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VAPの新しい課題と論点~早期気管切開 [critical care]

New Issues and Controversies in the Prevention of Ventilator-associated Pneumonia

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2010年10月1日号より

ガイドラインで言及はされているが推奨されていない方法

早期気管切開

気管挿管が長期化すると、喉頭傷害や気管狭窄が起こることがある。気管挿管が長期間におよぶと見込まれる場合にこのような合併症を回避するための策として、早期気管切開が提唱されている。

早期気管切開によってVAP発生頻度が低下するという結果を示す研究もあれば、低下しないという報告もある。Griffithsらは、計382名を対象とした5編の無作為化もしくは準無作為化比較対照試験についてメタ分析を行い、早期気管切開と、晩期気管切開もしくは長期気管挿管とを比較した。早期気管切開(気管挿管下の人工呼吸開始から7日以内の気管切開)を行ってもVAPリスク(相対危険度0.90; 95%CI, 0.66-1.21)および死亡率(相対危険度0.79; 95%CI, 0.45-1.39)は有意には低下しないという結果が得られた。しかし、早期気管切開が行われると、人工呼吸期間(差の平均, -8.5日; 95%CI, -15.3日~-1.7日)およびICU滞在日数(差の平均, -15.3日; 95%CI, -24.6日~-6.1日)については有意な短縮が認められた。

このメタ分析に続き、Blotらは人工呼吸期間が7日以上におよぶと予測される患者125名を対象とした研究を行った。この研究では、対象患者が長期気管挿管群もしくは早期(4日以内)気管切開群のいずれかに無作為に割り当てられた。死亡率、VAP発生頻度、人工呼吸期間、ICU滞在期間、鎮静薬使用量、喉頭もしくは気管合併症発生率について、両群間に有意差は認められなかった。気管切開によって得られる利点は、快適性が優れている点のみであった。

Durbinらは先頃、計641名を対象とした7編の無作為化もしくは準無作為化比較対照試験についてメタ分析を行い、早期気管切開と、晩期気管切開もしくは長期気管挿管とを比較した。肺炎および死亡率のリスクについては有意差は認められなかった。しかし、早期気管切開(人工呼吸開始から5日以内)と晩期気管切開を比較した3編の無作為化比較対照試験のみに限って分析したところ、晩期気管切開群と比べ早期気管切開群では死亡率が低下し(オッズ比0.40; 95% CI, 0.25-0.97)、ICU滞在期間が短縮する(-10.96日; 95%CI, -17.42日~-4.38日)ことが明らかになった。

Veenithらは、英国に所在する228か所のICUにおける気管切開の実態を調査した。外科的気管切開術よりも経皮気管切開術に対する選好度の方が高く、調査対象ICUの92%において経皮的気管切開が行われている。気管切開の実施時期にはばらつきが認められた。対象施設の82%では、人工呼吸開始から10日以内に気管切開が行われていることが分かった。

早期気管切開によって、人工呼吸期間およびICU滞在期間が短縮し、死亡率が低下し、患者の快適性が増すことが以上に紹介した各メタ分析で示されている。したがって、人工呼吸期間が7日以上におよぶと予測される患者に対する早期気管切開の実施について、我々は「一考に値する」と決定した。しかし、早期気管切開によってVAP発生率が低下することを示した研究はまだ存在しない。また、長期の気管挿管を要する患者を正しく予測しなければならないという重大な問題も孕んでいる。Durbinらのレビューでは、重症患者の気管切開実施時期を決定するのに用いるアルゴリズムが紹介されている。このアルゴリズムでは以下のような状況が想定されている:上気道狭窄、GCS 6点以下の神経疾患、C4以上の脊髄損傷、自律神経異常または呼吸器系基礎疾患を伴う急性神経筋疾患、第7病日においてARDSスコア2.5点以上、皮下組織まで達した広範囲の熱傷もしくは重度の感染を伴う熱傷。

教訓 人工呼吸期間が7日以上におよぶと予測される患者に対しては、早期気管切開の実施は一考に値します。しかし、早期気管切開によってVAP発生率が低下することは確認されていません。気管挿管が長期化しそうな患者を正しく予測する必要があります。
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