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重症患者における経静脈栄養の開始時期:早期vs 晩期~考察 [critical care]

Early versus Late Parenteral Nutrition in Critically Ill Adults

NEJM Online First 2011年6月29日

考察

低栄養に陥るリスクのあるICU患者に対し、高血糖を回避する方針に経腸栄養の早期開始と微量元素補充を組み合わせ、経静脈栄養の開始時期が早めか遅めかによって差が生ずるかどうか調べたところ、死亡率に有意差はなかった。しかし、ICU入室後第8日まで経静脈栄養の開始を待つと、もっと早い段階で経静脈栄養を開始した場合より、ICUにおける新規の感染が少なく、急性期炎症反応の程度は激しいことが分かった。経静脈栄養の開始を遅らせると、低血糖発生件数はやや増えるものの、身体機能の悪化は見られず、人工呼吸期間および腎代替療法実施期間が短く、ICU在室日数も短縮し、さらに医療費も削減できることが分かった。

先行する複数の観測研究では、投与カロリーの目標値達成が早いほど重症患者の転帰が改善するという結果が得られているが、本研究ではこれとは異なる結論に至った。この手の観測研究では、最重症の患者群では経腸栄養を行うことができないことが多いため、因果関係をはっきりさせることはできない。目標カロリーに早く到達するほど転帰が良いという結果が観測研究で示されたことに依拠し、重症患者に対しては経腸栄養を早期に開始し、それだけでは投与カロリーが不足する場合は早めに経静脈栄養を開始し不足分を補うべきであると推奨されてきた。本研究では、死亡率には差は生じなかったとはいえ、主要評価項目と副次評価項目のすべての項目において経静脈栄養の早期開始には利点がないことが示された。入室時のBMI、栄養リスク、敗血症の有無は、結果に影響を及ぼしていなかった。つまり、本研究で得られた知見は広く一般にも当てはまることを意味している。さらに、心臓外科手術を受けた患者の大規模コホートにおいて経静脈栄養を遅めに開始することによって得られた効果は、他の診断コホートで観察された経静脈栄養晩期開始による効果と同等であった。

術後のため経腸栄養の早期開始が禁忌であったサブグループでは、それ以外の患者群と比べ、経静脈栄養の晩期開始によって得られた利益がより大きかった。経腸栄養を早期に開始することができなかった患者で経静脈栄養早期開始群に割り当てられた患者では、経静脈栄養による投与カロリーが他のサブグループと比べて最も多かったことが、その理由であろう。一方、重症疾患の初期段階において主要栄養素(炭水化物、脂肪、タンパク質)の投与開始時期を遅らせると、投与経路の如何を問わず回復を促進することができる可能性がある。経静脈栄養の早期開始によって感染発生率が上昇したり、臓器不全からの回復が滞ったりするのは、オートファジー(自食作用)が抑制されて細胞障害の修復や微生物の排除などが適切に行われなくなるからであると推測される。本研究のプロトコルでは、血糖値の目標値は正常範囲内とした。血糖値の目標値をもっと高くしたとすれば、本研究で得られた転帰に変化があったかどうかはよく分からない。しかし、血糖値が今回よりも高ければ、経静脈栄養早期開始による悪影響はさらに際立ってあらわれたかもしれない。

本研究にはいくつかの問題点がある。第一に、経静脈栄養に用いた製剤にはグルタミンやその他の免疫増強物質は含有されていなかった。しかし、我々が行った方法は、一般に普及している経静脈栄養のやり方と同じである。また、グルタミンの有効性については、未だ賛否両論がある。第二に、標準化された組成で予め調剤された経静脈栄養製剤を用いたため、タンパク質エネルギー比が比較的低かった(Supplementary Appendix のFig. 1)。だが、現在のところ、タンパク質を増やすと転帰が改善することを裏付ける良質なエビデンスは得られていない。第三に、カロリー投与量の算出に当たり、間接熱量計を用いたエネルギー消費量の計測は行っていない。とはいえ、間接熱量計の使用は、ガイドラインでは推奨されていない。そして最後に、本研究の性質上、患者またはその代理人およびICUスタッフがどちらの治療群に割り当てられたかを知り得た。

まとめ

低栄養に陥る危険性のある重症患者に対し当初からビタミン、微量元素およびミネラルを投与している場合、ICU入室一週間後までの早い段階で、経腸栄養だけでは不足するカロリー量を補うために経静脈栄養を開始する方法は、ICU入室8日後まで経静脈栄養を開始しない方法より劣っていることが分かった。経静脈栄養の開始を遅らせると、感染が減り、回復が促進され、医療費の削減につながる。

参考記事:重症患者の栄養ガイドライン①

教訓 経静脈栄養の開始を遅らせると、低血糖発生件数はやや増えるものの、身体機能の悪化は見られず、人工呼吸期間および腎代替療法実施期間が短く、ICU在室日数も短縮し、さらに医療費も削減できることが分かりました。
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