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ICUの毒性学~植物② [critical care]

Toxicology in the ICU: Part 3: Natural Toxins

CHEST 2011年11月号より

強心配糖体

ジギタリス(キツネノテブクロ)、夾竹桃、黄花夾竹桃およびスズランなどには強心配糖体が含まれている。こういった植物を摂取して中毒になった場合は、急性ジゴキシン中毒と同様の病態を示す。嘔吐、徐脈、房室ブロック、自動能亢進などが見られる。高カリウム血症の程度が死亡率と相関する。免疫学的測定法で測定した血清ジゴキシン濃度は、ジゴキシンと似た様々な配糖体との交叉反応で実際よりも高い値を示すことがある。ただ、血清ジゴキシン濃度は必ずしも中毒の重症度とは連動しない。ジゴキシン免疫Fabの適応はジゴキシン中毒のときと同様である。つまり、致死的な不整脈や高カリウム血症が認められればジゴキシン免疫Fabを投与しなければならない。植物由来の強心配糖体中毒では、ジゴキシン中毒のときよりも多量のジゴキシン免疫Fabを要することがある。

ナトリウムチャネル開口作用のある物質

トリカブト(monkshood)に含まれるアコニチン、クリスマスローズ(hellebores)に含まれるベラトルムアルカロイド、ツツジ(rhododendrons)に含まれるグラヤノトキシンには電位依存性ナトリウムチャネルを開口したり、ナトリウムチャネルの不活性化を妨げたりする作用がある。その結果、細胞内ナトリウム濃度が上昇し、迷走神経および自動能が活発になる。これは強心配糖体中のときと似た状態であるが、高カリウム血症にはならない。ベラトルムアルカロイドおよびグラヤノトキシンは、主として洞性徐脈およびブロックを起こし、その結果低血圧や失神といった症状が現れる。感覚異常や嘔吐が見られることもある。通常はアトロピンを投与すれば正常な心調律と血圧を回復することができる。

一方、アコニチン中毒は死亡率が非常に高く、torsade de pointesを含む頻脈性不整脈を引き起こすことが多い。アコニチンによる心室性不整脈の治療についての報告例では、アミオダロンやマグネシウムなど様々な抗不整脈薬が使用されている。

ナトリウムチャネル阻害作用のある物質

イチイ(yew)に含まれるタキシンは細胞膜を介するナトリウムおよびカルシウムの輸送を阻害するアルカロイドである。摂取すると心室内伝導遅延、低血圧および心室性不整脈が起こる。治療法は対症療法が主体となる。動物実験のデータでは高張炭酸水素ナトリウムの有効性は示されていないが、一例報告では炭酸水素ナトリウムの投与によってQRS時間の延長を改善することができたとされている。

ピロリジジンアルカロイド

ノボロギク(groundsel)やコンフリーに含まれるピロリジジンアルカロイドには肝毒性がある。この類の植物はハーブ食品として広く流通している。たいていはお茶として摂取される。このアルカロイドが肝臓で代謝されると、アルキル化作用を持つピロールという化合物ができる。急性中毒では、小葉中心壊死を伴う急性肝不全に陥る。一方、慢性中毒による肝毒性の特徴は肝臓の細静脈閉塞であり、肝腫大、腹水および黄疸が見られる。N-アセチルシステインを早期に投与すると効果が得られる可能性がある。

青酸配糖体

アミグダリンなどの青酸配糖体を含有する植物は数多い。青酸配糖体を摂取するとグルコシダーゼによって加水分解されシアン化水素が生成される。杏や桃の種や栄養補助剤として販売されているアミグダリンを摂取すると中毒が起こりうる。口にして数分から数時間後に中毒症状が出てくる。臨床所見と管理法は他の原因によるシアン中毒と同様である。本特集の第二回に掲載したシアン中毒の項を参照されたい。

有糸分裂阻害作用のある物質

コルヒチンおよびポドフィロトキシンは微小管の形成に影響を及ぼし、細胞機能や細胞分裂を妨げる。摂取すると胃腸炎や腹痛が出現し、多臓器不全に陥り数時間から数日後に死亡する。はじめは白血球が増えるが、次第に白血球減少症または汎血球減少症になる。ポドフィロトキシンはコルヒチンと比べ、中毒発症後早期には神経毒性が強くあらわれるが、いずれの物質も昏睡を引き起こす。さらに、横紋筋融解症、心筋障害および脱毛も起こりうる。死因は心血管系虚脱または敗血症である。敗血症は、骨髄抑制による汎血球減少症に起因し、典型的には数日後に発症する。対症療法を行い、汎血球減少症が見られればG-CSFを投与してもよい。

アキー中毒

熟していないアキー(ackee、ジャマイカで好まれる果実。果肉を野菜のように調理して食べる。甘味はなく胡桃のようなコクがある。)にはヒポグリシンAという毒が含まれている。ヒポグリシンAは脂肪酸のβ酸化を妨げる。未熟なアキーを食べると、肝の微細小胞性脂肪沈着、高アンモニア血症、代謝性アシドーシス、低血糖、続発性カルニチン欠乏が起こる。そして、嘔吐、腹痛、筋緊張低下、てんかんおよび昏睡が認められる。対症療法および低血糖の是正に加え、必要なカロリーを炭水化物で投与することが重要である。また、レボカルニチンを投与すると有効であるかもしれない。

教訓
Digitalis.jpgChristmasrose.jpg
我が家で咲いたジギタリス(左)とクリスマスローズ(右;ナトリウムチャネル開口作用を持つベラトルムアルカロイドを含む)です。

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