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心外・脳外以外の手術における周術期脳血管障害~発症後の管理 [anesthesiology]

Perioperative Stroke in Noncardiac, Nonneurosurgical Surgery

Anesthesiology 2011年10月号より

周術期脳血管障害発症後早期の管理

急性期管理において重要なのは、脳血管障害の高リスク患者同定と早期診断である(table 4)。大半の周術期脳血管障害は、はじめに看護スタッフがその発症に気づく。なぜなら、術中に脳血管障害が発生することは稀で、ほとんどが術後に起こるからである。しかし、通常の術後看護ケアでは本当に意味のある神経学的観察は行われていない。NIH脳卒中スケール(NIHSS)やカナダ神経スケール(CNS)の使用については精力的に研究が行われ臨床経験も蓄積されている。この二つのスケールは、実施するのに時間はかからないが、活用できるようになるには訓練が必要であるため広く普及する見込みは小さい。もっと簡便なスケールを色々と組み合わせて用いることが、早期診断への一手となるであろう。看護スタッフが気づいてから、神経内科医が評価するまでのタイムラグを短縮する必要もある。外科医がその日の手術を終えてから病棟へ来るまで待っていてはいけない。中規模~大規模の医療機関では、脳血管障害急性期対応チーム(acute stroke team)を設置する施設が増えている。これは神経内科医が統率する集団であり、脳血管障害の発症が疑われる場合に迅速にかけつけて必要な対応を行う。脳血管障害が疑われる症例に対しはじめに行われる画像診断検査は、緊急単純CTである。仮診断をつけたら25分以内にCTの撮影を完了することが早期診断へ向けた一つの目標である。単純CTを行えば、虚血と、頭蓋内出血もしくは血管以外の病変(腫瘍など)とを正確に見分けることができる。しかし、急性期の小さい皮質または皮質下梗塞を検出する感度はあまり高くない。特に後頭蓋窩の梗塞の検出感度は低い。虚血性脳血管障害の診断精度の向上につながる情報は、multimodal CTやMRIによって得ることができる。だが、脳血管障害の急性期治療の開始を遅らせてまで、こういった検査を行ってはならない。

周術期脳血管障害を発症した場合でも、脳血管障害に対して一般的に行われる対症療法と合併症の予防が重症である。したがって、術後患者であっても急性脳卒中治療部(Acute Stroke Unit)へ収容し、専門医が管理を行うことが望ましい。気道の不完全閉塞、低換気、誤嚥性肺炎および無気肺によって低酸素症に陥ると、脳傷害がひどくなることがある。高血圧も低血圧も脳血管障害の転帰を悪化させる。術後低血圧の主な原因は、血管内容量低下、出血、心筋虚血および不整脈である。これらを間髪を入れずに是正することによって、神経学的転帰が改善すると考えられる。急性虚血性脳血管障害のうち特定の条件を満たす患者では、薬物投与による人為的高血圧が治療法となり得ることを示す結果が小規模臨床試験で得られているが、大規模臨床試験は行われておらず、現在のところこの治療法を推奨しないとするのが一致した見解である。人為的血液希釈は機能予後を改善させないため、急性脳血管障害の治療法としては推奨されない。発熱は急性脳血管障害後の神経学的転帰を悪化させるため、発熱が見られたらその原因を検索し治療を行わなければならない。脳血管障害患者では心筋虚血および不整脈が起こることがある。現行のAHAガイドラインでは、急性虚血性脳血管障害の患者においては発症後少なくとも24時間は心臓のモニタリングを行い、重篤な不整脈が発生した場合は速やかに治療することが推奨されている。

急性脳血管障害超急性期に行われる治療法に、薬理学的血栓溶解、閉塞動脈の機械的再開通およびヘパリン投与などがある。残念ながら術後患者ではこのような治療法は適応となり難い。AHAガイドラインでは大手術実施後14日以内の脳血管障害では、血栓溶解薬の経静脈投与を禁忌としている。しかし、症例ごとに利害得失を考えれば、周術期虚血性脳血管障害の患者の中には血栓溶解療法を行う方がよいこともあろう。血栓溶解薬の動脈内投与という治療法もあり、単独で実施されたり、静脈内投与と併用されたりする。症状発現から6時間以内の患者では安全に行うことができると考えられている。アスピリンは急性虚血性脳血管障害の治療において有効性が示されている唯一の経口抗血小板薬であり、安全であると判断される場合は周術期の脳血管障害でも使用すべきである。

まとめ

周術期脳血管障害は巷間認識されているよりも発生頻度が高い。脳血管障害発症の危険因子にもっと注意を払って管理を行うとともに早期診断に努めれば、転帰は改善するはずである。周術期に発生する顕性および潜伏性脳血管障害の頻度や病態生理を明らかにし、予防および治療法を確立するには、前向き研究の実施が求められる。

教訓 周術期脳血管障害は大半が術後に病棟で発生します。早期に気づくことが大切です。気づいたら25分以内にCTをとります。
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