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心外・脳外以外の手術における周術期脳血管障害~病態生理 [anesthesiology]

Perioperative Stroke in Noncardiac, Nonneurosurgical Surgery

Anesthesiology 2011年10月号より

病態生理

脳血管障害には、虚血によるものと出血によるものがある。虚血性脳血管障害はOxfordshire Community Stroke Projectの分類法を用いて症候によって分類されたり、TOAST(The trial of Org 10172 in Acute Stroke Treatment)分類に従った病因分類が行われたりする。TOAST分類は血管閉塞の病態生理学的機序に着目したもので、虚血性脳血管障害を太い動脈の血栓、内頚動脈や椎骨動脈のアテローム硬化巣から塞栓子が遊離して末梢の血管を閉塞するartery to artery 塞栓、心原性塞栓および細動脈塞栓(ラクナ梗塞)のいずれかに分類する。皮質分水嶺および内側分水嶺は、二つ以上の相互に交通していない動脈系の辺縁に接しているため虚血性変化が起こりやすい。このような部位の灌流圧は脳の中で最も低い。分水嶺梗塞の病態生理については諸説があるが、血流低下と複数の微小塞栓の両者が関わっているという説が多くのエビデンスに裏付けられている。皮質分水嶺領域では塞栓による梗塞が起こることが多い。特に、流入血管にアテロームによる狭窄がある場合は梗塞が起こりやすい。内側分水嶺の梗塞や流入血管の完全閉塞による梗塞では、血行動態が最大の要因である。血流低下もしくは低血圧と塞栓には相乗作用がある。血流が低下すれば微小塞栓が除去されにくくなり、血管が微小塞栓で堰き止められると血流低下領域が拡大するのである。

周術期脳血管障害の大半は術後第2日以降に発生する。周術期脳血管障害を詳細に検討した研究すべてを合わせても、術中に発生したと考えられる症例はわずか5.8%に過ぎない(242例中14例)。つまり、術中よりも術後に起こる変化の方が重要であるということである。胸部外科手術を受ける患者においては、脳血管障害の60%以上が塞栓によるもので、約12-15%が血流低下、ラクナ梗塞、血栓による虚血性脳血管障害である。脳出血は1%を占める。そして胸部外科領域の周術期脳血管障害のうち、10%に複数の病因が認められ、15%が原因不明である。心臓外科および脳神経外科の分野においては周術期脳血管障害の病態生理がある程度解明されているが、それ以外の分野ではまだほとんど詳しいことが分かっていない。現時点までに、心外/脳外以外の領域における周術期脳血管障害の機序に関する研究は9編しか発表されていない(計301症例、table 1)。この9編によれば、胸部外科手術の周術期脳血管障害と異なり、大半もしくは68%が、脳血管にできた血栓に起因する脳血管障害であった。およそ16%が塞栓による脳血管障害で、脳出血は5%を占めた。

心外/脳外以外では心外/脳外よりも、血栓による周術期脳血管障害の発生頻度が高いのかどうかは不明である。しかし、術後の血管内皮機能障害が大きな要因として作用していると考えられている。というのも、血管内皮は一酸化窒素、プロスタサイクリンおよび内皮由来過分極因子(EDHF)を放出し、血管トーン、血栓形成および炎症などを調節しているからである。血管内皮の機能が低下していると、その血管では、プラークの破綻、反応性の血管攣縮および血栓形成が起こりやすくなる。全身麻酔を行うと、特に亜酸化窒素を用いると、内皮機能が障害される。術後には神経内分泌反応(「ストレス」反応)が起こるので、内皮機能障害と相俟って脳血管に血栓ができやすい状態に陥るのであろう。ただし、このことを裏付ける臨床的根拠は今のところはまだ示されていない。さらに、周術期に抗血小板薬や抗凝固薬を中断すると、手術によって引き起こされる凝固能亢進状態が一層強調され、脳血管障害のリスクが増大するのであろう。Batemanらの研究では股関節置換術では、周術期脳血管障害の発生頻度や死亡率が他の術式より低いことが示されているが、THR後は術後早期に抗凝固療法が開始されていることが寄与しているのであろう。一般外科領域における術後脳血管障害のうち14%には心房細動が関与している。ここでもやはり、塞栓と凝固能亢進状態が重大な影響を及ぼしていることに注目しなければならない。

教訓 周術期脳血管障害の大半は術後第2日以降に発生します。術中よりも術後に起こる変化(凝固能亢進による血栓形成など)の方が、脳血管障害の原因として重要なようです。
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