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無作為化比較対照試験との決別~失敗の理由① [critical care]

We should abandon randomized controlled trials in the intensive care unit

Critical Care Medicine 2010年10月号増刊より

なぜこれほど多くのRCTが「失敗」に終わるのか?

ICU領域におけるRCTのなかには有効性を示すことができなかったものが数多く存在する。有効性を示すに至らなかった理由として考え得るもののうち一部を以下に挙げる。

1) 当該治療法がそもそも無効であったのでは?
試験対象の治療法が単に本当に効かないだけ、というのももちろんあり得ることではある。だが、大半のRCTは有効性を裏付ける理論的背景および前臨床試験のデータによって有効である可能性が高いと考えられる治療法について行われている。だが、動物モデルがどんなに精巧なものであっても、臨床で遭遇する病態をなぞらえることは到底できない。それに、確実に効く治療法であっても、実際には有益性がないこともある。その典型的な実例が、頻繁に不整脈を呈する患者に対する抗不整脈薬の系統的使用である。抗不整脈薬を系統的分類に基づいて使用すれば突然死を防ぐことができると期待されたが、実際には死亡率が増加するという結果が得られた。

2) 検出力が足りなかったのでは?
ARDS患者に対する高PEEP、同じく重症ARDS患者に対する腹臥位などの研究では検出力が不足していたと考えられる。しかし、検出力不足が即ち有益性が証明されなかったことの理由とは考え難い。特に、有意差はないものの、有害であるという傾向が認められた研究では、有益性が証明されない理由を検出力不足に帰することはできない。敗血症性ショックに対する副腎皮質ステロイド療法(CORTICUS)研究がその好例である。この研究に対しては、標本数が十分でないという批判が向けられた。だが、CORTICUS研究ではステロイド投与群の方が対照群よりも死亡率がやや高いという結果が得られた。すなわち、標本数を増やしたとすれば、ステロイドが有益であるというよりむしろ有害であるという結果をより顕著に示すことになったかもしれない。現在、ほとんどのRCTでは目標とする結果を得るのに必要な患者数をはじき出すため、先行する臨床試験のデータを基に設計時点において予め検出力の計算が行われる。

3) 重症度の問題なのか?
重症度と治療の効き具合は、必ずしも比例しない。だから、疾患の重症度を臨床試験の対象症例の登録基準にするのは適切ではないのかもしれない。重症度と治療の効き具合の関係は、正比例ではなく逆U字形の曲線を示すが、新しい治療法が生存率におよぼす影響は重症度が最も低いか最も高い一群でしか検出することができない。これは、治療の成否に関わらず、最軽症の場合は患者が生存する可能性が極めて高く、最重症の場合は患者が死亡する可能性が極めて高いからである。重症敗血症に対する活性化プロテインCの有効性を評価したPROWESS研究においては死亡率の低下が認められたものの、ADDRESS研究Annaneらの研究およびCORTICUS研究では死亡率の低下が確認されなかったのは、部分的にせよ以上のような事情が関与しているせいであると考えられる。

4) 治療実施時期は的確であったのか?
臨床試験では、すでにICU期間が長期化している患者と、ICUに入室したばかりの患者が一緒くたに対象症例として扱われることが多い。入室後間もなく発症する患者と、入室後しばらくしてから発症する患者とでは転帰が異なるかもしれないといった事情は勘案されない。例えば、Sakrらは、ICU入室後間もなくショックに陥った患者と比べ、入室後しばらくしてから(ICU入室後2日以上経ってから)ショックに陥った患者の方が死亡率が高いことを明らかにしている。しかし、こういった違いが必ずしもすべての疾患や病態に当てはまるわけではない。ARDSについて言えば、ICU入室後のいつの時点で発症しようが死亡率は変わらない。

教訓 ARDS患者に対する高PEEPや腹臥位についての研究では検出力が不足していた可能性がありますが、最近の研究では予め検出力を算出して必要症例数を弾き出すので、検出力不足が有効性を示すことができない理由にはなりにくいと考えられます。
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