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重症敗血症にHESはよくない~考察② [critical care]

Renal effects of synthetic colloids and crystalloids in patients with severe sepsis: A prospective sequential comparison

Critical Care Medicine 2011年6月号より

本研究の問題点と今後の研究課題

本研究の主な問題点は、単一施設で行われた非盲検研究で、三群とも標本数が少なく、輸液製剤変更のための導入期間が長かった可能性があり、事後調整や多変量解析を行ったことである。したがって、よくよく注意して結論を導き出す必要がある。本研究では無作為化割り当てを行ったわけではないので、基準時点における背景因子に差がなかったからといって、収集対象とならなかった項目についても差がないとはいえない。平均動脈圧に群間差が認められたが、これが投与した輸液製剤の違いによるものなのかどうかは不明である。晶質液群には腹腔内感染に由来する敗血症の患者が、他の群より多く含まれていた。しかし、このことが交絡因子となったとは我々は考えてはいない。その理由は、多変量解析では敗血症の原因となった感染の部位と急性腎傷害(AKI)とのあいだには相関は見いだされず、欧州で行われた大規模調査では、呼吸器感染に由来する敗血症よりも腹腔内感染に由来する敗血症の方が腎代替療法実施率が高いことが明らかにされているからである。晶質液は量依存性にAKIを発症させることが分かったが、HES製剤やゼラチン製剤ではこのような作用は認められなかった。晶質液群の患者数に比べ、HES群もゼラチン群も患者数が少なかったことが、このような違いを生じせしめたのかもしれない。また、6%HES製剤や4%ゼラチン製剤の用量反応関係が、一次関数や二次関数で表されるような単純なものではないからなのかもしれない。

我々の考え(合成膠質液がAKIの原因となるという考え)は、本研究で得られた観測結果によって一層確からしいものとなった。基準時点だけでなく、その後の経過中においても、膠質液群と晶質液群とのあいだに重症度の差がなく、ICU死亡率および院内死亡率についても両群に差がなかった。このことは、AKIの発症度が晶質液群より膠質液群で高かった理由は合成膠質液の使用である可能性が最も高いという推測の裏付けになる。したがって、本研究で得られた結果から、6%HES 130/0.4製剤と4%ゼラチン製剤のいずれもが重症敗血症患者においてAKI発症の原因となり得るという仮説を示すことができる。本研究の成果は仮説を構築し、質の高い無作為化比較対照試験を実施してHES 130/0.4およびゼラチンの安全性についてのエビデンスを得る必要性を示したことである。折しも、HES 130/0.4の安全性を評価する試験が現在進行中である。一つはCHEST試験といって、計画ではICU患者7000名を対象としHESと生食を比較する研究で(NCT00935168)、もう一つはICU患者800名を対象予定としHES 130/0.4と酢酸リンゲル液を比較する6S試験(NCT00962156)である。これらの研究の詳細はそれぞれのウェブサイトに掲載されている。

結論

本研究で得られた結果を踏まえると、重症敗血症においては、合成膠質液の方が晶質液よりも血管内容量増大・維持効果が優れているという従来の意見に疑義が生ずる。合成膠質液を用いても水分出納は減少しなかった。重症敗血症患者では、血管内容量を維持しつつも水分出納に過剰になりにくい合成膠質液が適しているという考えが巷間流布しているが、本研究はこのような俗説に一石を投じた。そして、第三世代のHES製剤であるHES 130/0.4や低分子量ゼラチン製剤は腎機能に悪影響を与えないという説に対しても、本研究で得られた結果は大きな疑念をつきつけている。今のところ、集中治療領域における合成膠質液の汎用を肯定するエビデンスを示した良質な研究は存在しないが、幸い6%HES 130/0.4については恰好の研究が実施されている最中である。

教訓 敗血症患者におけるHESの有効性や安全性について、CHEST試験および6S試験という無作為化試験が現在進行中です。
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