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乳酸を指標とする初期治療の効果~はじめに [critical care]

Early Lactate-Guided Therapy in Intensive Care Unit Patients

American Journal of Respiratory and Critical Care Medicine 2010年9月15日号より

1843年にSchereは、血中乳酸濃度が高いと合併症発生率および死亡率が高いことを報告した。以後、この相関は広く知られるようになった。単回測定の乳酸値が高かったり、治療を行っても乳酸値がなかなか低下しなかったりすることは、予後不良であることを示す強力な予測因子であることが数多くの研究で示されている。乳酸値の予後予測因子としての威力は、重症患者となるに至った原因疾患の種類や、ショックまたは臓器不全の有無とは関係なく独立したものであることが明らかにされている。このことは一考に値する。

乳酸値が強力な予測因子であることが分かってから長い時間が経っているが、乳酸値の高い患者や乳酸値が低下しない患者に対して、どのような手段が有効なのかはまるで分かっていない。以前に行われた研究では、重症患者にジクロロ酢酸を投与し乳酸の代謝を改善すると、乳酸値は低下するが転帰は改善しないという結果が得られている。つまり、乳酸値が高かったり、なかなか下がらなかったりすると転帰が不良である原因は高乳酸血症そのものなのではなく、乳酸値上昇を引き起こす要因が関与している可能性が高いと考えられる。

動物実験および臨床研究のいずれにおいても、組織低酸素症が乳酸値上昇の原因であることが強調されている。乳酸値上昇を引き起こすほどの組織低酸素症では、酸素消費量が酸素供給量に応じて変化する。こうした先行研究の知見を踏まえ、乳酸値が高かったり、なかなか下がらなかったりする患者に対する治療方針として、酸素運搬量増加and/or酸素消費量減少により組織の酸素需要量と酸素供給量の均衡を維持することが有効である可能性がある。しかし、酸素需給バランスの破綻による嫌気性代謝とは異なる他の機序によっても血中乳酸値は上昇することがある。また、酸素消費量を低下させる方法はあまり効果的ではないと考えられる。文献的には、乳酸値低下を目標とした治療の有効性は、観測研究と酸素運搬量の最適化を企図する目標指向型治療の効果を検討した研究において、間接的に裏付けられているに過ぎない。後者の目標指向型治療はRiversらが行った画期的な研究である。この研究では、重症敗血症で乳酸値が高い患者に対し、血行動態と酸素運搬量の改善を目指す目標指向型早期治療を行うことによって転帰が改善することが示された。乳酸値の正常化を目指した治療戦略の有効性の検証を主な目的とした無作為化比較対照試験は、今までに単一施設研究が一編あるのみである。この研究では、乳酸値正常化を目指した治療によって合併症発生率が低下するという結果が得られたが、心臓手術後の患者のみが対象であるため、この結果をそのまま重症患者一般に敷衍するわけにはいかない。

今回の多施設研究の主目的は、ICU入室時に乳酸値が高い(3.0mEq/L以上)患者において、乳酸値を繰り返し測定し2時間以内に乳酸値が20%以上低下するように管理した場合に、乳酸値のモニタリングを行わなかった場合と比べて利点が得られるかどうかを検証することである。もう一つの目的は、臓器不全の発生状況、人工呼吸期間、強心薬・昇圧薬の使用状況、腎代替療法の実施状況およびICU滞在期間に乳酸値モニタリングが及ぼす影響を検証することである。

教訓 ジクロロ酢酸を投与し乳酸の代謝を改善しても、乳酸値は低下するが転帰は改善しないという結果が得られています。
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