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乳酸を指標とする初期治療の効果~方法 [critical care]

Early Lactate-Guided Therapy in Intensive Care Unit Patients

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2010年9月15日号より

方法

対象患者

オランダに所在する4か所の混合ICU(大学病院が1施設、大学関連病院が3施設)において2006年2月から2008年3月にかけて患者を募った。ICU入室時に血中乳酸濃度が3.0mEq/L以上の患者全員を登録候補とした。肝不全(プロトロンビン時間>15秒またはINR 1.5以上で、肝性脳症によるなんらかの症状がある)、肝臓手術後、18歳未満、中心静脈カテーテル留置の禁忌、てんかん(ICU入室直前またはICU入室中に大発作が出現)、好気性代謝が行われているにも関わらず高乳酸血症を来す明らかな原因病態(担当医の判断による)もしくはDNRのいずれかに該当する場合を除外した。

研究設計

本研究は多施設オープンラベル無作為化対照試験であり、独立したデータ安全性監視委員会(DSMB)の監督下に行われた。研究に参加した全施設の倫理委員会によって研究プロトコルは承認された。対象患者の疾患特性が、急性の重症疾患であることから、研究参加の承諾を事後的に取得してもよいこととした。オランダでは、研究参加の同意取得以前に、研究手順が全て終了するか、または患者が死亡した場合は、得られたデータを全て患者の承諾なしに使用してもよいことになっている。

研究開始時点は、ICU入室直後の第一回目の乳酸値測定時とした。乳酸値を2時間につき少なくとも20%低下させる群または通常治療群のいずれかに患者を無作為に割り当て、初回乳酸値測定に引き続く8時間(治療期間)にわたり該当する治療法を行った。治療担当者には乳酸値は知らされなかった(初回値を除く)。その後、退院または死亡のいずれか先行する時点まで患者を追跡した(観測期間)。無作為化に当たり、施設および敗血症の有無によって層別化しブロックサイズ8例のブロック無作為化を行った。研究参加医師には、無作為化におけるブロックサイズは知らされなかった。

治療法

患者は、集中治療専門医が常駐するclosed ICUに収容され、割り当てられた治療法が行われた。両治療群とも、治療担当医が主治医としての責任を負い治療に当たった。Polonenらの研究に倣い、割り当てた治療法の実施期間を8時間に設定した。この8時間の治療が終了した後は、両群とも標準的な治療を行い、乳酸値の測定は割り当て群に関係なく担当医の判断によって実施された。

対照群では、最近のガイドラインで示されている標準的な急性期治療エンドポイントを満たすように血行動態の管理が行われた(Figure 1A)。具体的なエンドポイントの内容は、心拍数100bpm未満、平均動脈圧60mmHg以上、中心静脈圧8-12mmHg(人工呼吸中であれば12-15mmHg)、輸液負荷試験中の安全限界を見極めるのに中心静脈圧を連続的に測定し8-12mmHgを超えない、尿量0.5mL/kg/hr以上、動脈血酸素飽和度92%以上、ヘモグロビン濃度7.0g/dL以上(心筋虚血症例では10g/dL以上)とした。中心静脈血酸素飽和度および末梢循環の臨床的評価(皮膚触診や毛細血管再充満時間の測定など)は、指導医の判断によって随時行った。本研究で特に重要な点は、対照群の患者については治療期間中の乳酸値測定を不可としたことである。

乳酸値測定群(治療群)では、血中乳酸濃度を2時間ごとに測定した。対照群と同じように治療エンドポイントを設定した(Figure 1A)。治療群ではさらに付け加えて、乳酸値が2時間ごとに少なくとも20%低下するよう治療を行った(2編の先行研究で得られた知見に基づいて、目標とする乳酸値低下幅を最低20%に設定した)。乳酸値低下に関するエンドポイントを達成するための治療方針概要をFigure 1Bに示した。光ファイバプローブ(CeVOX; Pulsion Medical Systems AG, Munich, Germany)を用いて中心静脈血酸素飽和度を連続的に測定した。このプローブは、中心静脈カテーテルのルーメンから留置した。PinskyおよびVincentの提唱に従い、中心静脈血酸素飽和度を指標にして酸素需給バランスを維持した。中心静脈血酸素飽和度測定に用いたプローブは、8時間の治療期間が完了した時点で抜去した。中心静脈血酸素飽和度が70%以上でありながら乳酸値が2時間で20%以上低下しない場合には、血管拡張薬を投与し微小循環の改善を試みた (Figure 1B)。血管拡張薬投与開始に先立ち、輸液に対する反応を評価し、必要であれば輸液を行った。

データ収集

研究開始時、8、24、48および72時間後の各時点において、APACHEⅡスコアおよびSOFAスコア算出に必要な生化学データおよび臨床データを収集した。APACHEⅡスコアおよびSOFAスコアは、基準時点の情報として記録するとともに、8時間の治療期間後の転帰を評価するために用いた。研究開始時、8、24、48および72時間後の各時点において血中乳酸濃度、中心静脈圧、心拍数、平均動脈圧および尿量を記録した。中心静脈血酸素飽和度は、治療期間中においてのみ測定した。乳酸値の測定には動脈血検体を用いた。測定は検査部で行うか、そうでない場合は血ガス分析器(ABL 700; Radiometer, Copenhagen, Denmark)または携帯型乳酸測定器(Accutrend; Roche Diagnostics, Manheim, Germany)を用いて測定した。乳酸値測定群の患者については、血ガス分析器または携帯型測定器を用いて乳酸測定を行い、乳酸値低下を目標とした治療を迅速に開始することができるようにした。対照群の患者については、血液検体は検査部へ送り乳酸値を測定した。しかしその結果は治療担当者には知らされず、カルテにも記載しなかった。採血後、直ちに検査部へ検体を送った。試験管内で解糖が進み乳酸濃度が上昇し検査値に誤差が生ずるのを防ぐため、検査部で検体を受領した後、迅速に乳酸値測定を行った。輸液、強心薬、昇圧薬、血管拡張薬および血液製剤については、治療期間中は2時間ごと、治療期間終了後は、研究開始9~24時間後、25~48時間後および49~72時間後の各時点の使用状況を記録した。その他の治療内容(抗菌薬、副腎皮質ステロイド、手術など)については、研究開始0~8時間後、9~24時間後、25~48時間後および49~72時間後の各時点の実施状況を記録した。研究開始72時間後までに患者が退院した場合は、バイタルサイン、検査値および治療の実施内容の記録は行わなかった。研究開始から28日後までの人工呼吸期間(気管挿管による人工呼吸および非侵襲的人工呼吸)、腎代替療法(方式を問わない)および昇圧薬・強心薬投与についての情報を記録した。生存状況の追跡は、退院時までとした。

教訓 ICU入室時に乳酸値が高い(3.0mEq/L以上)患者を対象としました。EGDT+2時間で20%以上の乳酸値低下治療を行った群と、EGDTのみの群を比較しました。
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