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心外・脳外以外の手術における周術期脳血管障害~リスク管理① [anesthesiology]

Perioperative Stroke in Noncardiac, Nonneurosurgical Surgery

Anesthesiology 2011年10月号より

脳血管障害の予防-リスク管理

脳血管障害を最近発症した場合の予定手術実施時期

脳血管障害の急性期には脳血流の自己調節機能が低下するため、脳血流量は脳灌流圧によって受動的に規定されるようになる。したがって、脳に傷害があるとちょっとした低血圧でも脳血流量が低下してしまう。脳血流の自己調節能の低下は、脳血管障害が生じた半球のみではなく、脳全体に認められる現象である。脳血流の自己調節能および二酸化炭素に対する血管運動反射の失調は、脳血管障害発症後8時間以内に生じ、2-6ヶ月後まで続く。理想を言えば、予定手術は自己調節能が回復し、炎症反応がおさまるまで待ってから行うべきである。予定手術は脳血管障害発症後1-3ヶ月後まで延期することが推奨されている。早期に手術を行わなければならず、1-3ヶ月も待てない場合は、細心の注意を払って血圧を監視する。そして、経頭蓋ドップラーや神経生理学的手法(例 脳波や誘発電位)を用いて脳虚血のモニタリングを行うことを考慮してもよいだろう。

頸動脈内膜切除術/ステント留置の術前実施

頸動脈の高度狭窄(70%以上の狭窄)があり症状がある患者では、緊急を要さない予定手術に先立ち頸動脈ステント留置または内膜切除術の実施を検討すべきである。しかし、2009年に発表された欧州血管手術ガイドラインでも述べられているように、狭窄が50%未満の患者に対しては頸動脈内膜切除術は禁忌である。一方、頸動脈狭窄があるものの症状がない患者における内膜切除術/ステント留置の是非については、賛否両論が喧しい。強力な内科的治療の方が、頸動脈内膜切除術やステント留置よりも、脳血管障害予防効果が高いことを示したエビデンスもある。強力な内科的治療とは、禁煙、血圧管理、心房細動に対する抗凝固療法、高脂血症治療薬の投与および抗血小板療法である。European Carotid Surgery Trial (ECST)では、無症状の頸動脈狭窄患者を10年にわたり追跡調査した研究で、60%以上の狭窄がある無症状の患者では頸動脈内膜切除術を行う方が良好な転帰をたどるという結果が得られている。この研究では、頸動脈内膜切除術の術前実施の適否については扱われていない。

心房細動の周術期管理

心房細動があり抗不整脈薬または心拍数調節薬を投与されている患者には、周術期も同じ治療を継続するべきである。必要であれば注射薬を用いる。術後管理で重要な点は、電解質異常および血管内容量低下お是正である。電解質異常や脱水があると、心房の電気的活動が活発になり不整脈薬が起こりやすくなるからである。術後の心房細動に対する抗凝固療法を真正面から扱った無作為化比較対照試験は行われていないが、American College of Chest Physiciansは、脳血管障害高リスク患者や、脳血管障害または一過性脳虚血発作のリスクが高い患者ではヘパリンの使用を考慮し、洞調律回復から30日後までは抗凝固療法を継続すべきであるとしている。ダルテパリンと偽薬の効果を比較する目的で行われている、The Effectiveness of Bridging Anticoagulation for Surgery研究が、2013年に完了する予定である。新規発症の心房細動症例では、心エコーを実施した上でカルディオバージョンを行うのが適切である。

教訓 予定手術は脳血管障害発症後1-3ヶ月後まで延期することが推奨されています。頸動脈の高度狭窄(70%以上の狭窄)があり症状がある患者では、緊急手術でなければ術前に頸動脈ステント留置または内膜切除術の実施を検討すべきです。症状がない場合は、内科的治療(禁煙、血圧管理、心房細動に対する抗凝固療法、高脂血症治療薬の投与および抗血小板療法)の方がよいようです。
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