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VAPの新しい課題と論点~カフ圧自動制御、Lotrach [critical care]

New Issues and Controversies in the Prevention of Ventilator-associated Pneumonia

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2010年10月1日号より

ガイドラインで検討されていない方法②

気管チューブカフ圧の持続監視装置

声門下分泌物が下気道へたれ込むのを防ぐには、カフ圧を最適な状態に維持するという方法もある。気管をしっかり密閉し、口腔咽頭内にたまった分泌物が下気道へたれ込ませない圧をカフ圧が下回らないようにしなければならない。Relloらが行った研究では、カフ圧が持続的に20cmH2O未満であった症例ではVAP発生率が高い傾向が認められている(相対危険度2.57; 95%CI, 0.78-8.03)。気管挿管されていて抗菌薬を投与されていない患者において、カフ圧が持続的に20cmH2O未満であるとVAPの独立危険因子となる(相対危険度4.23; 95%CI, 1.12-15.92)。また、気管損傷を防ぐため、カフ圧は30cmH2Oを超えてはならないことも明らかにされている。

Valenciaらは142名の人工呼吸患者を、カフ圧自動制御装置(その時のカフ圧が画面上に常に表示される)を用いる群か手動カフ圧計でカフ圧を調整する群かのいずれかに無作為に割り当てた。手動カフ圧計使用群では、8時間おきまたはリーク音が聴取されたときにカフ圧の確認を行った。手動カフ圧計使用群と比べカフ圧自動制御装置使用群の方が、カフ圧が20cmH2Oを下回る頻度が少なかった(測定回数のうち45.3% vs 0.7%; P<0.001)。しかし、臨床診断基準によるVAP症例発生率、細菌検査によるVAP確定診断症例発生率、ICU死亡率、院内死亡率、ICU滞在期間および入院期間については有意差は認められなかった。以上から、カフ圧は20~30cmH2Oに維持するべきである。自動制御装置を用いるとカフ圧を正確に管理することができるが、エビデンスが十分には蓄積されていないためその使用の可否について確定的な推奨事項を導くことはできない。

SSD機能およびカフ圧維持機能搭載低容量/低圧カフ付き気管チューブ

他にもVAPの発生頻度低下を目指して設計された気管チューブがある(Lotrach; Venner Capital, Singapore)。このチューブは下気道への声門下分泌物のたれ込みを防ぐため以下のような機能が搭載されている;SSD; 低容量/低圧カフ; カフ圧を一定に維持する装置。既に本レビューで触れたとおり、従来のHVLPカフを気管内で膨らませると、余ったカフ素材が皺を作りそこに通路ができてしまう。すると、カフ上部に溜まった声門下分泌物は皺が寄ってできた通路から下気道へとたれ込み、VAPが発生する。低容量/低圧カフ(よくのびるシリコンでできている)には、従来のHVLPカフよりも皺を作りにくいという利点がある。Youngらは、実験モデルおよび麻酔のかかった重症患者にこの気管チューブ(Lotrach)を用い、従来の気管チューブと比べて誤嚥が少ないことを明らかにした。しかし、この研究ではVAPについてのデータは報告されていない。したがって、VAP予防を目的としたこのような気管チューブの使用可否について、確定的な推奨事項を導くことはできない。

教訓 気管挿管されていて抗菌薬を投与されていない患者において、カフ圧<20cmH2Oが続くとVAPの独立危険因子になります。気管損傷を防ぐため、カフ圧は30cmH2Oを超えないようにしなければなりません。Lotrachを用いると誤嚥は減るようですがVAPを予防できるかどうかは不明です。
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