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AKIによる腎外遠隔臓器障害~肺 [critical care]

Acute Kidney Injury and Extrarenal Organ Dysfunction: New Concepts and Experimental Evidence

Anesthesiology 2012年5月号より

肺機能障害とAKI

AKIは二つの異なる機序によって肺に影響を及ぼす:炎症反応のカスケードが制御を失うことによる細胞膜の透過性亢進と、ナトリウム-カリウムポンプおよび水チャネル(アクアポリン)のダウンレギュレーションである。腎虚血再灌流後には尿細管細胞が傷害されTNF-αやIL-6が放出され血中濃度が上昇し(fig. 3)、腎摘除を行うと腎以外の細胞(Tリンパ球など)から同じようにTNF-αやIL-6が放出される。こうして生じたサイトカインが炎症反応による細胞傷害を引き起こし、急性相反応や肺、心臓および肝臓などの腎外臓器の傷害を招く主因となる。TNF-αおよびIL-6には、血管透過性亢進、白血球集簇および浮腫を引き起こす作用もある。

AKIが起こると炎症促進サイトカインが増え、このサイトカインが直接的に肺傷害を引き起こす。IL-6欠損マウスと野生型マウスにIL-6中和抗体を投与すると、腎虚血再灌流または腎摘除後の肺傷害が起き難くなる。また、好中球浸潤、毛細血管透過性、MPO活性および肺水腫がいずれも抑制される。反対に、野生型マウスにIL-6のみを投与すると肺傷害が生じMPO活性も亢進する。

AKI発症後に制御を失った炎症反応が生ずると、肺血管の透過性が亢進する。そのため、エバンスブルーを投与すると血管外漏出が観察される。血管の統合性が破綻すると肺組織の間質に水分が貯留し肺水腫となり、肺のメカニクスが劣化する。水分が血管外へ漏出し肺胞内に溜まるとサーファクタントの活性が失われ、肺コンプライアンスが一層低下する。マクロファージの炎症性サイトカイン放出を阻害するCNI-1493を投与すると血管透過性の亢進が抑制されることから、血管透過性の亢進にはマクロファージが一役買っているものと考えられている。

肺間質の浮腫を代償するために人体に備わっている機構が、ナトリウム-カリウムポンプによる能動的輸送とアクアポリンを通じた受動的拡散による水の移動である。しかし、虚血性AKIの場合は、肺において間質浮腫を起こすだけでなくナトリウム-カリウムポンプおよびアクアポリンにダウンレギュレーションをかけてこの代償機構を無効にしてしまう。また、アクアポリン活性を低下させた動物はVILIが起こりやすいことも分かっている。

腎虚血再灌流が起こると、肺の内皮細胞および上皮細胞のアポトーシスをはじめとする組織学的変化が生ずる。その他、肺水腫、肺胞出血および白血球集簇などの所見が見られる。両腎摘除後には以上のような変化は生じないとされていたが、後になってKleinらがAKIが両腎摘除によるものであれ虚血再灌流によるものであれ、肺間質浮腫や好中球浸潤が見られることを明らかにした。

教訓 AKIが起こると炎症促進サイトカインが増え、このサイトカインが直接的に肺傷害を起こします。炎症反応により肺の血管透過性が亢進する上に、ナトリウム-カリウムポンプおよびアクアポリンのダウンレギュレーションのため間質浮腫がなおりにくい状態に陥ります。
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