SSブログ

過換気は脳傷害によくない⑥ [critical care]

Hypocapnia and the injured brain: More harm than benefit

Critical Care Medicine 2010年5月号より

低二酸化炭素症によって脳以外の臓器にも障害が生ずるか?

脳以外の他の臓器も低二酸化炭素症によって傷害される可能性があり、なかでも肺および血管に対する作用が詳しく解明されている。低二酸化炭素症により心臓、肝臓、消化管、骨格筋および皮膚への血流が低下する。本レビューでは、酸素化と血流が特に重大な意味を持つ脳について詳述してきたが、本項では低二酸化炭素症が肺傷害および心筋酸素化におよぼす影響について紹介する。

急性肺傷害
重症頭部傷害患者の20%以上に、ALI/ARDSが発生する。ALI/ARDSが発生すると転帰が悪化する。欧州で行われた前向き多施設研究で、低二酸化炭素症を導入するために行う高一回換気量の人工呼吸が、ALI/ARDS発症の独立予測因子であることが明らかにされている。残念ながら、ARDS症例では高一回換気量が死亡率上昇につながることが広く知られているにも関わらず、肺傷害が発生したことが判明した症例でも継続して過換気のまま管理されていることが分かっている。

ALI/ARDSにおいて低二酸化炭素症がよくない影響をもたらす可能性があることは、1971年にTrimbleらが指摘している。低二酸化炭素症は急性肺傷害の原因となると考えられている。その本態は、高一回換気量の人工呼吸による直接的な肺傷害と、低二酸化炭素症自体による様々な機序を介した肺傷害であるとされている。様々な機序とは、肺の血管透過性亢進、肺水腫、コンプライアンス低下、サーファクタント機能障害の可能性、急性炎症の惹起などである。以上のような悪影響の多くは、肺胞内の二酸化炭素分圧を正常化すれば元に戻る可能性がある。反対に、高二酸化炭素症性アシドーシスが実験モデルの肺傷害を緩和することが明らかにされている。低二酸化炭素症は低酸素性肺血管収縮(HPV)を減弱させるので、肺内シャントが増える。急性脳傷害症例では、高一回換気量の肺傷害発生への関与と、低二酸化炭素症の肺傷害発生への関与のそれぞれを識別することは困難である。

心筋虚血
急性低二酸化炭素症は、収縮性の増強、左室後負荷や心拍数の変化などの様々な機序を通じて心筋への酸素運搬量を減らし、酸素需要量を増やすので、酸素需給バランスを崩すことになる(Table 4)。低二酸化炭素症に陥ると、冠動脈血流が低下し、組織毛細血管透過性が亢進する。場合によっては冠動脈攣縮が起こり、昔から自発的過換気の患者で発生すると言われる「異型狭心症」に至る可能性がある。低二酸化炭素症は、血小板数を増加させたり血小板凝集能を亢進させたりするので、血栓症を悪化させることがある。以上のような理由で、脳傷害患者に対し低二酸化炭素症管理を行っていると、急性冠症候群が発生し臨床的な問題となることがある。

不整脈
低二酸化炭素症は、発作性心房頻拍や、まれではあるが心室頻拍や心室細動などの不整脈を引き起こす。低二酸化炭素症が不整脈を招来する機序は、心筋虚血を除いては不明である。しかし、低二酸化炭素症性アルカローシスは、局所麻酔薬中毒や三環系抗うつ薬中毒の治療においては有効である可能性がある。

教訓 低二酸化炭素症の肺に対する作用:コンプライアンス低下、気道抵抗の増大、肺実質の直接的傷害、肺内シャントの増加、HPVの減弱など。低二酸化炭素症の心臓に対する作用:心筋酸素供給量の減少、心筋酸素需要量の増加、心拍数上昇、心収縮量増強、全血管抵抗の上昇、心筋再灌流傷害の増悪、不整脈など。
コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。