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人工呼吸中の鎮静と鎮痛~譫妄② [critical care]

Sedation and Analgesia in the Mechanically Ventilated Patient

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2012年3月1日号より

ICUでは興奮や譫妄に対して抗精神病薬が用いられることがある。最も頻用されているのはハロペリドールであるが、譫妄に対して効果があるとされている他の非定型抗精神病薬も普及してきている。だが、こうした出始めたばかりの研究成果をICU譫妄の転帰改善につなげられるのかどうかを検証するにはまだまだデータが不足している。ハロペリドールをはじめとする代表的な抗精神病薬は、脳のドパミン受容体を遮断し精神的緊張を和らげる。また、抗精神病薬を投与された患者は、自発性が低下し、自分の周囲に対する関心を失い、感情の表出が乏しくなる。多くの場合、うとうとした状態になり、刺激に対する反応が遅くなる。しかし、通常はちゃんと覚醒して質問に答えることは可能であり、認知機能は保たれる。抗ドパミン作用があるためジストニア、アカシジア、パーキンソン症候群などの錐体外路症状が副作用として現れることがある。錐体外路症状はジフェンヒドラミンやベンズトロピンを投与すれば軽快することが多い。悪性症候群(NMS)は、発熱、筋硬直および自律神経障害を呈する疾患で、対処が遅れると死亡に至ることがあるため、早い段階で診断しなければならない。NMSの治療には、ブロモクリプチン、ダントロレンおよびベンゾジアゼピンが用いられる。ハロペリドールはQT延長やtorsades de pointesを起こすことがある。クエチアピン、リスペリドン、オランザピンおよびジプラシドンなどの非定型抗精神病薬は、ドパミン受容体とセロトニン受容体を遮断する。セロトニン受容体に対する遮断作用の方が優勢である。非定型抗精神病薬は、ハロペリドールと同等の効果がありながら錐体外路症状を来しにくいとされている。ドパミン受容体遮断作用と比べセロトニン受容体遮断作用が強いほど、錐体外路症状を起こしにくい。

ICU譫妄の治療における抗精神病薬の有効性を裏付ける知見はないが、過去に発表された諸文献を検討することは有意義であろう。遡及的研究では、ハロペリドールを人工呼吸患者に使用すると死亡率が低下することが示されている。ハロペリドール、ジプラシドンまたは偽薬を、譫妄を起こしかけている患者に予防的に投与し比較する小規模パイロット研究が行われ、有意差は認められなかったが、この研究は検出力が不足していた可能性がある。ハロペリドールとオランザピンを比較する無作為化試験では、譫妄に対して両剤が同等の治療効果を示すことが分かった。しかし、ハロペリドールでは45名中6名に錐体外路症状が出現したのに対し、ハロペリドール、ジプラシドンまたは偽薬を群ではゼロであった。非定型抗精神病薬を定期的に使用し、必要時にハロペリドールを投与する併用療法は、ハロペリドールのみを使用する場合よりも譫妄治療効果が高く、転帰をより改善できる可能性がある。

抗精神病薬以外の薬剤についても、譫妄治療における有用性の有無が検討されている。既に鎮静薬の項で述べた通り、RikerらはICU患者をデクスメデトミジン群もしくはミダゾラム群に無作為に割り当て、デクスメデトミジン群の方が譫妄発生率が有意に低いことを明らかにした。コリンエステラーゼ阻害薬のリバスチグミンのICU譫妄に対する効果を評価した研究では、譫妄患者をリバスチグミン群または偽薬群に無作為に割り当てた。104名の患者を無作為化割り当てした時点で中間解析が行われ(リバスチグミン群54名)、リバスチグミン群の方が死亡率が高いという結果が得られたため(22% vs 8%; P=0.07)、この研究はこの時点で中止された。またこの解析では、リバスチグミン群の方が譫妄状態である期間が長いことも分かった(5日 vs 3日;P=0.06)。この研究の教訓は、譫妄の全体像を示唆している。つまり、患者の元々の状態、譫妄発生促進因子およびICU入室の原因となった疾患が絡み合って相互に作用し合い、いろいろな要素を背景として出現する複雑な現象だということである。譫妄の理想的な管理法の構築には、早期発見のためのスクリーニングと予防策の確立が必要である。何らかの薬物療法が補助的に必要であるかもしれないが、しっかりした大規模試験を行った上でないと特定の薬物を推奨することはできない。

まとめ

ICU患者を適切に管理するには、人工呼吸中の鎮痛及び鎮静についての幅広い知識を持っていなければならない。一般的に使用される鎮痛・鎮静薬についての基本事項に精通することや、こういった薬の薬理学的特徴を変化させるICU特有の要素についての理解も求められる。鎮痛、鎮静および譫妄の評価法を使用すれば、各患者に適した投与量を決めるのに役立つ。エビデンスに裏付けられた手法による鎮痛および鎮静によって、短期および長期転帰の改善を期待することができる。

教訓 ICUでは興奮や譫妄に対して抗精神病薬が用いられることがあります。最も頻用されているのはハロペリドールです。ハロペリドールの副作用は、錐体外路症状、悪性症候群、QT延長、TdPなどです。ICU譫妄の治療における抗精神病薬の有効性を裏付ける知見はありません。
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