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重症敗血症にHESはよくない~考察① [critical care]

Renal effects of synthetic colloids and crystalloids in patients with severe sepsis: A prospective sequential comparison

Critical Care Medicine 2011年6月号より

考察

主な知見

重症敗血症患者において、HES製剤やゼラチン製剤を血管内容量維持に主に用いる輸液療法から、晶質液のみを使用する輸液療法へと変更したところ、急性腎傷害(AKI)の発症率および腎代替療法実施率が有意に低下した。ICU死亡率および病院死亡率については差は認められなかった。晶質液群の輸液量および水分出納がHES群およびゼラチン群を上回ったのはICU入室当日および翌日のみであるという、意外な結果が得られた。ICU在室全期間中の累積輸液量は、HES群の方が晶質液群より有意に多かった。

連続する三つの研究期間において対象となった各重症敗血症患者コホートの基準時点における年齢、血行動態および血清クレアチニン値は同等であった。ただし、合成膠質液を投与された群では、腹腔内感染に由来する敗血症の患者が晶質液群より少なかった。

研究期間中の大半の時点において膠質液を投与された患者の方が平均動脈圧が高かった。一方、晶質液群の方が中心静脈血酸素飽和度および中心静脈圧が膠質液群より高かったり、膠質液群の方が平均SOFAスコアが低かったりする時点もいくつか見受けられた。

腎毒性薬剤の使用状況については三群とも概ね同等であった。ただし、HES群では抗真菌薬(アンホテリシンBおよびフルコナゾール)が投与された患者が多く、ゼラチン群では他の二群より多くの患者にACE阻害薬が投与されていた。多変量解析ではHES製剤およびゼラチン製剤に加え、抗真菌薬、20%アルブミン製剤、心臓胸部手術およびヨード造影剤がAKIの独立危険因子であることが明らかになった。

先行研究との関わりと本研究の意義

敗血症やその他の重症疾患患者において、デンプン製剤が腎機能に有害であることはいくつもの研究で繰り返し示されてきた。最新の第三世代デンプン製剤は腎機能を低下させることはないという意見がある。しかし、使用したデンプン製剤の90%以上が6%HES 130/0.4であった本研究で我々が得た知見は、その意見を否定するものであった。実験データでも、6%HES 130/0.4と10%HES 200/0.5のどちらを用いても腎機能が低下し、単にその程度に若干の差があるだけであるという結果が示されている。また、別の新しい研究でも晶質液よりも6%HES 130/0.4およびゼラチン製剤の方が高度の腎機能低下と組織学的障害を招く可能性があることが報告されている。

デンプン製剤およびゼラチン製剤による有害作用は累積投与量と相関することが複数の研究グループによって明らかにされている。遡及的観測研究では、HESの累積投与量を推奨されている一日最大投与量の半分に当たる15-20mL/kgとしたところ、AKIや腎不全の発生頻度は上昇しないという結果が得られた。

今回の研究では、HES群、ゼラチン群ともに当該膠質液投与後の腎代替療法実施率は34%であった。これは、過去に行われた研究で晶質液やアルブミン製剤を用いた場合に観測されている腎代替療法実施率のいずれをもはるかに凌駕するものである。重症敗血症患者537名を対象として数年前に行われた多施設研究では、乳酸リンゲル液群の腎代替療法実施率は18.6%、HES群では31%であった。28日後死亡率はそれぞれ24.1%、26.7%であった。4%アルブミン製剤と0.9%食塩水の比較を目的として行われたSAFE研究で対象となった患者のうち重症敗血症サブグループ(1218名)の腎代替療法実施率は、アルブミン群が18.7%、生理的食塩水群では18.2%であった。28日後死亡率はそれぞれ30.7%、35.3%であった。

我々の研究で腎代替療法実施率が高かったことは、合成膠質液を使用した患者が多かったことと表裏一体の関係であるのかもしれない。ドイツでは血管内容量増大の目的で合成膠質液、特にHES溶液が好んで使用されている。2003年から2004年にかけてドイツに所在するICUで行われた大規模調査では、ICU患者における急性腎不全の発生頻度は42.4%であった。この調査では、重症敗血症もしくは敗血症性ショック患者の35.2%に合成膠質液が投与され、用いられた主な製剤は6%HES溶液、10%HES溶液またはゼラチン製剤であることが判明した。

八ヶ国で行われた敗血症に関する国際研究では、12000名以上の登録患者のうち腎代替量が行われたのは全体の21.3%であった。その研究に欧州から唯一参加したのが、HESが広く用いられているドイツである。ドイツで登録された患者における腎代替療法実施率は33.4%であったが、欧州以外からのその他の参加国における腎代替療法実施率は11.7%から25.9%であった。院内死亡率はドイツが43.4%、全体では49.6%であった。

晶質液群の患者のうち47%にAKIが発症した。4%ゼラチン群では68%、6%HES群では70%と晶質液群より有意にAKI発症頻度が高かった。腎代替療法実施率も、HES群およびゼラチン群の方が晶質液群より高い傾向が認められたが、多変量解析では有意差は認められなかった。有意差が得られなかった理由はいくつか考えられる。多変量解析の際にBonferroni-Holm法によるp値の調整を行ったが、この方法は厳格すぎる可能性がある。また、標本数が少なすぎた可能性も考えられる。特にゼラチン群の患者数は少なすぎたかもしれない。ゼラチン(30kDa)はHES(130kDa)よりも分子量が小さい。また、使用されたHES溶液が6%製剤であるのに対しゼラチンは4%製剤であった。膠質液による腎機能障害の機序は、ほとんど何も分かっていない。先行研究によれば、ゼラチンはHESよりも腎機能に及ぼす影響が小さい可能性があるとされている。重症敗血症患者を対象とした一編の無作為化比較対照試験で、HES群よりゼラチン群の方が急性腎不全の発生頻度が低いという結果が得られているが、これにはゼラチンが3%製剤であったのに対しHESが6%製剤であったことが関与していると考えられる。

ゼラチンとHESを比較した研究では、ゼラチンの副作用は見過ごされ注意が払われなかった可能性がある。しかし、敗血症ラットに4%ゼラチン製剤もしくは6%HES 130/0.4製剤を10mL/kg投与したところ、近位尿細管に同程度の空胞変性を認め、血清クレアチニン値およびBUN値の上昇も同等であったという初の報告がつい最近発表された。

重症患者を対象とした先行する複数の前向き研究では、同等の血行動態エンドポイントを達成・維持するのに必要な晶質液もしくは膠質液の投与量の比は2:1かそれ以下(もっと晶質液が少なくても膠質液と同等の血管内容量増大効果が得られる)であるという知見が得られているが、本研究ではそれを裏付けることができた。膠質液は晶質液よりも血管内残留率が高いと信じられているが、少し長い時間経過で考えるとそうでもないようである。本研究では輸液投与から数時間後までは、膠質液群の方が速やかにヘマトクリットが低下した。これは、デング熱によりショックに陥った小児患者を対象としたWillsらの研究(HES 200/0.5またはデキストラン70を使用)や、術前血液希釈症例や健康被験者を対象とした複数の小規模研究などで示されているのと同様の結果である。しかし、その後数時間が経過すると(2~6時間後)、膠質液群の方が晶質液群よりもヘマトクリット上昇度が大きく、24時間後には晶質液群と膠質液群のヘマトクリットには差がなくなることが分かっている。

教訓 今回の研究では、HES群、ゼラチン群ともにRRT実施率は34%でした。晶質液群では20%でした。SAFE研究の重症敗血症サブグループにおける生食群およびアルブミン群のRRT実施率はそれぞれ18.2%、18.7%でした。やはり敗血症患者ではHESやゼラチンは腎臓に悪いようです。また、膠質液には投与直後には晶質液を上回る血管内容量増大効果はありますが、2~6時間後には効果が薄れ、24時間後には晶質液と差が無くなります。
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