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低酸素症と炎症⑥ [critical care]

Hypoxia and Inflammation

NEJM 2011年2月17日号より

感染

病原体に感染すると、HIF(低酸素誘導性転写因子)が安定化し、HIF依存性遺伝子が誘導される。例えばBartonella henselae(細菌性血管腫の原因となる細菌)に感染するとHIF-1αが安定化し、通常は低酸素環境下で転写される遺伝子の転写が起こる。Bartonella henselae感染細胞においては、酸素消費量の変化だけでなく、細胞内低酸素や細胞内ATP減少も、HIFの安定化および血管新生因子の放出に関与している。感染時のHIF安定化も、非感染時と同様に酸素依存性であると考えられている。例えば、正常酸素分圧下で細菌が鉄を取り込むと、PHD(プロリン水酸化酵素)活性が低下し、HIF-1αが安定化し、HIFの標的遺伝子の発現が誘導される。慢性C型肝炎患者の肝生検検体、黄色ブドウ球菌・水痘帯状疱疹ウイルス・ヒトヘルペスウイルス8型またはカンジダによる皮膚感染患者の皮膚生検検体でも、HIF-1αの安定化が観察されている。

病原体は宿主のHIF経路を乗っ取り、病原体自らに都合良く利用することがある。緑膿菌は、宿主細胞がHIF依存性に産生するアデノシンを急速に不活化する。その結果、宿主の上皮細胞は、炎症発生時や低酸素下における腸バリア機能を促進する信号伝達を担う細胞外アデノシンを利用することができなくなる。

A群連鎖球菌または緑膿菌に感染すると、免疫細胞内のHIF-1αが炎症を引き起こす。この炎症は、細菌を排除するのに役立つ。HIF-1α欠損マウスでは、ミエロイド細胞の殺菌能が低下し、炎症が全身に波及するのを抑制することができない。

まとめ

低酸素症と炎症は分子、細胞および臨床の各レベルにおいて絡み合った事象として発生する。酸素応答メカニズムと低酸素シグナル伝達を標的とした炎症性疾患の治療法の開発が嘱望されている。このような新しい治療法の有効性は、急性肺傷害、心筋虚血、炎症性腸疾患または癌の患者において検証されることになるであろう。低酸素依存性シグナル伝達経路を標的とした治療法によって、大手術患者の虚血を原因とする臓器不全を改善したり、固形臓器移植後の低酸素による移植片の炎症を緩和したりすることができる可能性がある。

教訓 酸素応答メカニズムと低酸素シグナル伝達を標的とした炎症性疾患の新しい治療法が今後開発されるかもしれません。
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