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ALI&集中治療2010年の話題~新しい治療法 [critical care]

Update in Acute Lung Injury and Critical Care 2010

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2011年5月1日号より

新しい治療法と転帰

ALIの治療法の進歩
ALIの新しい治療法を評価した研究が数編発表された。ICU入室時に乳酸値上昇を呈した重症患者348名を対象とした多施設オープンラベル無作為化比較対照試験が行われ、乳酸値測定と、ICU入室8時間後まで乳酸値を2時間あたり20%以上低下させることを目標とした治療法の有効性が評価された。治療群では強力な治療アルゴリズムが適用されたにも関わらず、乳酸値の低下速度および低下幅は対照群と同程度であるという意外な結果が得られた。それでもしかし、驚くべきことに、乳酸値低下を目標とする治療が行われた患者群では院内死亡率が有意に低下し、対照群との絶対差は9.6%であった。さらに、治療群は対照群よりも臓器不全発生率が低く、人工呼吸器離脱およびICU退室も対照群より早かった。

ALI患者に対する筋弛緩薬使用の是非については未だ議論が続いている。筋弛緩薬を使用すると筋力低下が起こるのではないかと考えられている。ARDS患者340名を対象とした多施設二重盲検無作為化試験が行われ、シスアトラキュリウムまたは偽薬のいずれかを48時間投与し両群の臨床転帰が評価された。ICU在室中の筋力低下の発生率は同等であったが、28日後死亡率についてはシスアトラキュリウム群の方が偽薬群より有意に低かった(23.7% vs. 33.3%)。

重症患者に対する強化インスリン療法についても同じく依然として賛否両論が喧しい。小児重症熱傷症例を対象とした前向き無作為化試験では、成人ICU患者と異なる結果が得られ、インスリン強化療法によって小児重症熱傷患者の重症合併症の発生率が低下することが分かった。

ALIの転帰決定因子
ALIの転帰に影響をおよぼすと目される様々な機序についての臨床研究がいくつも行われている。ICUに収容され死亡した患者の組織生検についての研究では、脂肪細胞の新規形成数が増加していることが分かった。これは、ブドウ糖の取り込みと代謝およびトリグリセリドの貯蔵能が亢進していることを意味する。高血糖および脂質異常症があると重症患者の死亡率が上昇することが知られているので、脂肪細胞の増加は適応反応であり保護的に作用すると推測されている。別の研究では、重症患者のうち生存例ではミトコンドリアの生合成が早い段階で活性化されることが明らかにされた。このことによって、ミトコンドリアのタンパク減少が防がれることになり、エネルギー需給状態が維持されると考えられる。非生存者では以上のような機序が障害されているのであろう。FACTT(Fluids and Catheters Treatment Trial)の対象患者501名についての二次解析が行われ、ALI患者では肺血管に異常が認められることが珍しくなく、これが転帰不良の独立危険因子であることが明らかにされた。

ICUにおいて心肺停止に陥り蘇生が行われた患者を対象とした研究が行われ、心肺停止に至る前の昇圧薬投与量と転帰との関係が評価された。National Registry of Cardiopulmonary Resuscitationに登録された症例の中から該当する49656名の成人患者を得て解析が行われた。全体の生存退院率は15.9%であった。心肺蘇生が行われる以前に昇圧薬が投与されていた患者群の方が、昇圧薬が投与されていなかった患者群よりも生存率が低かった(9.3% vs 21.2%)。このデータは、心肺蘇生実施の同意を得る際に参考になるであろう。しかし、ある研究ではICUにおいて患者の代わりに意思決定を担う代理人に予後をはっきりと伝えたり、予後について医師と代理人のあいだで合意を形成したりするのは困難であることが明らかにされている。

Awakening and Breathing Controlled Trialの副研究が行われ、人工呼吸患者180名を、毎日鎮静を一時中断して覚醒させ自発呼吸試験を行う群か、従来通りの鎮静を行い自発呼吸試験を毎日行う群かのいずれかに無作為に割り当てた。その結果、退院3~12ヶ月後の認知機能、心理状態およびQOLは両群同等であることが明らかになった。

集中治療の供給最適化とALIに関する臨床試験
集中治療の現行の供給体系は進化の途上にあり、新しいモデルについての研究が目下進行中である。一般人口集団についての遡及的コホート研究で、ペンシルバニアに所在するICU 112施設に入室した107324名の患者を対象とした検討が行われ、多分野の専門家によるケアが行われ常駐医師が十分数確保されているICUでは死亡オッズが有意に低下するという結果が得られた。集中治療の供給体系については、これとは異なる組織モデルの有用性も指摘され、24時間365日専門医常駐、地域内医療施設の機能分化、遠隔医療、医療レベル改善の取り組み(地域内医療施設全体の協力による啓蒙活動、チェックリストの導入、プロトコル準拠治療など)の効果および注意点が報告されている。

ICUでは、医原性の有害事象が発生するリスクが高い。ICU 70施設のコホートを対象とした前向き観測研究では、報告された1192件の医療ミスのうち15.4%が臨床的に問題となる有害事象に発展したことが明らかにされている。そして、医療ミスによる有害事象が2件以上発生すると、ICU死亡率上昇の独立危険因子となることも分かった。医療ミス防止策を早急に構築する必要がある。NHLBIが主催した集学的研究会では、集中治療の供給体制と医療供給体制の最適化の関係および臨床研究の今後の展望が主要テーマとして取り上げられた。

教訓 乳酸値測定と、ICU入室8時間後まで乳酸値を2時間あたり20%以上低下させることを目標とした治療法の有効性が評価されました。治療群と対照群の乳酸値の低下速度および低下幅は同等でしたが、乳酸値低下を目標とする治療が行われた患者群では院内死亡率が有意に低下しました。さらに、治療群は対照群よりも臓器不全発生率が低く、人工呼吸器離脱およびICU退室も対照群より早いという意外な結果が得られました。 



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