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CRPが高いほどARDSの転帰は良い~考察① [critical care]

Plasma C-Reactive Protein Levels Are Associated With Improved Outcome in ARDS

CHEST 2009年8月号より

考察

ARDS発症後早期の患者のうち、60日以上生存群では血漿CRP値が有意に高いことが明らかになった。この知見に加え、CRP値が高いほど、60日後死亡率が低く、臓器不全が少なく、人工呼吸器使用日数が短いという相関があることが分かった。

この研究の強みは、特徴がはっきりした前向きコホートを構築したことにある。ARDSの定義には、真に決定版と言えるものがない中で、広く用いられている米国-欧州合意協議会によるARDS の定義を適用したことによって、誤った診断によるバイアスが生ずるのを抑制することができた。血漿中CRP濃度の測定をARDS発症後早期の一時点一回限りとしたため標本数が少なくなってしまったが、だからこそ、治療方針や経過中の合併症によるバイアスの影響を抑えることができた。

CRPは炎症性マーカでありリスク評価に有用であると長らく考えられてきたが、本研究で得られた知見は、この捉え方とは矛盾する。周知の通り、CRPが冠動脈疾患の予後を予測するのに威力を発揮するということで耳目を集めたのは最近のことである。しかし、CRP上昇と冠動脈疾患の転帰不良とのあいだに強固な相関があることを示した研究がある一方で、それを否定する研究も報告されており、この件については未だに賛否両論が繰り広げられているのである。敗血症のような急性疾患や、その他の重症疾患についての研究では、CRPが高いほど転帰が不良であることが明らかにされている。だが、我々の管見の及ぶ限りでは、ARDSまたはALI患者におけるCRP値の意義を評価した研究はほぼ絶無に等しい。敗血症および敗血症性ショック患者を対象とした研究が行われ、CRPと転帰の相関が検証されている。対象症例のうちARDSを併発している症例が相当数を占めていたが、CRP値と転帰とのあいだにこれといった相関は認められていない。歴史を繙いてみると、バイオマーカとしてのCRPの有用性を明らかにすることを目的とした初期の研究は、その多くが敗血症新生児を対象として行われた。この手の研究のうち先鞭を付けたものの一つでは、敗血症新生児においてCRPが高いほど転帰が良好であるとされている。別の研究では、CRPが経時的に低下しない場合は転帰が不良であることが示されている。本研究では、第9および第10十分位に属するCRPが最も高い2群と、第1および第2十分位に属するCRPが最も低い2群との比較で、死亡率に最大の差が認められた。興味深い結果である。つまり、CRP値が予後と相関するのは、このようにCRPが極度に高かったり低かったりする場合に限られる、という別の解釈も成り立つ可能性がある。

CRP値と肺傷害の程度との関わりについての臨床データは不足しているが、CRPに肺を保護する作用があるかもしれないということは、生物学的に十分ありうる話である。よく知られているように、ARDS患者の肺には好中球が集積する。この好中球が、肺傷害を引き起こすにあたり中心的な役割を果たすと考えられている。まず、走化性因子の働きにより好中球が肺に集まり、次いで、活性化された好中球が様々な傷害物質を放出し、肺傷害が惹起される。そして、肺に集まった好中球は、アポトーシスの遅延により寿命が延長する。こうしてALI/ARDSの原因となる傷害がとめどなく繰り広げられることになるのである。確かにCRPは好中球遊走に関わる重要な作用を発揮するが、単に走化性因子としてのみ働くのではなく、その作用の全体像はもっと複雑である。20年以上前にBuchtaらは、CRPが低濃度では好中球の遊走を刺激し、高濃度では遊走を抑制することを明らかにした。さらに、遊走以外の好中球に特徴的な機能も、高濃度のCRPによって阻害されることも分かった。以上のデータは、CRPは高濃度であれば保護作用をもたらすという我々が得た知見を裏付けるものであると考えられる。しかも、CRP上昇が転帰悪化と相関するという他の研究で示された結果と齟齬することもない。というのも、このような研究の対象患者のCRP値は、我々の研究対象となった重症患者で認められたよりもかなり低かったからである。

教訓 CRP値が予後と相関するのはCRPが極度に高かったり低かったりする場合に限られるかもしれません。CRPは、低濃度では好中球の遊走を刺激し、高濃度では遊走を抑制することが明らかにされています。

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