショック:輸液量が多いほど死亡率が高い 
重症感染小児は輸液負荷で死亡率が上昇する

教訓 世界最大の外傷データベースを用いて、病院到着前の輸液(静脈路確保)と院内死亡率の関係を調べました。
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