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ALI&集中治療2010年の話題~ALIの病因① [critical care]

Update in Acute Lung Injury and Critical Care 2010

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2011年5月1日号より

ALIの病因解明における進歩

ALIの危険因子、早期診断および予防
ALIの発生予防は重要な研究テーマである。しかし、ALIを発症しそうな患者がどの患者なのかを予め知ることができないという問題が立ちはだかっている。単一施設で行われた観測研究で、ALI発症予測モデルである肺傷害予測スコア(Lung Injury Prediction Score; LIPS)の有用性が報告されている。このモデルでは、危険因子(高リスク外傷、高リスク手術、誤嚥、敗血症、ショック、肺炎および膵炎)とともにリスク修飾因子(アルコール乱用、低アルブミン血症、頻呼吸、酸素投与、化学療法、肥満および糖尿病)を組み合わせて点数化し、ALI発症の可能性を予測する。肺傷害予測スコア(LIPS)について22施設5584名の患者を対象とした多施設コホート観測研究が行われ、救急部受診当初にALIを既に発症している患者はごく稀であることが明らかにされた。そして、ALI発症リスクのある患者では、受診後数時間から数日後までに6.8%がALIを発症することが分かった。ALI発症頻度は元々の状態によってばらつきがあるが、LIPSモデルを用いるとALIを発症しそうな患者を早い段階で予測することができる。ALIを発症すると院内死亡率が有意に上昇するため、予防策の開発が非常に重要である。

WHOの報告では、インフルエンザが流行した昨年一年間に約300万~500万件の重症例が発生し、およそ25万~50万人が死亡したと推計されている。2009年にはH1N1新型インフルエンザ(A型インフルエンザ、H1N1/09)の流行が世界的規模で拡大し、医療上の極めて厳しい問題となった。H1N1インフルエンザによるウイルス性肺炎の確定例、疑い濃厚例および疑い例のうち人工呼吸を要する急性呼吸不全のためアルゼンチンに所在する集中治療部門35施設に収容された成人患者337名を対象とした発端コホート研究がおこなわれ、これらの症例の疫学、臨床像、転帰および死亡予測因子が明らかにされた。H1N1インフルエンザに関連する重症合併症発生率および死亡率は幸いにも、過去の世界的なインフルエンザ流行時と比べ有意に低いことが判明している。

悪性腫瘍患者は、治療の副作用による合併症の結果、急性呼吸不全に陥ることがある。これが悪性腫瘍患者の集中治療部入室理由の首位の座を占めており、こうなった場合の死亡率は高い。呼吸不全の原因が同定されない場合の転帰は、原因が特定される場合よりも不良であるため、早期に適切な診断を下すことが重要である。急性呼吸不全の早期診断における安全性と有効性に関して、非侵襲的検査のみの場合と、非侵襲的検査に気管支鏡検査またはBALを併せて行う場合を比較した多施設無作為化比較対照試験が行われた。大半の症例において、非侵襲的検査のみで診断が得られるという興味深い結果が得られた。しかし、対象患者の18%では気管支鏡検査もしくはBALを行わなければ診断を得られなかったことと、侵襲的検査を行っても合併症発生リスクや気管挿管率は上昇しなかったことから、本研究の著者らは、可能であればICU入室後早い段階で気管支鏡検査もしくはBALを非侵襲的検査と併せて行うべきであるという意見を示している。別の研究では、血液悪性疾患があり呼吸器系の症候が発生した場合に、初期の段階からCPAP療法を行うと人工呼吸を要する状態に陥るのを防ぐことができることが明らかにされた。CPAP療法は、血液悪性疾患患者における呼吸不全予防法となる可能性がある。

予防可能なALIの一つに、TRALI(transfusion-related acute lung injury;輸血関連肺傷害)がある。TRALIは輸血関連死の主要な原因である。したがって、重症TRALI発生の原因となりやすい抗原を突き止めることが、臨床的に重要である。多数の致死的TRALI症例の原因であるヒト好中球アロ抗原(HNA)-3aについて、色々な研究でその特性が明らかにされている。HNA-3aはコリントランスポータ様タンパク2遺伝子の一塩基多型によって生ずる。この一塩基多型によって154番目のアミノ酸に変異が起こると、HNA-3a特異抗体とのあいだに抗原抗体反応が発生する。別の研究では、HLAクラスⅡ抗体によるTRALI発生の生物学的機序が示されている。以上の成果を踏まえた新しいスクリーニング法を導入することによって、TRALIの発生を大幅に抑制することができると考えられる。

ミネソタ州オルムステッド郡で8年にわたり行われた研究で、ARDSの発生頻度が格段に低下したことが報告されている(10万人年あたり82.4例から38.9例に低下)。入院時ARDS発症例の減少数よりも院内発生のARDS症例数の減少数の方が大きかったことから、ARDSを引き起こす原因となる二次侵襲(セカンドヒット)、つまり高一回換気量による人工呼吸管理、多数回の輸血、同種免疫反応を引き起こす可能性のあるドナーの血漿製剤の投与、抗菌薬投与開始の遅延、敗血症患者に対するgoal-directed therapyなどがICUにおいて回避されたことが、ARDS発生頻度の低下につながったと推測されている。つまり、ARDSの発生頻度が大幅に低下した理由は、予防策の進歩に負うところが大きいと考えられる。

教訓 肺傷害予測スコア(Lung Injury Prediction Score; LIPS)は、危険因子(高リスク外傷、高リスク手術、誤嚥、敗血症、ショック、肺炎および膵炎)とともにリスク修飾因子(アルコール乱用、低アルブミン血症、頻呼吸、酸素投与、化学療法、肥満および糖尿病)を組み合わせて点数化してALI発症の可能性を予測します。

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