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麻酔文献レビュー2010年9月① [anesthesiology]

Anesthesia Literature Review

Anesthesiology 2010年9月号より

Submaximal Cardiopulmonary Exercise Testing Predicts Complications and Hospital Length of Stay in Patients Undergoing Major Elective Surgery. Ann Surg. 2010 Mar;251(3):535-41.

現行の非心臓手術周術期リスク分類の方法は、術後合併症の発生を正確に予測するには精度が不足している可能性がある。さらに、リスク分類の手法が主観的であるとも言える。一方、運動負荷による心肺機能試験は非侵襲的かつ客観的な評価法であり、心肺機能の予備力とともに嫌気性代謝閾値(AT;有機的エネルギー産生に無機的代謝によるエネルギー産生が加わる直前の運動強度)も分かる。ATは死亡率を予測する精度の高い指標である。

本研究は、前向き単一施設コホート研究である。客観的非侵襲的方法である心肺予備能評価法と、術前聞き取り調査に基づく予備運動能評価法とを比較し、術後合併症リスク評価の精度を検討した。運動予備能が低い(7METs未満)と自己申告した患者(連続171名)について、運動負荷による心肺機能試験とVeterans Activity Score Index質問票による調査を実施した。術後第7日に合併症発生率を評価した。

二つ以上の合併症が発生した患者は、合併症がないか一つのみの患者と比べ、ATが低かった(9.1 vs 11.9; P=0.001)。ATの境界値を10.1mL/kg/minとしてリスク評価をした場合の合併症予測についての感度、特異度および正確度はいずれも高かった(それぞれ88%、79%およびAUC=0.85)。AT以外の合併症発生の独立予測因子は、Veterans Activity Score Indexと緊急再手術であった。運動負荷による心肺機能試験実施中に、重大な合併症が発生した症例は報告されなかった。

解説
術後合併症の予測は往々にして困難である。本論文の著者は、運動負荷による心肺機能試験は、聞き取りによる主観的な運動評価と比べ、予測精度が高いことを明らかにした。本研究のデータから、中~高リスク患者においては術前の運動負荷試験による合併症リスク評価が有用である可能性があると言えよう。

Effect of a 19-Item Surgical Safety Checklist During Urgent Operations in A Global Patient Population. Ann Surg. 2010 May;251(5):976-80.

WHOが打ち出した19項目で構成される手術安全チェックリストを導入すると、合併症および死亡症例が有意に低下することが明らかにされている。しかし、緊急手術のときのこのようなチェックリストを使用すると、業務の進行に差し障りが生じ、治療が遅れる可能性がある。

そこで、WHOチェックリスト導入の影響を評価するため、世界各地に所在する8か所の病院において、導入前後の比較を行うため前向き研究を行った。緊急非心臓手術を受ける16歳以上の患者1750名を連続的に登録し、WHO手術安全チェックリスト導入前(842名)および導入後(908名)の臨床経過および転帰についてのデータを比較した。

合併症発生率、死亡率および概算出血量はいずれもチェックリスト導入後の方が有意に低下した。注目すべき点として、6つの安全確認項目の遵守度が、チェックリスト導入によって18.6%から50.7%へと向上したことが挙げられる(P<0.0001)。

解説
手術直前に簡便なチェックリストを用いると合併症が減ることを示すデータが次々と報告されている。本論文の著者らは、19項目で構成されるチェックリストを世界各地の病院において導入し、緊急手術症例における合併症発生率と死亡率が格段に低下したことを明らかにした。このチェックリストには、アレルギーの有無、手術部位、気道確保困難の可能性などについての簡単な質問が含まれている。あらゆる病院において、緊急手術を行う際にはこのようなチェックリストを用いるべきである。
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