SSブログ

溺死最新情報2009~病態生理:血液量・電解質・Hgb [anesthesiology]

Drowning: Update 2009

Anesthesiology 2009年6月号より

血液量と血清電解質の変化

低張または高張液を誤嚥すると、肺実質以外にも変化が及ぶ。歴史的には、むしろ肺以外に対する影響の方が重要視されていた。大量の液体を誤嚥しなければ、血液量の有意な変化は起こらない。11mL/kg以上の低張液を誤嚥すると、誤嚥した量と同じだけ血液量が増える。蘇生に成功した場合は、吸収された水分は急速に再分布するので、一時間以内に循環血液量不足に陥ることがある。高張である海水を大量に誤嚥すると、急速に循環血液量が低下する。低張液または高張液の大量誤嚥が疑われる場合は、中心静脈圧、脈波形または一回拍出量の呼吸性変動、肺動脈閉塞圧、右室拡張終期容量などの測定もしくは経食道心エコーを実施し、循環血液量の評価を行い、治療方針を決定すべきである。とはいえ、溺水被害者が、生命の危機を来すほどの大幅な血液量変化を起こすに足る大量の液体を誤嚥していることは、滅多にない。

同様に、血清電解質濃度も、溺水後に変化することがある。変化の程度は、誤嚥した液体の種類と量によって異なる。イヌの実験では、淡水であれ海水であれ、22mL/kg以下の誤嚥では、血清電解質濃度の有意な変化が暫時続くことはないという結果が得られている。22mL/kg以上の誤嚥では、淡水であれば循環血液量増加、海水であれば循環血液量低下による電解質濃度の変化が起こる。だが、溺水後生存例でこれほど大量の水を誤嚥していることはないと考えて良い。22mL/kg以上の誤嚥が認められる例は、水中で発見された溺死者のうちわずか15%を占めるに過ぎない。以上が、淡水または海水による溺水被害者において、危機的な血清電解質異常がまず見られないことの理由である。したがって、溺水被害者の初期輸液には、0.9%塩化ナトリウム溶液を用いるべきであり、血清電解質濃度に異常がある場合にのみ電解質補正を行う。低張液の投与は避けるべきである。ものすごい量の誤嚥がある場合や、死海(Na、K、Cl、Ca、Mgの各イオン濃度が、地中海の海水の3~36倍)のように電解質濃度が非常に高い液体による溺水でない限り、電解質異常を急いで補正する必要性が生ずることはまずない。

ヘモグロビンとヘマトクリットの変化

低酸素血症の状態で多量の淡水を誤嚥すると、溶血が起こり、血漿遊離ヘモグロビンと血清カリウム値が上昇する。溶血の原因は、血液が低張になることだけではない。同時に高度の低酸素血症が発生していなければ、溶血は起こらない。動物に蒸留水(44mL/kg、細胞外電解質に重大な変化をもたらす量)を静脈内投与しても、その最中に低酸素症を発生させたときにしか(この場合は、気管チューブを閉塞して低酸素症に陥らせた)血漿遊離ヘモグロビン値の上昇は認められなかった。同量の水を気管内に注入すると、高度の低酸素症に陥り、溶血が起こった。

イヌの気管内に22mL/kgの、塩素を添加した蒸留水、ただの蒸留水または生理的食塩水を注入して溺水モデルを作成した。蒸留水が注入されたイヌ10頭中9頭に、甚だしい溶血が見られたが、生理的食塩水が注入されたイヌでは溶血は一切認められなかった。溺水したヒトでは、ヘモグロビンおよびヘマトクリット値の有意な変化が見られることは滅多にない。このことからも、ヒトが溺水の過程で水を誤嚥したとしても、生還例では、誤嚥量が多量に及ぶことはないのが一般的であるという理論が裏付けられる。大量の水を誤嚥し溶血が起こると、DICのような深刻な出血性障害が発生することがある。Modellらが発表した連続91症例の溺水患者の報告では、そのうち一名の血漿遊離ヘモグロビン値が少なくとも500mg/dL(正常値<5mg/dL)に達していた。結局この患者は、肺にひどい浸潤影が出現し死亡した。

教訓 低酸素血症の状態で多量の淡水を誤嚥すると、ただちにその水は吸収され、溶血が起こります。溺水では、血液量や電解質が大幅に変化することはほとんどありません。

コメント(0) 

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。