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外傷患者に対するトラネキサム酸の早期投与~考察② [critical care]

The importance of early treatment with tranexamic acid in bleeding trauma patients: an exploratory analysis of the CRASH-2 randomised controlled trial

THE LANCET 2011年3月26日号より

重症外傷症例では線溶が亢進し、早い段階から凝固能低下が起こり、それが死亡率上昇につながる。線溶機能は、フィブリン分解産物(FDP)を測定によって評価することができる。DダイマーはFDPの一部である。Brohiらは外傷患者では病院到着時点(病院到着までにかかった時間の中央値28分)ですでにDダイマー濃度が上昇していて、最重症患者のDダイマー濃度が最も高いことを明らかにしている。同様の結果は日本で行われた2009年の研究でも報告されている。この研究では、重症外傷症例連続314例を対象とし、FDPとDダイマーの測定が行われた。受傷後早期からの線溶亢進が出血を増悪させ死亡リスクを上昇させるのであれば、トラネキサム酸をはじめとする抗線溶薬は受傷後早期に投与すると最も大きな効果が得られると考えられる。

我々はトラネキサム酸を投与するなら早期であるほど効果が高いであろうと当初から予測していたが、受傷3時間後以降にトラネキサム酸を投与した患者群において出血死リスクが上昇したのは予想外であり、現時点でその背景を説明することはできない。しかし、受傷後晩期の外傷患者においては、DICが起こりはじめ血栓が発生し、抗線溶薬はここに至っては禁忌である可能性がある。DICの特徴はフィブリン形成と凝固であり、凝固因子が急速に消費されて枯渇し、制御不能の出血に陥る可能性がある。受傷後晩期には抗線溶薬の投与を控えるべきであるため、本研究では対象患者を受傷後8時間以内の患者に限ったのである。血栓形成傾向へと変化するタイミングが従来予想されていたよりも早い段階で訪れる可能性がある件については、議論を重ねるとともに、さらなる研究の深化が求められる。そして、受傷後何時間も経ってから病院へ辿り着いた患者は、直ちに搬送されてきた患者とは状態が異なる可能性があるということを我々は心に留めておかなければならない。病院到着までの時間が延長するほど低体温やアシドーシスの発生頻度が高いことが、その一例である。トラネキサム酸を受傷後遅れて投与すると効果が得られないのは、この例やその他の差違に起因する可能性がある。

無作為化比較対照試験についての体系的総説が2011年に発表され、その中で、トラネキサム酸は出血を呈する外傷患者の死亡率を低下させる安全な薬剤であると結論づけられている。我々の研究で得られた結果は、出血を呈する外傷患者においてはトラネキサム酸の早期投与の重要性を強力に裏付けるものであり、外傷診療にはトラネキサム酸投与についての推奨事項(パネル参照)を組み込むべきである。受傷後数時間経ってから病院に到着した患者においては、トラネキサム酸の効果がそれほど高くなく、場合によっては有害である可能性も考えられることから、症例ごとにトラネキサム酸投与による利害得失を慎重に評価しなければならない。受傷後早期には線溶亢進による凝固能低下が起こることを示した諸研究を裏付ける結果が、今回のサブグループ解析でも得られた。これはつまり、トラネキサム酸は線溶を抑制することによって止血能を改善し、外傷患者の死亡率を低下させるという仮説が妥当であることを示している。

CRASH-2試験のデータを用いて現在行われている研究では、出血死の予測モデルが構築されることになっている。受傷当初の出血死リスクの多寡によるトラネキサム酸の効果の違いを解析する暁には、このモデルが力を発揮するであろう。

教訓 受傷3時間後以降にトラネキサム酸を投与した患者群に場合、出血死リスクが上昇しました。その理由は不明ですが、受傷後数時間以上経つとDICが起こりはじめるからなのかもしれません。受傷後晩期には抗線溶薬の投与を控えるべきであるため、本研究では対象患者を受傷後8時間以内の患者に限りましたが、血栓形成傾向へと変化するタイミングが従来予想されていたよりも早い段階で訪れる可能性があると考えられました。この点についてはさらに検討する必要があります。
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