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輸液動態学~臨床④ [anesthesiology]

Volume Kinetics for Infusion Fluids

Anesthesiology 2010年8月号より

イソフルランと「非機能的」水分分画

イソフルラン麻酔下のヒツジに0.9%食塩水を投与すると、輸液動態モデルから予測される排泄パターンと尿中排泄実測値とのあいだに、顕著な乖離が認められる。水分が非機能的分画(この分画には「サードスペース」という言葉が当てられることもある)に分布するせいで、このような乖離が生ずるものと解釈されている。水分の処理に異常を来すのは、人工呼吸のせいではなく、イソフルラン自体によるものである。

ヒトでも麻酔中にはこれと同様の事象が、軽度ではあるが認められる。甲状腺手術中の非機能的分画への水分分布速度は2.0-2.2mL/minである。使用する麻酔薬がプロポフォールであれイソフルランであれ、最終的には輸液量の20-23%が非機能的水分分画に分布する。このうちおよそ25%は不感蒸泄によって失われる水分量に当たると考えられる。

非機能的分画へ水分が分布するということは、投与された輸液量の一部分が排泄され得ないことを意味する。この水分が永久に排泄されないというわけではないが、少なくとも、非機能的分画への水分分布が観察されているその時においては、この水分が排泄されることはない。大腸直腸手術後一週間は、周術期に投与した晶質液の25-50%に当たる体重増加が認められる。非機能的分画への水分分布がこの体重増加の原因であると考えられる。

他の動態モデル

「輸液動態」という用語は、血漿希釈率を繰り返し計測し、(できれば)尿中排泄を計量し、そういったデータを基に水分の分布と排泄を数学的に解析する手法を指して使用されるべきである。水分の移動を解明することを目的としたモデルは、他にも数多く編み出されてきた。その多くは、質量保存の法則に立脚し、微小血管に関する変数および生理的変数については、ラット、イヌおよびヒトの研究で得られた固定値が使われている。Gyengeらが構築した全身モデルでは、0.9%食塩水を6分間でボーラス投与すると、88%が血漿内にとどまると予測される。この血中残存率の予測値は、輸液動態モデルで算出される値と一致している(fig. 6A)。Gyengeらのモデルでは、輸液負荷中および出血中における、一部の微小血管パラメータや尿中排泄の予測値を算出することも可能である。尿中排泄は血漿量増加率によって主に規定されるが、報告されているクリアランスは大半の輸液動態研究で示されている値よりも大きい。

イヌのデータを基にWolfが作り上げたモデルを用いると、0.9%食塩水投与中のVcからVtへのやや緩慢な水分移動を予測するのに役立つ。輸液動態で予測されるのと同様に、高張食塩水を投与した場合には分布速度が速くなることがこのモデルでも示されている。このように分布速度が上昇するのは、血管拡張により毛細血管濾過能が亢進するからである。

数理モデルを用いて麻酔および術中の水分移動の解析が行われることは稀である。しかし、Tataraらは生体インピーダンス法を活用し、手術時間が3時間を超えると傷害組織に浮腫が形成され、6時間を超えると間質浮腫の危険性が生ずることを示した。

教訓 。甲状腺手術中の非機能的分画への水分分布速度は2.0-2.2mL/minです。数理モデルを用いた解析では、手術時間が3時間を超えると傷害組織に浮腫が形成され、6時間を超えると間質浮腫の危険性が生ずるとされています。
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