SSブログ

CRPが高いほどARDSの転帰は良い~考察② [critical care]

Plasma C-Reactive Protein Levels Are Associated With Improved Outcome in ARDS

CHEST 2009年8月号より

CRPは様々なメカニズムによって好中球機能を阻害する可能性がある。その一つに、CRPによるp38 MAPキナーゼ活性の阻害を介した経路がある。この機序によって、遊走刺激に呼応するのに必要な好中球信号伝達タンパクが減少する。他にも、ホスファチジルイノシトール3キナーゼ活性とCRPとの相互作用や、好中球の呼吸バーストがCRPによって抑制される機序などが指摘されている。さらに、in vitroで、ヒトCRPがヒト血清中における好中球遊走を阻害することも確認されている。一方、CRPには内皮やサーファクタントの機能を変化させる機能があることが指摘されているものの、CRPが肺傷害を引き起こしたり増悪させたりすることを示した研究はほとんどない。

Heuertzらは、ウサギ肺傷害モデルを用いた研究で、人工的な刺激を与えて血清中CRP濃度を上昇させると、好中球遊走が阻害され肺胞の炎症が改善することを明らかにした。同じグループの別の研究では、ウサギCRPが過剰発現するように遺伝子導入したマウスを用いた実験が行われ、このマウスでは肺傷害が生じても好中球の集積と肺胞からのタンパク漏出が軽度に止まることが示された。外からCRPを投与されたマウスの実験でも、同様の結果が得られている。Abernathyらは、ウサギ肺を用いた実験を行い、CRPが好中球刺激による血管透過性の亢進を抑制する作用を発揮することを明らかにした。

以上のように、基礎研究および動物モデル研究のどちらともで、CRPが増えると肺傷害が緩和される可能性があることを支持するデータが示されている。我々が実施した臨床研究では、ARDS患者においてCRPが保護的作用をもたらすという、一見奇異な知見が得られた。ここで紹介した実験データは、本研究が示す結果を裏付けるものと考えられる。以上に挙げた諸研究において、CRPを上昇させるために講じた手段はまちまちであったが、CRPに肺傷害抑制作用があるという結果においてはいずれも一致している。

我々は、本研究にいくつかの問題点があることを認めるに吝かではない。本研究のデザインが孕む限界を踏まえると、免疫抑制患者、ARDS危険因子のない患者、または本研究で取り上げることのできなかったARDS危険因子のある患者などの、本研究で対象となった集団とは異なる集団に、この結果を敷衍することは困難である。また、CRP測定を一時点のみでしか行うことができなかったため、CRP値の経時的変化を評価することはできなかった。他の複数の研究では、CRP値が経時的に低下しないことが、死亡率の上昇と相関する重要な指標であることが示されている。さらに、肺における炎症の程度を測定する手段をとらなかったため、循環血液中のCRPと肺の炎症の関係を評価することはできなかった。とは言え、CRP値と転帰とのあいだの相関は、いずれの解析方法においても有意で確固としたものであった。

本研究の対象コホートの登録条件に合致する患者であっても、ARDS発症後48時間以内の血液検体採取に間に合わず登録することができない症例もあった。このため選択バイアスが生じた可能性がある。残念ながら、臨床研究にはこのような問題が付きものである。特に、ARDSのような急性疾患の研究では、事実上全例で研究参加の同意を代理人から取得しなければならず、対象患者が発生する時間は昼夜を問わないし、登録可能なタイミングは短く設定されているので、選択バイアスが生じやすい。本研究では選択バイアスの影響を解決するため、研究に参加していない者による詳細な解析を行うとともに、多変量モデルを用いて特定の因子について調整し、得られた結果を広く敷衍することができるように努めた。それでも、選択バイアスが生じた可能性を否定することはできない。したがって、他の患者集団においても同様の結果が得られなければ、決定的な結論を導くことはできない。

まとめ

CRPは全身性炎症のマーカとして広く受け入れられてきたが、本研究で得られた知見によれば、ARDS患者ではCRP値が高いほど死亡率が低く、臓器不全が軽度で、人工呼吸期間も短い。我々が今回の研究で示した結果は、先行する基礎研究および動物モデル研究の知見とも平仄が合い、CRPに臓器保護作用がある可能性を示唆するものである。ただし無論のこと、他の患者群でも同様の結果が得られることを確認し、機序を明らかにすべくさらに研究を重ねる必要がある。本研究で得られた知見には広範囲にわたる意義がある。臨床分野では、CRP測定はたいていの施設で可能なため、予後を判定する手頃な指標として用いることができるかもしれない。研究分野では、CRPの役割が今後の研究テーマとなり得ると考えられる。CRPについての研究がさらに進めば、ヒトの疾患におけるCRPの役割についての常識を転換する必要が生ずるかもしれない。

教訓 動物実験では、人工的な刺激を与えて血清中CRP濃度を上昇させると、好中球遊走が阻害され肺胞の炎症が改善することが示されています。好中球刺激による血管透過性の亢進が、CRPによって抑制されることも明らかになっています。
コメント(0) 

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。