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ICUの毒性学~くも [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 3: Natural Toxins

CHEST 2011年11月号より

蜘蛛

世界には約42000種の蜘蛛が存在している。米国で発生するクモ刺咬傷の大多数は無害である。というのも米国に棲息する蜘蛛は、刺針が短かったり、毒の量が少なかったり、ヒトに生理学的作用を起こすような毒を持っていなかったりするためである。クモ刺咬傷の確定診断には、クモに刺される場面が目撃されていて、そのクモの種類を正しく突き止めた上、それが引き起こす諸症候が目の前の臨床所見と合致する必要がある。

ドクイトグモ(Brown Recluse、学名Loxosceles reclusa)
ドクイトグモは茶色く小さい蜘蛛で、通常は夜行性である。この蜘蛛が刺すのは自分の身を守るためである。イトグモ属の蜘蛛の生息地域をFigure 1に示した(カンザス、オクラホマ、テキサス、ネブラスカ、ニューメキシコ、ミズーリ、アーカンソー、ルイジアナ、ミシシッピ、アラバマ、テネシー、ケンタッキー、イリノイ、アイオワ、インディアナ、オハイオ、ジョージア、ノースキャロライナ、サウスキャロライナ、フロリダ)。この蜘蛛の持っている毒の主成分は、ヒアルロニダーゼとスフィンゴミエリナーゼDである。これらの成分によって、プロスタグランディンの放出、補体の活性化、血小板凝集および好中球走化性の亢進が起こる。創部の毒をELISAで検出する方法が研究されているが、これは手軽に実施できる検査法ではない。

ドクイトグモによる刺咬傷は大半が自然に軽快するが、局所の発赤で済む場合もあれば大きな潰瘍を形成することもあり臨床所見は様々である。刺されてから数時間以内に鋭い灼熱痛が出現しはじめる。皮膚病変は数日間かけて進行する。中心が出血し、その部分が徐々に壊死し潰瘍を形成する。最終的には痂皮ができるが破れることもあり、治癒するまでに数週間を要する。壊死形成後に早めに外科的治療を行っても転帰は改善しないようである。ドクイトグモ刺咬傷による皮膚全身症候群は全体の1%未満でしか発生しない。その特徴は、関節痛、発熱、嘔吐/下痢、横紋筋融解症および溶血である。稀ではあるが心血管系虚脱および溶血の結果死に至ることもある。

治療は保存的に行う。他の病態(皮膚感染症、肉芽腫性疾患、自己免疫疾患による皮膚病変など)をドクイトグモ刺咬傷と誤診しないことが重要である。そして、節足動物の刺咬傷やその他の原因でも壊死性皮膚病変が生ずることがあり、壊死性皮膚病変すなわちドクイトグモ刺咬傷ではないことに留意しなければならない。実際、壊死性皮膚病変を来した症例のうち節足動物の刺咬傷によるものと誤診されている例は少なくない。ドクイトグモ以外に壊死性皮膚病変を来すクモの例として、太平洋岸北西部に棲息するタナグモの一種hobo spider(Tegenaria agrestis)を挙げておく。

基本的には対症療法を行い、早期の外科的切除は禁忌である。ただし美容上の問題があれば、後日デブリをしたり皮膚移植を行ったりすることもある。あまり間を置かずしっかり外来でフォローし、傷の状態を評価しなければならない。ダプソン、副腎皮質ステロイド、予防的抗菌薬、高気圧酸素、血管拡張薬、コルヒチンおよび抗ヒスタミン薬には、有効性を裏付けるデータはなく、適応はない。

クロゴケグモ(Black Widow、学名Latrodectus mactans)
ゴケグモにはたくさんの種類があり世界中に棲息しているが、北米で臨床上最も問題とされるのはクロゴケグモである(注;日本ではセアカゴケグモが有名)。ゴケグモの持つのはαラトロトキシンという毒であり、この毒はアセチルコリンやノルアドレナリンなどの色々な神経伝達物質の放出を引き起こす(注;毒を持つのはメスのみ)。

刺されると普通は痛みを感じる。「標的」に似た刺し傷は、ゴケグモに刺されたことを示すかなり信頼性の高い所見である。ゴケグモの刺し傷は、中心部位は蒼白で、その周囲を赤い輪が取り囲み、あたかもダーツの標的のような形状を呈するのが特徴である。クロゴケグモ刺咬傷の25%では、刺されてから2時間以内にラトロトキシンによる全身症状を示す。ラトロトキシン中毒の症状は、激しい疼痛と、背部、腹部および筋攣縮である。筋攣縮には波がある。高血圧、頻脈および発汗が見られることも多い。筋攣縮と発汗は全身に出現することもあれば、刺された部分に限局することもある。その他、発熱、持続勃起症、感覚異常、筋繊維束攣縮、興奮などが出現しうる。急性心筋症に陥り肺水腫を伴った例も報告されている。ラトロトキシンによる死亡例は、米国の中毒センターには数十年来報告されていない。

治療は対症療法で、オピオイドとベンゾジアゼピンを患者の状態にあわせて投与する。グルコン酸カルシウムは無効であり推奨されない。抗毒素(IgG抗体)もあるが、即時性または遅延性(血清病)のアレルギー反応が起こることがある。抗毒素を使用する場合は、中毒の専門家に相談すべきである。

教訓 タランチュラには毒はありませんが、興奮すると針状の毛を飛ばします。この毛に感作してアレルギー反応が出現することがあります。セアカゴケグモは侵略的外来種ワースト100の一つです。本州、四国、九州、沖縄で確認されています。
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