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術後血糖管理~ストレス性高血糖 [critical care]

Glycemic Control in the Intensive Care Unit and during the Postoperative Period

Anesthesiology 2011年2月号より

ストレス性高血糖の発生機序

2型糖尿病とストレス性高血糖の発生機序には類似点があるものの、根本的には異なる。糖尿病では、インスリン抵抗性と膵β細胞からのインスリン分泌低下の組み合わせによって高血糖が起こる。ストレス性高血糖は、インスリン拮抗ホルモン(カテコラミン、成長ホルモン、コルチゾールなど)とサイトカインのあいだに複雑な相互作用が発生し、その結果、肝におけるブドウ糖生成量が過剰となるとともに末梢組織のインスリン抵抗性が上昇することが原因である(fig.1)。この非常に複雑な相互作用は、経過と共に大きく変化する。

肝からの放出されるブドウ糖は、主に糖新生によって作られ、一部はグリコーゲン分解によって生成される。糖新生を刺激する作用は、エピネフリンやコルチゾールよりもグルカゴンの方が強い。グリコーゲン分解は主にカテコラミンによって刺激されて起こり、エピネフリンやコルチゾールの作用がある限りグリコーゲンは分解され続ける。TNFαはグルカゴン生成を刺激する作用を介して糖新生を促進する可能性がある。末梢組織のインスリン抵抗性が増大すると、骨格筋および脂肪細胞がブドウ糖を吸収することができなくなる。GLUT4のインスリン信号伝達およびダウンレギュレーションが変化すると、このような現象が起こる。インスリンが肝臓のブドウ糖生成を抑制する作用が低下することを中枢組織のインスリン抵抗性と呼び習わす。ストレス下では、末梢組織のインスリン抵抗性と異なり、中枢組織のインスリン抵抗性にはあまり変化は生じない(fig.1)。

周術期にはブドウ糖再吸収が増加したり腎におけるブドウ糖排泄が低下したりすることが分かっていて、これが高血糖の一因であると考えられている。しかし、術後高血糖のもっとも大きな誘因は手術侵襲そのものである。手術侵襲によってサイトカインやインスリン拮抗ホルモンが引き金となってインスリン抵抗性が増大し、血糖値が上昇する。インスリン抵抗性増大の程度は、手術侵襲の規模や続いた時間の長さに左右される。術前および術中にすでにインスリン抵抗性が存在すると、糖尿病の有無や程度に関わらず、心臓手術および腹部大手術後の合併症発生リスクが上昇することが知られている。腹部大手術を受ける非糖尿病患者では、術前にブドウ糖を投与すると血糖値が低下しインスリン抵抗性が減弱することが明らかにされている。反対に、術後にブドウ糖を含む輸液製剤を投与すると、ブドウ糖非含有晶質液を使用した場合よりも血糖値が高くなる。糖尿病患者では、周術期におけるインスリン抵抗性の程度は、術前血糖管理の良否によって決まることが分かっている。術中にインスリン抵抗性を減弱させれば、大手術後の合併症発生率が低下する可能性がある。したがって、術前のブドウ糖投与(可能であれば炭水化物の経口投与、無理ならブドウ糖含有製剤の経静脈投与)を行い、大手術後当日はブドウ糖含有製剤の輸液を行わないという方法が望ましい。糖尿病患者では、術前にヘモグロビンA1cの測定を行い、血糖値管理の具合とインスリン抵抗性の評価を行うべきである。低体温、多量の出血、長時間の術前絶食および長期のベッド上安静を回避すると、周術期のインスリン抵抗性増強を防ぐ上で相乗効果を得ることができる。

麻酔中にブドウ糖代謝に影響を与える薬剤は、吸入麻酔薬のみであると考えられている。Tanakaらが報告した2009年の研究では、イソフルレンにはインスリン分泌を低下させる作用があり、そのためブドウ糖の体内利用状況に変化が生ずるという結果が得られている。

教訓 周術期のインスリン抵抗性増強を防ぐには、低体温、多量の出血、長時間の術前絶食および長期のベッド上安静を回避しなければなりません。イソフルレンにはインスリン分泌を低下させる作用があります。
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