SSブログ

重症患者における経静脈栄養の開始時期:早期vs 晩期~はじめに [critical care]

Early versus Late Parenteral Nutrition in Critically Ill Adults

NEJM Online First 2011年6月29日

重症疾患患者は、食欲不振に陥りいつも通りには食べられなくなるため、深刻な栄養不良、筋量減少、筋力低下が起こり、回復が滞る。人為的な栄養補助が重症患者の転帰改善につながるかどうか、まだ分かっていない。投与経路、栄養補助の開始時期、投与カロリーおよび栄養製剤の種類が栄養療法の成否に大きな影響を及ぼすものと考えられる。

経腸栄養は経静脈栄養と比べて合併症が少なく、投与に関わる費用が安い。しかし、経腸栄養だけでは目標カロリーを達成できないことも間々ある。投与カロリーが目標を下回ると、筋力低下、感染、人工呼吸期間遷延、死亡といった事態の発生につながる。経腸栄養に経静脈栄養を組み合わせると投与カロリー不足に陥るのを防ぐことができるが、一方では投与カロリー過剰となり肝機能障害や感染が発生したり人工呼吸期間が遷延したりするおそれがある。経静脈栄養により血糖値が上昇することがある。高血糖もこういった合併症の原因となり得ると指摘されている。また、経静脈栄養を行っても筋量減少を防ぐことができないのは高血糖がおこるせいだという意見も示されている。

重症患者の栄養療法に関する現行の診療ガイドラインは、主に専門家の見解に基づいて構築されており、北米大陸とヨーロッパ大陸とではガイドラインの内容に相当大きな隔たりがある。欧州経静脈・経腸栄養学会(ESPEN)は、消化管経由では栄養を十分に投与できない場合は、ICU入室後2日以内に経静脈栄養の開始を検討すべきであると推奨している。一方、米国およびカナダのガイドラインでは、経腸栄養の早期開始は推奨しているが、経静脈栄養については経腸栄養のように早い段階では始めるべきではないという見解を示している。そして、治療開始時にすでに低栄養に陥っている場合を除き、当初1週間は投与カロリーの少ない栄養療法の実施が望ましいとされている。

本研究では、成人ICU患者のうち慢性的な低栄養ではないが(BMI 17以上)、栄養状態に問題が生ずる危険性のある患者を対象とし、死亡率と合併症発生率について経静脈栄養の晩期開始(米国およびカナダのガイドライン)と早期開始(ESPENガイドライン)との比較を行った。参加した全てのICUが経静脈栄養の早期開始を推奨するガイドラインに準拠して栄養療法を実施していたため、この研究を行うにあたって晩期開始群ではいつものやり方とは異なる方法を敢えて行うという形になった。本研究では、早い段階から経静脈栄養を開始して経腸栄養を補いカロリー不足に陥ることを防ぐと合併症発生率を減らすことができるのか、もしくは経静脈栄養を1週間後まで待って開始する方が臨床的に優れているのかどうかを検討した。

参考記事:重症患者の栄養ガイドライン①

教訓 経腸栄養だけではカロリーが足りないとき、ヨーロッパではICU入室後2日以内に経静脈栄養を開始することが推奨されています。一方、北米ではカロリーが足りなくても1週間後までは経静脈栄養は開始しない方がよいとされています。この研究では、ヨーロッパ式と北米式の比較が行われました。
コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。