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集中治療文献レビュー2010年10月 [critical care]

Anesthesia Literature Review

Anesthesiology 2010年10月号より

Rates of Major Depressive Disorder and Clinical Outcomes Following Traumatic Brain Injury. JAMA2010; 303: 1938-45

外傷性脳傷害(traumatic brain injury; TBI)の後遺症として鬱病が発生することは珍しくない。しかし、TBI後の鬱病の頻度、発症予測因子および転帰は不明である。

TBI発生から1年後までの期間における鬱病の発症頻度、発症予測因子および転帰について前向き調査を行った。軽症~重症のTBIがありレベル1外傷センターに収容された見当識のある成人患者(559名)を連続的に調査対象として登録し、受傷1-6ヶ月後、8ヶ月後および12ヶ月後の各時点において電話による追跡調査を実施した。

TBI発生1年後までのあいだに、鬱病診断基準に合致した患者は全体の53%を占めた。鬱病の発症には、年齢、性別、コカイン中毒、アルコール依存および受傷前の精神障害既往(抑鬱状態、PTSDなど)が強く関与することが分かった。鬱病を発症した患者は、発症しなかった患者と比較し、不安障害を呈する頻度が高かったが(60% vs. 7%; リスク比8.77)、抗不安薬を投与されたりカウンセリングを受けたりした症例はそのうち44%を占めるに過ぎなかった。受傷1年後のQOLは、鬱病群の方が非鬱病群より低かった。

解説
このコホート研究によって、TBI後には予想以上に鬱病発症率が高いことが明らかにされた。鬱病を発症した症例では、受傷後のQOLが不良である。TBI患者における鬱病の診断と治療を改善する努力を払う必要がある。

The Effect of Multidisciplinary Care Teams on Intensive Care Unit Mortality. Arch Intern Med 2010; 170: 369-76.

医師、看護婦、呼吸療法士および薬剤師によって構成される多職種管理チームの導入によって、複雑な病態を呈する重症患者の転帰が改善する可能性がある。しかし、この方法の採用を広く一般に促すほどのデータを示した研究はほとんど存在しない。

この遡及的多施設研究は、病院ごとの組織的調査の結果と患者の転帰データを用いて行われ、多職種管理チームの導入による重症患者コホート(107324名)の死亡率の変化が検証された。

対象ICUの内訳は、医師が少なく多職種管理チームが導入されていない施設(48.2%)、医師は少ないが多職種管理チームが導入されている施設(32.1%)、医師が多く多職種管理チームが導入されている施設(19.6%)であった。対象コホート全体の30日後死亡率は18.3%であった。患者特性および病院特性による調整を行ったところ、多職種管理チームの導入によって死亡のオッズ比が有意に低下することが分かった(オッズ比0.84)。集中治療専門医在籍の有無による層別化を行っても同様の結果が得られた。多職種管理チームが導入されていないICUの死亡オッズ比は0.78、医師は少ないが多職種管理チームが導入されているICUの死亡オッズ比は0.88であった。敗血症患者、人工呼吸患者、各疾患において最重症と分類される症例の各サブグループについての解析でも、同様の結果が得られた。

解説
この遡及的研究では、ICUに多職種管理チームを導入すると重症患者の死亡率が低下する可能性があることが明らかになった。医師が十分に配置されていなくても多職種管理チームを利用すれば死亡率が低下するかもしれない。多職種管理チームによる転帰改善の根拠については、前向き研究で検討する必要がある。

Efficacy of Corticosteroids in Community-acquired Pneumonia. A randomized double-blinded clinical trial. Am J Resp Crit Care Med 2010; 181: 975-82.

敗血症および敗血症性ショック患者における副腎皮質ステロイドの効果についての研究は、有効であるという結果を示すものもあれば、無効であるという結果も得られている。市中肺炎(CAP)における副腎皮質ステロイドの効果も、敗血症と同じようにまだよく分かっていない。

市中肺炎に対する副腎皮質ステロイドの有効性を評価するため、市中肺炎で入院した患者に通常の治療に加えプレドニゾロンまたは偽薬を投与する無作為化比較対照試験が行われた。対象患者には抗菌薬と、偽薬またはプレドニゾロン40mgが7日間投与された。肺炎重症度指標およびCURB-65(Confusion, 血清尿素窒素、呼吸数、血圧および年齢>64歳)を用いて重症度を判定した。

213名の患者が対象となった。CURB-65スコアが2点を超える症例が25.4%、肺炎重症度指標のクラスⅣ-Ⅴの症例が43.7%を占めた。ステロイド群と偽薬群の第7日および第30日における臨床的転帰は同等であった。入院期間は両群とも約10日であった。ステロイド群の方が偽薬群よりも、発症後晩期に至っても症候の改善が認められなかったり不変であったりする症例および入院72時間後における症候再燃の発生頻度はプレドニゾロン群の方が偽薬群よりも高かった(19.2% vs. 6.4%; P=0.04)。有害事象は極めて少なく、両群同等であった。

解説
この研究ではプレドニゾロン(1日40mgを1週間)を投与しても市中肺炎で入院した症例の転帰は改善しないことが明らかにされた。むしろ、非重症市中肺炎の発症後晩期の非治癒例はプレドニゾロン投与によって増える可能性がある。したがって、市中肺炎に対し抗菌薬とともにルーチーンでプレドニゾロンを投与すべきではない。

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