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ICUの毒性学~毒蛇② [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 3: Natural Toxins

CHEST 2011年11月号より

血液毒性はガラガラヘビ咬傷によって発生する頻度が最も高いが、他のマムシ属の蛇による咬傷でも起こりうる。初回の検査では、血算、フィブリノゲンおよびプロトロンビン時間を必ず測定する。全身状態が不安定な場合は、電解質、腎機能およびCKについても検査する。またたく間に血小板減少症、低フィブリノゲン血症および凝固能障害に陥ることがある。これらが重症化することはあっても、DICになることは稀である。蛇毒に含まれるトロンビン様酵素の作用のせいでフィブリノゲンからフィブリンが生成される過程がうまく行われなくなり、しっかりしたフィブリン塊が形成されず血液が凝固しなくなってしまうからである。初回検査の所見と理学的所見が正常であれば、「無毒咬傷(dry bite)」といって毒蛇に咬まれたものの毒は体内に注入されていない状況である可能性がある。そのような場合は、血液検査を6時間後に再度行い、その間も咬傷部位の腫脹がないかどうかを観察する。軽度の腫脹が見られるだけで他に所見がない場合であっても、12-24時間後まで観察を継続し症状や徴候の増悪を警戒しなければならない。

全身状態が不安定な患者には抗毒素を投与する。全身状態が安定している場合は、咬傷部位の腫脹悪化、血液毒性または全身毒性の出現のいずれかが認められれば抗毒素を使用する。ヒツジ由来マムシ多価免疫Fab(CroFab)は、ガラガラヘビなどのマムシ属の毒蛇による咬傷で毒を注入された場合の抗毒素として米国内で唯一入手可能な製剤である。適応があれば、可能な限り速やかにCroFabを投与する。早い時点で投与すれば腫脹が進行するのを食い止め、血液毒性による異常を正常化させることができる可能性がある。投与量の決め方は複雑で、その件を詳述することは本稿の主旨を外れるため割愛するが、治療アルゴリズムが公開されているためそれを参考に投与量を決めればよい。一般的には、全身状態が安定している患者では4~6バイアル、不安定な患者では8~12バイアルを用いる。小児だからといって投与量を調節する必要はない。妊婦は蛇咬傷で死亡するリスクが高いと言われており、流産のリスクも上昇する。したがって、CroFabが薬剤胎児危険度分類でカテゴリーC(動物実験においては、胎児に対する危険性が発見されているが妊婦における臨床検査がなされていないもの。もしくは、動物実験も妊婦における臨床検査も行われていないもの。有益性が胎児に対する危険性を上まわったときだけに処方されるべきである。)に該当するからといって投与するのを躊躇してはならない。CroFabに対する急性過敏反応は5.4%の症例において発生すると報告されている。過敏反応の発生に備えて注意が必要である。大半の過敏反応は投与速度が速すぎることが災いしている。抗ヒスタミン薬を投与し症状が軽快すれば、はじめより遅い速度で再開してCroFabの投与を完了することができる。

蛇毒による重症の血小板減少症や凝固能低下を来している患者では、咬傷部位から少量の出血が続くことがある。検査所見にこういった異常が認められても血液製剤を投与する必要はない。重篤な出血があり血液製剤を使用する際には、抗毒素も合わせて投与することが必須である。マムシ属のヘビ咬傷では、血小板数、フィブリノゲン濃度またはプロトロンビン時間が低下しているだけならば血液製剤を使用する適応とはならない。

教訓 日本ではCroFabは入手できないため、「乾燥まむし抗毒素」を使用します。乾燥まむし抗毒素は咬まれてから概ね4時間以内に投与しなければなりません。CroFabの方が安全な製剤です。
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