SSブログ

重症感染小児は輸液負荷で死亡率が上昇する~考察② [critical care]

Mortality after Fluid Bolus in African Children with Severe Infection

NEJM online 2011年5月26日

本研究では、輸液負荷が有効であったサブグループは一つもなかった。患児登録基準として本研究で定めた条件の多くは、中等度低血圧や高度代謝性アシドーシスなど、ボーラス輸液実施可否についての重要な判断基準でもあることを踏まえると、この結果は衝撃的である。対象患児全員に維持輸液が投与され、国内ガイドラインで推奨されている標準的治療を受けた。血液製剤、キニンおよび抗菌薬投与の有無および投与時期は、全サブグループにおいて同等であった。輸液負荷の有無のみが、治療群と対照群との違いであった。輸液負荷には、早期死亡率(一時間以内)を低下させる効果はまったくなく、時間が経過するについてかえって死亡率を上昇させ、かつ、神経学的後遺症を防ぐ効果もないことから、アルブミン製剤であれ生食であれ、ボーラス輸液は百害あって一利なしであると考えられる。重症マラリア患児を対象とした小規模試験や、成人を対象としたSAFE研究(Saline versus Albumin Fluid Evaluation trial)の敗血症サブグループについての追加解析で得られた知見から、アルブミン製剤は生食よりも生理学的に有利であるという仮説が広がっている。しかし、輸液製剤の違いによる差は本研究では認められず、アルブミンが生食よりも有効であるという説を否定するエビデンスを提示することになった。生理学的失調の様態や原因微生物とは無関係に、あらゆるサブグループにおいて、輸液負荷が死亡率上昇につながるという結果が得られたことから、重症疾患の病態生理についての我々の理解に、根本的な問題があるのではないか、という重大な課題がつきつけられた。

本研究では輸液過剰による合併症が発生する症例もあろうと考え、肺水腫および頭蓋内圧亢進の発症を監視することを義務づけた。報告された有害事象は、割り当て群を関知しない外部委員会が全例監査した。また、全死亡例について肺水腫または頭蓋内圧の有無を同委員会が検討した。この過程で俎上に上げられた有害事象の件数は多くはなく、群間差は認められなかった。死因の大半には、そもそもの疾患の重症度が関与していると判断された。そうすると、ボーラス輸液が行われた患児の方がボーラス輸液が行われなかった患児よりも死亡率が高かった理由は何なのか?という疑問が生じてくる。我々は当初、死亡リスクが最も高い群、つまり、血行動態が最も不安定で代謝性アシドーシスが最も著しい群、においてボーラス輸液が一番高い有効性を発揮すると考えていた。ショックの程度は転帰不良の予測因子であることが示されている。しかし、ボーラス輸液が生存率に及ぼす影響について我々が得た結果は、このこととは一直線に結びつかない。ショック状態では血管が収縮し、非重要臓器への血流が減らすという防御反応が発動する。輸液負荷によってこの反応を急速に打ち消すことが有害であるという機序が、本研究の結果の背景として考えられる。ボーラス輸液はたとえ投与量が少なくても有害であるという知見には、他の機序も関与している可能性もある。例えば、再灌流傷害、臨床的には明らかにならない程度の肺コンプライアンス低下・心筋機能低下・頭蓋内圧上昇などである。

まとめ

医療資源が乏しい状況で治療を受ける低血圧のないショック患児に対する救命処置の一つとしてボーラス輸液が重要であると考えられている現状に、本研究の結果は見直しを迫っている。その他の状況における初期輸液に関するガイドラインについても同様に、その是非が問われることになった。

教訓 輸液負荷が有効であったサブグループは皆無でした。輸液負荷は、死亡率を上昇させ、かつ、神経学的後遺症を防ぐ効果もないことから、アルブミン製剤であれ生食であれ、ボーラス輸液は百害あって一利なしであると考えられます。

参考記事
輸液動態学 
正しい周術期輸液 
敗血症性ショック:輸液量が多いほど死亡率が高い 
外傷患者救急搬送中の輸液で死亡率が上昇する
コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。