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ICUの毒性学~きのこ [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 3: Natural Toxins

CHEST 2011年11月号より

きのこ

キノコ中毒は毒キノコを食用キノコだと思い間違って食べてしまうことによって起こることが多い。世界中で毎年たくさんの人がキノコ中毒で命を落としている。主なキノコ中毒の概要をTable 2にまとめた。以下では北米において発生するキノコ中毒のうちICU入室に至るような症例を念頭に、毒キノコの毒性について紹介する。一般論としては、食べてから6時間以上経過した後に消化管症状が発現する場合は、肝毒性のあるキノコまたはけいれんを起こすキノコを念頭に置く。食べてすぐに嘔吐した場合は、全身毒性の懸念は小さいが、ノルロイシン(alleic norleucine)を含有するキノコの場合は直後から嘔吐を来たし全身毒性もあらわれる。二種類以上のキノコを食べた場合は、すぐに嘔吐したからといって全身毒性を心配するには及ばないという通例は当てはまらない。

シクロペプチド

タマゴテングタケとキツネノカラカサ属やケコガサタケ属のきのこには、タンパク合成を阻害するアマトキシンが含まれる。無症状の潜伏期が6時間ぐらいあり、その後に胃腸炎が出現する。数日以内に肝不全に陥る。重症例では脳症およびけいれんが起こることが多い。組織学的には、肝臓に脂肪変性と小葉中心性の壊死が見られる。色々な治療法が喧伝されているが、質の高い研究で検討された方法は皆無である。アマトキシンの腸肝循環は、活性炭の投与によって減少させることができる可能性がある。早期にペニシリンを大量に(100万単位/kg)静注すると予防効果を得られることを示すデータもあるが、否定的なデータも存在する。一貫したエビデンスはないものの、N-アセチルシステインの静注は広く行われている。欧州ではマリアアザミ(milk thistle)から抽出されるシリビニンが慣例的に使用されているが、少なくとも動物実験では無効であることが示されている。最終的には肝移植が必要となることもある。

ギロミトリン

シャグマアミガサタケ(赭熊網笠茸)属のきのこを食べると数時間後に胃腸炎症状が現れる。このキノコに含まれるギロミトリンが加水分解されて生成されるモノメチルヒドラジンは、イソニアジドと同様の機転でピリドキサルキナーゼを阻害し、全般性てんかんを引き起こす。ピリドキシン(ビタミンB6)の静注が有効である(成人では5g iv)。溶血性貧血やメトヘモグロビン血症が見られることもある。

ムシモール/イボテン酸

ベニテングタケ(fly agaric)、テングタケ(panther、豹茸)、その他のハラタケ属のキノコにはGABAA受容体を刺激するムシモールやグルタミン受容体を刺激するイボテン酸が含まれている。イボテン酸が脱カルボキシル化されるとムシモールが生成される。食べると間もなく中毒症状が発現する。吐き気や嘔吐がはじまり、イボテン酸やムシモールの血中濃度によって中枢抑制または興奮があらわれる。てんかん、運動失調、幻覚または傾眠傾向が出現することもある。対症療法を行う。

腎毒性物質

Cortinarium orellanusなどのフウセンタケ科のきのこには腎毒性のあるオルレラニン(パラコートと共通の構造を持つ)という化合物が含まれている。食べてから3週間以内に尿細管壊死を伴う間質性腎炎を発症する。血液透析を要することもあり、早い段階で透析が行われた症例の約半数は慢性腎不全に移行する。

米国の北西部に自生するタマシロオニタケやAmanita smithianaにはノルロイシンが含まれており、食後早々に胃腸炎症状が現れ、数日後に腎不全に陥る。血液透析を要することが多い。毒キノコによる中毒では重症であるほど消化管症状が出現するまでに時間がかかるのが一般法則であるが、この類の毒キノコによる中毒では例外的に胃腸炎症状が摂取後間もなく出現するため留意しなければならない。

その他

シビレタケ属のきのこには幻覚作用を有するインドール化合物が含まれている。中毒を起こしても命に関わることは滅多にない。対症療法を行う。

ヒトヨタケ(inky caps)やイグチ科のきのこ(ドクヤマドリなど)にはアセトアルデヒド脱水素酵素が含まれる。お酒と一緒にこういったきのこを食べた場合、通常は特に問題なく経過するが、この手のきのこを摂取してから数時間~数日後にお酒を飲むとジスルフィラムを服用したときと同じような症状が現れる。つまり、顔面紅潮、発汗、嘔吐、頭痛および頻脈などが見られる。全体的には軽症であることがほとんどで、対症療法を行えばよい。

教訓 きのこを食べてすぐに吐いた場合は、全身毒性の心配は少ないと言われています。ただし、ノルロイシンを含むきのこ(タマシロオニタケなど)を食べると、すぐに吐く上に数日後には透析を要するほどの腎不全になってしまいます。また、二種類以上のきのこを食べた場合にはすぐに吐いたからといって安心はできません。シビレタケは巷ではマジックマッシュルームと呼ばれています。
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