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重症患者の栄養ガイドライン② [critical care]

Guidelines for the provision and assessment of nutrition support therapy in the adult critically ill patient: Society of Critical Care Medicine and American Society for Parenteral and Enteral Nutrition: Executive Summary.

Critical Care Medicine 2009年5月号より

経腸栄養の投与量
1. 経腸栄養の目標投与量(必要熱量によって決まる)は、栄養補助療法開始時に明確に決定しておかなければならない(Grade C)。必要熱量は予測式または間接熱量測定によって算出することができる。個別患者の必要熱量を同定するには、予測式は、間接熱量測定より不正確なので注意する。特に肥満患者では、間接熱量測定抜きで予測式のみを用いて必要熱量を同定するのは困難である(Grade E)。
2. 入院後1週間のうちに目標投与熱量の50~65%以上に到達することができれば、経腸栄養による臨床的効果を得ることができる(Grade C)。
3. 7-10日以内に経腸栄養のみで必要熱量(目標投与量の100%)をまかなうことができない場合は、経静脈栄養の併用を考慮する(Grade E)。経腸栄養開始後7-10日以内に経静脈栄養を併用しても転帰は改善しない。むしろ悪化する可能性さえある(Grade C)。
4. タンパク投与が十分であるかどうかを逐次評価する。標準的な経腸栄養製剤は非タンパク熱量:窒素比が高いため、タンパク製剤の補助的投与が広く行われている。BMI30未満の患者では、タンパク必要量は1.2-2.0g/kg(実測体重)/dayである。熱傷または多発外傷患者ではこれを大きく上回ると考えられる(Grade E)。
5. 肥満のある重症患者では、低栄養または低熱量の経腸栄養を実施する。BMIが30を上回る全ての患者において、必要熱量の60-70%または11-14kcal/kg(実測体重)/day(または22-25kcal/kg理想体重/day)以下を、経腸栄養の目標投与熱量とする。タンパク投与量は、肥満クラスⅠおよびⅡ(BMI 30-40)では2.0g/kg理想体重/day以上、肥満クラスⅢ(BMI 40以上)では2.5g/kg理想体重/day以上とする。必要熱量の決定方法は、前述のとおり(Grade D)。

経腸栄養の進捗状況の監視
1. ICUでは、腸動があること(臨床的イレウスの改善)の確認は、経腸栄養開始の要件ではない(Grade E)。
2. 経腸栄養が順調に実施できているかどうかを監視する(疼痛and/or膨満感の訴え、理学的所見、排ガスおよび排便の有無、腹部X線写真)(Grade E)。胃内残量が500mL未満のときは、他に経腸栄養を見合わせるべき徴候がなければ、経腸栄養を中止してはならない(Grade B)。検査や手技・手術のためNPOにするのは最小限にとどめ、栄養剤投与量が不足したり、イレウスが長時間続いたりするのを防ぐ。NPOはイレウスの悪化要因となり得る(Grade C)。
3. 経腸栄養プロトコルを用いると、目標熱量への到達度が上昇する。プロトコルを導入すべきである(Grade C)。
4. 経腸栄養実施中は、誤嚥のリスクを評価しなければならない(Grade E)。誤嚥対策を実施すべきである(Grade E)。

誤嚥のリスクを軽減する方法を以下に示す:
気管挿管されているICU患者に経腸栄養を実施する場合は、30°-45°の頭高位にする(Grade C)。
誤嚥の危険性が高い患者または経胃栄養投与を順調に行うことができない患者では、持続投与による経腸栄養を行う(Grade D)。
消化管運動亢進薬(メトクロプラミドやエリスロマイシン)またはオピオイド受容体拮抗薬(ナロキソンやアルビモパン)などの胃腸の動きを促す薬剤は、状態が許す限り投与すべきである(Grade C)。
クロルヘキシジンによる口腔内洗浄を一日二回行い、VAP発生の危険性を軽減する(Grade C)。
5. 重症患者では、栄養剤の青染やブドウ糖検出試験紙によって誤嚥の有無を判断してはならない(Grade E)。
6. 経腸栄養中に下痢が発生した場合は、その原因を詳しく評価する(Grade E)。

適切な栄養剤の選択
1. 免疫強化経腸栄養剤(アルギニン、グルタミン、核酸、ω-3系脂肪酸、抗酸化物質などが添加されている)は、適応のある患者にのみ用いる(予定大手術、外傷、熱傷、頭頚部癌、人工呼吸中の重症患者)。重症敗血症患者には使用しない(外科系ICU患者ではGrade A、内科系ICU患者ではGrade B)。免疫強化栄養剤の適応からはずれるICU患者には、標準的な経腸栄養剤を投与する(Grade B)。
2. ALI/ARDS患者には、抗炎症脂質(魚油やルリジサ油)および抗酸化物質が添加されている経腸栄養剤を用いる(Grade A)。
3. 免疫強化栄養剤の効果を最大限得るには、必要熱量の50-65%以上を免疫強化栄養剤で投与する(Grade C)。
4. 下痢がある場合は、可溶性食物繊維または低分子ペプチドを含む製剤を用いてもよい(Grade E)。

補助製剤の使用
1. 移植、腹部大手術および重症外傷患者にプロバイオティック製剤を投与すると転帰が改善することが分かっている(主に感染を減らす効果)(Grade C)。一般ICU患者におけるプロバイオティクスの使用については、転帰に対する効果がはっきりしていないため、今のところ定見は存在しない。菌種によって効果が異なり、転帰に与える影響が一定しないことが、明白な一般的推奨事項を導くのが困難な理由であると考えられる。同様に、重症急性壊死性膵炎に対するプロバイオティクス投与は現時点では推奨されていない。文献で示されているエビデンスは一貫せず、また、用いられている菌種にもばらつきがある。
2. 特殊栄養剤を投与されている重症患者では全員に、抗酸化ビタミンと微量元素(特にセレン)の混合製剤を使用する(Grade B)。
3. グルタミンが添加されていない経腸栄養製剤を熱傷、外傷および内科系外科系混合ICUの患者に投与している場合は、経腸グルタミン製剤を併用する(Grade B)。
4. 蘇生を要する状態を脱し血行動態が安定した患者が経腸栄養中に下痢を発症した場合は、可溶性食物繊維が有効である可能性がある。重症患者ではいかなる症例であっても、不溶性食物繊維の投与は避ける。可溶性食物繊維も不溶性食物繊維も、腸管虚血または重症の消化管蠕動不全の危険性が高い患者では使用を避ける(Grade C)。

経静脈栄養の適応があれば、その効能を最大限引き出す
1. 経腸栄養を実施できない場合は、経静脈栄養の必要性を評価する(どんな場合に経静脈栄養を行うか第1, 2および3項、経腸栄養の投与量第3項参照)(Grade C)。経静脈栄養を実施する必要があると判断されれば、その効能を最大限引き出すための手段を講ずる(投与量、栄養の内容、モニタリング、補充製剤の種類)(Grade C)。
2. 経静脈栄養が実施されているICU患者では、少なくとも開始当初は、中等度の低栄養を許容する。熱量必要量を決定したら、その80%を目標値とするか、もしくは経静脈栄養による投与熱量の上限とする(Grade C)。患者の状態が安定したら、経静脈栄養による投与熱量を熱量必要量まで増加させてもより(Grade E)。肥満患者(BMI 30以上)では、経静脈栄養によるタンパクおよび熱量投与量は、経腸栄養の投与量第5項で推奨されているのと同じように決定する(Grade D)。
3. ICU入室第7日までに、経腸栄養を実施することができず、経静脈栄養を行わなければならない場合は、経静脈栄養製剤を用いる。大豆油を主成分とした脂質製剤は用いない(Grade D)。
4. 栄養補助療法を実施する際は、ほどほどに厳格な血糖管理プロトコルに従う(Grade B)。最適な血糖目標値は110-150mg/dLである(Grade E)。
5. 重症患者に経静脈栄養を実施する場合は、経静脈グルタミン製剤を併用する(Grade C)。
6. 経静脈栄養が順調に実施されている患者では、経腸栄養開始の努力を怠らない。順調に経腸栄養を実施することができ、経腸栄養による投与熱量を増やすことができれば、経静脈栄養による投与熱量を減らす。目標投与熱量の60%以上を経腸栄養でまかなうことができるようになれば、経静脈栄養を中止してもよい(Grade E)。

教訓 胃内残量が500mL未満のときは、他に経腸栄養を見合わせるべき徴候がなければ、経腸栄養を継続します。

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コメント 4

キコさま

「死の当日まで飲める」辰巳先生のスープには足元にも及びませんが、人には言えない程手抜きだけどブラボーなお汁を紹介します。

材料は①とろろ昆布(お勧めは敦賀・おくい)②南高梅系梅干(お勧めは紀州・宝梅)
上記材料にお湯を適量注ぐだけ!(薄ければ塩or醤油)騙されたと思ってお試し下さい。(塩は雪塩かぬちまーす)
口に含むとじゅわーと涎が出て食欲沸きます。日持ちするので例の備蓄食料のリストに加えてもいいかも。
インスタントですが、沖縄の「トータル天然だし」もお勧めです。
これは無塩無添加にも拘らず、水に溶かしてそのままゴクゴク飲めちゃう程美味です。天然のアルギニン、グルタミン酸、イノシン酸、水溶性食物繊維etcが豊富に含まれてます。
…と一応このpaperの内容を何とな~くかすったコメントであるとアピっときます(笑)

いつか私が深刻な事態で入院する事になったら、是非ともこれらを携えてお見舞いに来てください。後は頼んだよ~。よろしく~!
by キコさま (2009-06-16 19:34) 

vril

料理研究家のキコさまのおすすめ食材はからだによさそうなものばかりですね。へんなもの食べるぐらいなら空腹を我慢しているほうがまし、という主義の私にとって、とても役立つ情報です。うちでは、インスタントだしはOFJのものを使っています。トータル天然だしはすごい実力の持ち主のようですね。ちょっとしたからだの不調をすっかり払拭してくれそうです。

キコさまが入院したら、東奔西走して厳選食材を集めて馳せ参じますよ。
by vril (2009-06-17 07:44) 

キコさま

美味しい物、体に良い物を食べる!というのがモットーですが、時折若い頃の「ジャンクフードLOVE」な私が威勢よくtake off してout of control。水平&垂直尾翼がぶっ壊れたキリモミ状態でアパラチア山脈に激突。か弱い胃腸が大破大炎上してます。…猛省。

それでも基本食は、無添加・無着色を心がけてはいるので、昨今スーパーで当たり前のように見かける本物のJunk Loverな方々よりは、死後、大地に帰りやすい体ではあると思います。

OFJ初めて知りました。HPトップのかつを節削り器が心擽ります。
あれでシャコシャコかつを削るのが好きです。
by キコさま (2009-06-17 18:34) 

vril

帰路、スーパーマーケットに寄ると、心配になる光景を目にします。そんな時間に買い物をしている四、五十代とおぼしき男性の多くが、500mL缶ビール、お総菜、スナック菓子、申し訳程度に半丁のお豆腐、というような組合せの商品をかごにいれてレジに並んでいます。食品の質もあまり良いとは言えませんが、あれを一人でテレビ相手に、もそもそ召し上がっているかと思うと、気の毒になります。

キコさまのご主人のように、恵まれた境遇にある人は、幸運の持ち主なんだなぁ、と思います。

長いつきあいなのに、キコさまがジャンクフードに熱を上げているところを見たことがありません。しかし、我々も、もうあまり無理のきかない年齢に達したのですから、くれぐれも自重なさってください。
by vril (2009-06-18 07:45) 

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