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重症敗血症にHESはよくない~方法 [critical care]

Renal effects of synthetic colloids and crystalloids in patients with severe sepsis: A prospective sequential comparison

Critical Care Medicine 2011年6月号より

方法

対象患者

大学病院内に設置された、50床を擁する外科系ICUに入室した重症敗血症または敗血症性ショック患者全例を対象とした。ICU入室前から血液透析を要する慢性腎不全のある患者およびHESを使用する別の無作為化試験に登録された患者は除外した。本研究は観測研究であるため、倫理委員会は患者の同意を得る必要はないと判断した。

手順

2006年7月以前の当院ICU、救急部および手術室では、血管内容量不足に際し晶質液と合成膠質液を投与する方法が標準的な輸液療法として実施されていた。2005年1月1日から2005年6月30日の第一期においては、主に6%HES製剤(130/0.4%; Voluven)が投与された(HES群)。その後、HESの腎毒性が懸念されたためHESに代わり4%ゼラチン製剤が投与されるようになった。2006年1月1日から2006年6月30日の第二期においては、重症敗血症または敗血症性ショックの全例に対し4%修飾ゼラチン製剤(Gelafusal)および晶質液が投与された(ゼラチン群)。輸液療法の変更が浸透するよう第一期と第二期のあいだに6ヶ月の空白期間を設け、連続する二つの6ヶ月にわたる治療群について前向き前後比較試験を実施し、有効性の検討を行ったところ、いずれもICU患者から成るHES群とゼラチン群のあいだに、腎代替療法実施率の差は認められなかった。この結果についてはすでに発表済みである。そこで、さらに研究を続けることにした。2006年7月以降、ゼラチンの投与を止め晶質液に変更した。その後現在まで、ICU、救急部および手術室では晶質液(Jonosteril)を使用している。ただし、高カリウム血症の患者には生理食塩水を投与した(0.9%食塩水)。2008年9月から2009年6月を本研究の第三期とした。第三期の患者は全員が晶質液のみを投与された(晶質液群)。

敗血症の治療は、Survival Sepsis Campaignおよびドイツ敗血症学会のガイドラインに準拠した当施設の標準手順に従って行った。HES相およびゼラチン相の各期間中、膠質液の適応決定については集中治療担当医に一任された。血行動態管理は標準化した方法で行った。具体的には、平均動脈圧>65mmHgとなるように昇圧薬としてノルアドレナリンを投与し、晶質液または合成膠質液(HESまたはゼラチン製剤)を用いた輸液負荷を繰り返してなるべく昇圧薬の投与量を少なくすることとした。必要であれば、ドブタミン(最大10mcg/kg/min)またはアドレナリン(最大0.15mcg/kg/min)を併用した。ノルアドレナリンを0.4mcg/kg/min以上要する場合には、肺動脈カテーテル(Swan-Ganz CCOmbo)またはPiCCO(Pulsiocath 5Fr Thermodilution Catheter)を用いた厳密な血行動態モニタリングを行うかどうかを検討した。一日に少なくとも二回、中心静脈カテーテルから採取した血液検体を用いて中心静脈血酸素飽和度を測定した。

血管内容量を補う目的ではヒトアルブミン製剤は使用しなかった。重篤な低アルブミン血症(<15mmol/mL)のときに限り、20%アルブミン製剤(Albunorm20%)を投与した。

研究の全期間を通じ、当ICUにおいては持続的静静脈血液透析のみが腎代替療法の方式であった。腎代替療法の適応は、血管内容量が適正に維持されているにも関わらず利尿薬が奏効しない乏尿(尿量<0.5mL/kg/hr)が6時間以上続くもしくは無尿が3時間以上続く場合、乏尿または無尿により血管内容量が過剰になり肺水腫が発生したり警戒されたりする場合、高カリウム血症または高度の代謝性アシドーシス(pH<7.1)が見られる場合とした。

主要転帰および二次転帰:定義およびデータ収集法

本研究の主要転帰項目は、急性腎傷害(AKI)の発生とした。腎代替療法の新規実施も主要転帰項目に含めた。AKIの定義はRIFLE分類に準じた。RIFLE分類ではクレアチニン値による分類と尿量による分類とが別々に示されているが、クレアチニン値の分類と尿量の分類のどちらかより重症度の高い方の分類を採用した。尿量は24時間尿量として計測し、6時間尿量または12時間尿量を算出した。したがって、血清クレアチニン値1.5倍上昇または尿量0.5mL/kg/hr未満6時間以上継続の場合をRIFLE基準の「risk」とし、血清クレアチニン値2倍上昇または尿量0.5mL/kg/hr未満12時間以上継続のいずれかまたは両者を満たす場合をRIFLE基準の「injury」とし、血清クレアチニン値3倍上昇、腎代替療法の新規実施、または血清クレアチニン値354μmol/L以上かつ急激に44μmol/L以上上昇、または尿量0.3mL/kg/hr未満24時間以上継続もしくは12時間以上の無尿のいずれかを満たす場合をRIFLE基準の「failure」とした。RIFLE基準の各項目のいずれか一つ以上を満たす場合または腎代替療法を新規実施した場合をAKIと定義した。患者の所見から、最も重症度の高い群に分類した。つまり、risk群に分類された患者の腎傷害は、RIFLE基準で定義されたrisk群に該当する腎傷害の重症度を上回ることはないということである。

二次転帰項目は積算輸液量、水分出納、人工呼吸管理の有無、SOFAで評価した臓器不全の程度、昇圧薬使用の有無、血液製剤使用の有無、ICU在室期間、ICU死亡率および院内死亡率である。維持輸液、ボーラス輸液、静脈内投与薬剤、血液製剤、アルブミン製剤、静脈内栄養剤、経腸栄養剤および経口摂取水分をすべて合算したものを積算輸液量とした。クレアチニンクリアランスはCockroft-Gaultの式を用いて算出した。ICU在室期間を研究対象期間とした。

ICU入室時に記録したデータは、年齢、性別、体重、紹介元、入室前に行われた手術の種類である。当ICUでは重症敗血症の有無を入室時に必ず上級医が評価することになっている。この結果は訓練を受けた看護師が記録した。敗血症の主因も記録した。入室24時間以内に患者を担当する指導医がSAPSⅡおよびSOFAスコアを算出した。

モニター、人工呼吸器、輸液ポンプのデータは前向きに収集され、電子カルテ上に自動記録された。電子カルテシステム(Copra System GmbH)は、各種電子記録、オーダ内容(処方、輸液の量や時間など)および検査結果を閲覧できるようになっている。この電子カルテを用いて、腎毒性のある薬剤(NSAIDs、利尿薬、ACE阻害薬、抗菌薬、抗真菌薬およびヨード造影剤)の使用状況を記録した。ICU在室期間および入院期間、ICU死亡および入院死亡については全患者のデータを収集した。

重症敗血症の定義は、感染病巣が特定され、SIRSの四徴候のうち二つ以上が認められ、感染に関連する臓器不全がある場合とした。血液または無菌部位、膿瘍、感染組織(肺炎、腹膜炎、皮膚または軟部組織感染)から得た検体の培養で細菌が検出される場合を感染病巣が特定されていることとした。以下の項目のうち一つ以上に該当する場合を感染に関連する臓器不全ありとした:呼吸器、凝固系または肝のSOFAスコアが2点以上、心血管系SOFAスコアが1、3または4点または腎SOFAスコアが3点以上の場合とした。臓器障害については過去に発表された別の文献に詳しく記した(Intensive Insulin Therapy and Pentastarch Resuscitation in Severe Sepsis)。

教訓 重症敗血症または敗血症性ショック患者の血管内容量増大の目的で、2005年1~6月はHES、2006年1~6月はゼラチン、2006年7月からは晶質液を用い、各期間のAKI発生率およびRRT実施率を比較しました。
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