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外傷患者救急搬送中の輸液で死亡率が上昇する~結果 [critical care]

Prehospital intravenous fluid administration is associated with higher mortality in trauma patients: a National Trauma Data Bank analysis.

Annals of Surgery 2011年2月号より

結果

米国外科学会全国外傷データバンク(NTDB)に登録されていた計1466887名の患者データから、病院前救護についての記録に遺漏の無かった776734名の情報を得た。対象患者集団は、若年層(年齢中央値36歳)の男性(64.7%)が多かった。白人が過半を占め(67.8%)、次いで黒人(17.1%)、ヒスパニック系(10.9%)が多かった。救急部到着時、9.9%の患者に貫通外傷が認められ、4.4%の患者が低血圧を呈していた。およそ半数(49.3%)が病院前静脈内群に分類された。全体の無調整死亡率は4.6%であった(Table 1)。

二変量解析の結果、静脈路確保が行われた症例は、行われなかった症例よりも気管挿管、ショックパンツ装着およびシーネ固定の実施率が高く、胸腔内減圧(胸腔穿刺)実施率は低かった(P<0.001)。貫通外傷患者の方が鈍的外傷患者よりも静脈内輸液実施率が高かった(P<0.001)。静脈路確保が行われた症例は、行われなかった症例よりも重症頭部外傷が多く、より重症であった(ISSで判定)。静脈路確保が行われた症例は、行われなかった症例よりも死亡率が高かった(4.8% vs 4.5%, P<0.001)(Table 2)。

データに遺漏の無かった311071名について、病院前静脈路確保と死亡率の相関について多変量ロジスティク回帰解析を行い検討した。交絡因子調整後の死亡率は、病院到着前に静脈路確保が行われていた群の方が行われていない群よりも有意に高く、静脈路確保の死亡オッズ比は1.11であった(95%信頼区間1.06-1.17)(Table 3)。両群から病院到着時死亡例を除外しても、静脈路確保群の方が有意に死亡率が高いという結果は揺るがなかった(オッズ比1.17、95%信頼区間1.11-1.23)。

サブグループ解析でも、静脈路確保によって死亡率が上昇するという相関はほぼすべてのサブグループにおいて一貫して認められた(Table 4およびFig. 1)。鈍的外傷、貫通外傷のいずれの群においても病院到着前の静脈路確保は有害であったが、貫通外傷症例の方が静脈路確保による死亡率上昇リスクが大きかった。血圧によって患者を分類して解析したところ、低血圧群では静脈路確保によって死亡率が上昇することが分かった(オッズ比1.44、95%信頼区間1.29-1.59)。一方、正常血圧群では静脈路確保を行った例と行わなかった例とのあいだに死亡率の差はなく、静脈路確保は何ら効能をもたらさなかった(オッズ比1.05、95%信頼区間0.99-1.11)。受傷機転と低血圧の組合せ(低血圧かつ鈍的外傷、低血圧かつ貫通外傷、低血圧かつ銃創のいずれか)で患者を分類して解析したところ、いずれの群においても静脈路確保が死亡率上昇につながることが分かった。重症頭部外傷症例(10909名)では、病院到着前に静脈路確保を行うと死亡リスクが34%増大することが明らかになった(オッズ比1.34、95%信頼区間1.17-1.54)。同様に、緊急手術を要した57294例においても、病院到着前に静脈路確保を行うと死亡リスクが35%増大するという結果が得られた(オッズ比1.35、95%信頼区間1.22-1.50)(Table 4およびFig. 1)。

中等度から重症外傷(ISS>8、ISS>15およびISS>24)の患者についての解析でも、病院到着前の静脈内輸液が有意に死亡率を上昇させることが分かった(それぞれオッズ比1.14, 95%信頼区間1.08-1.21、オッズ比1.17, 95%信頼区間1.11-1.24、オッズ比1.21, 95%信頼区間1.13-1.29)(Table 4およびFig. 1)。ISS9点未満の患者群(病院到着時死亡例を除く)では、静脈路確保群と非確保群とのあいだに死亡率の差は認められなかった(オッズ比0.89、95%信頼区間0.70-1.12)。

参考記事
輸液動態学 
正しい周術期輸液
急性肺傷害の輸液管理 少なめvs多め
敗血症性ショック:輸液量が多いほど死亡率が高い 
重症感染小児は輸液負荷で死亡率が上昇する

教訓 病院到着前に静脈路が確保された症例の方が死亡率が有意に高いという結果が得られました。いずれのサブグループでも同様に、静脈路確保群では死亡率が有意に高く、貫通外傷、低血圧、重症頭部外傷、緊急手術といったサブグループでは特に静脈路確保群の死亡率上昇が顕著でした。
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